消えない心



 レティスの子どもは自我と正義に満ち溢れた鳥だった。
魂だけの存在となっても、たちの旅について行きたいと言い張ったのだ。






『ボクはさんたちについて行くんだ!』


「でもあなたはまだ幼く、外は危険です。」


『外に出ないと立派な鳥になれないもん!』







生まれて早々、親子喧嘩を始めた神鳥たちを、たちは呆然として眺めていた。
どうでもいいが、場所を変えて喧嘩をしてほしい。
未だに姿が見えず、怪我の程度もわからないが心配でたまらないのだ。





『体がなくたって、さんたちの力を借りれば大空を飛ぶことだってできるさ!
 ね、さん!』


「いや・・・、さぁ・・・?」







 空なんぞ飛んだ言葉ないのに、ねさんとか話を振られても正直困るわけで。
レティスは手のかかる息子を呆れた表情(?)で見つめると、大きなため息をついて渋々好きにしなさいと言った。




「闇の世界の出口まで送りましょう。
 いいですか、さんはここにいますからね、しっかりと抱いておいてください。」



「そんなに彼女はひどいんですか!?」


「魔力が尽きて気を失っています。
 ・・・もう少しで消滅するところでした。」







 死ぬ、という単語ではなく、消滅とあえて言われたことに、たちは妙な引っ掛かりを感じた。
そこをわざわざ言い換える必要性がわからなかった。
ただ、死ぬということよりも厄介そうな、そんな嫌な予感はした。







『早く行こうよみんな!
 大丈夫だよ、空を飛びたいっていうみんなの思いが一緒になれば、あっちもこっちも行き放題だよ!』



「・・・あっしらこんなガキ・・・じゃない、雛鳥に任せていいんでがすか?
 神鳥にしてはちょっと軽い気がするんでがすけど・・・。」



「子どもだからでしょ。
 好奇心旺盛でやんちゃなのは、子どもの特権よ。」






 ゼシカは故郷のやんちゃ坊主2人を思い出しつつ答えた。
彼女にしても、幼いながらも神鳥と呼ばれるこの鳥が、こんなにもガキっぽいとは思いもしなかったのだが。
レティスはをゼシカに手渡すと、その大きな翼を広げた。
全員が乗ったことを確認し、闇の世界と光の世界とを繋ぐ渦のあるところまで飛んでいく。
たちを背中から下ろすと、今一度我が子を心配げに見つめた。






「ラプソーンの力は強大で邪悪です。
 くれぐれも気をつけて。」







 光の世界に帰ってきたたちは、ようやく姿を現したの疲労ぶりに度肝を抜かれたのだった。




























 空を飛ぶというのは、不思議な体験だった。
手足の感覚がないのだ。
かなりの高度で飛んでいるはずなのだが、息苦しさを感じることはなかった。
未だに足を踏み入れたことのない大地を見つけ着陸してみる。
神鳥の魂合体バージョンから解除された直後は、平衡感覚がいまいちハッキリしないが、それもすぐに慣れた。









「浅瀬や山に阻まれて行けなかった所も、空からだったらなんてことないんだね。」


「これだけ名高い鳥なら、猛禽類に襲われることもないし。」






 ざくざくと生い茂る獣道を掻き分けつつ、たちは大陸の中央部へと歩を進めていった。
色とりどりの世界が妙に懐かしい。






、本当に大丈夫なの?
 やっぱり少し休んだ方が良かったんじゃないかな。」


「ううんもう大丈夫だよ。
 さすがにまだバシバシ呪文は唱えられないけど、体は癒えてるから。」


「俺の愛のベホマのおかげだな。」


「はいはいわかったから。」






 茶々を入れるククールにすかさずツッコミを入れるゼシカ。
旅を続けていると、こんなにもコンビネーションが良くなるのだ。
と、わいわいやっている2人の前にバーサーカーが飛び出してきた。
咄嗟に武器を構えるたち。
しかし、バーサーカーに殺気や狂気はなかった。
むしろ、その瞳は穏やかな色を湛えてもいる。







「改心してるバーサーカーとか・・・。」


「こないだのお前の方が、よっぽど狂戦士だったぞ。」



「そういう性質の悪い冗談止めてくれる?
 しかも僕、全然覚えてないんだけど・・・。」







 バーサーカーはに近づくと、しきりに鎌で谷の方を指差した。
どうやら彼女を導こうとしているらしい。
たちの方を向き直ると、こくりと頷いた。
おとなしくバーサーカーについていくと、谷を囲むようにして大きな集落が現れた。
住民は人間と魔物のようで、争うことなく静かに暮らしていた。
バーサーカーが、片言の言葉で喋った。







「ここ、三角谷。
 人間と、魔物、一緒に住む。」






 バーサーカーは立ち止まると、そのままぴょんぴょんと跳ねたまま、その場から動かなくなった。
そこが彼のポジションのようで、谷に来る旅人を導くのが彼の役目なのだろう。






「なんじゃここは。
 ここならわしも堂々と外を歩けるわい。
 、わしについて来い!」



「あっ、王!?」







 好き勝手に谷を散策しだしたトロデ王。
さすがに一国の王たるものを放置するわけにもいかないので、結局はたちは団体行動になってしまうのだが。







「あ、じゃあ私先に宿を取ってくるね。
 えっと、今日は6人でいいのかな、王様も今日は一緒だし。」


「うむ、よろしく頼むぞ。」







 宿屋を訪ねると、客は珍しいそうで大歓迎してくれた。
そしてここには、古の賢者の一人が祀られていることを知った。
偉大な呪術師だったとかで、その一方で魔物を助けた心優しい人物という、稀有な人物だったらしい。
は気のいい宿屋の主人に礼を言うと、外へ出た。
1人の青年と目が合う。
おどおどとした、気の弱そうな優しげな目をした青年。






「チェルスさん・・・?」





 の呼びかけに、チェルスはにこりと笑って頷いた。



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