騎士の本懐




 見晴らしのいい女神像の麓にいたは、マルチェロの元にたちがやって来たのが見えていた。
何をしているのかはわからなかったし彼女自身、それを考えるほどの余裕は残っていなかった。
マルチェロと別れてから、頭が割れるように痛かった。
ほんの少しでも気を抜けば、手足がもぎ取られてしまう。
引きちぎられるような痛みがを襲っていた。
巡教の地と呼ばれるゴルドが、今やもっとも禍々しい土地と化していた。
邪気はどんどん大きくなり、を苦しめていく。
くずおれそうになる彼女を、唯一微かな光を放つ杖が支えていた。
皮肉にも、悪の化身となったマルチェロが渡した杖が、を持ち堪えさせていたのだ。






・・・、みんな・・・・・・。」






 マルチェロのいる壇上で、金色の光がほとばしった。
初めて見た光だったが、それはなんとなく力を与えてくれた。
しかしその直後、女神像に異変が起きた。
柔和な笑みを湛えていた女神の瞳が、紫色に鈍く光ったのだ。
パラパラと崩れ落ちてくる像の欠片がに降りかかる。
剥がれた像の中から、紫色の物体が見えた。
化けの皮が剥がれ落ちた。
美しい女神像の面影は、もはやどこにもなかった。
激しい地割れが起き、足元の地面に亀裂が入る。
まずい、と思った。
このままでは、地割れに飲み込まれる。
逃げ出したかったが、枷のように纏わりついてくる闇に力を奪われた体は、動いてくれなかった。
それに、頭痛は先ほどとは比べ物にならないくらい酷くなっていた。
助けを求めることもできない。
ここに来たら、たちも一緒に飲み込まれてしまうからだった。










「・・・っ!!」







 名前を呼ばれた気がした。
けれども、地面が、像が崩れ落ちる音でよく聞こえない。
は耳を澄ませた。
生きているものの気配を感じようとした。







「・・・!!」


「マルチェロ・・・さん・・・?」






 体中傷だらけのマルチェロが、どんどんに近づいてくる。
まだラプソーンに乗っ取られているのかと思い身を硬くしたが、それは杞憂に終わった。
マルチェロは強引にを立たせると、ずるずると引きずり出した。
その体のどこに人一人を引っ張る力があるのかと疑うほどに、力強かった。






「マルチェロさん・・・・・、逃げなきゃ・・・、死にますよ・・・・・・・?」



「だから、急いでいるだろう!」



「だったら・・・・・・、私を置いていけば、いいんじゃないですか・・・・・・?」






 の手を引くマルチェロの力が、さらに強くなった。
私は、とマルチェロは荒い息のもと呟いた。





「私は騎士だ・・・・・・。何を守るべきかぐらい、わかっている・・・・・っ!」






 あと少しで安全地帯へ行ける。
それまで黙ってついて来い。
マルチェロは前を向いたまま言うと、肩で大きく息をした。
傷が深いことぐらいわかっている。
人助けるほどによく出来た人間じゃないことも、重々承知の上だ。
あの生意気なガキから雷刀をモロに喰らったのだ。
今こうしていることが、どんなに体を痛めつける行為かもわかっていた。
普通だったら、潔く地底に落ちるか1人で逃げる。
だったから、せめて彼女だけは救おうとしたのだ。
ラプソーンとやらに心身を乗っ取られていた時でも、わずかに意識が残っていて良かった。
マルチェロは足を踏み出した。
地面が、割れた。





































 たちはレティスの力を借り、なんとかゴルド危険区域からの脱出をしていた。
生き残った人々は、地底に吸い込まれた人々を思い泣き叫んでいる。
たちは、早速を探し始めた。
彼女がゴルドにいることは確かなのだ。
ただ、見つけられなかった。
見つからないまま、ゴルドは崩れ落ちていった。





・・・、どこにいるんだ・・・?」






 死んだとは考えたくなかったし、第一そう思えなかった。
きっとどこかで自分たちの戦いを見て、勝利にほっとしているはず。
見ている場所は天国とか地獄じゃなくて、ちゃんとこの大地のはずだ。
は自分に言い聞かせ、瓦礫の中からもを探していた。
たとえあの時マルチェロがの名を呼んでいても、自分が見つけ出したかった。
嫉妬というのはこういうことを言うのだろう。
まさか、彼に嫉妬を抱くとは予想だにしなかった。























 「おいっ!?」






 ククールの叫びが大地に木霊した。
必死な顔をして、手を地下に向かって伸ばす。
ククールはもちろんも探していたが、マルチェロも探していた。
あの異母兄のことだ。
あっさりと死ぬなんてありえない。
ズタボロになっても、しぶとく生き延びる奴だ。




 確かに兄を見つけた。
思ったとおり、ズタボロだった。
たちとは離れて所で探していたが、遠くからうっすらと青い人影が見えた時には驚き、そして少し嬉しかった。
ほっとした顔は、すぐに険しいものになったが。
目の前で地面が崩れ、兄の体が思い切りへこんだ。
その後ろにいた少女の顔も驚きに変わった。
ククールは慌ててマルチェロの片手を掴んだ。
この手は絶対に離せなかった。
マルチェロの顔が歪んだ。







「・・・お前か。望みはだろう。」


「・・・絶対に手を離すな。も、いいな。」






 ククール、とは呟いた。
兄弟が手を取り合っている。
感動すべきだろうが、生憎と状況がそれを許さない。
ククールとしても、いかにが軽いとはいえ、2人を引っ張り上げるのは難しい。
片方だけはなんとか引き上げて力尽きるか。
あるいは、2人とも引き上げること叶わずか。
どちらにしても、が助からなかったらマルチェロも地下に飛び込むはずだ。
そうでなければ、ここまで酷い怪我を負いながらもを助けには行かない。







「・・・あんたにも、守りたいものはあったんだな!」


「・・・私も騎士だからな。お前のように多くの女ではない、1人だ。」


「そりゃ結構なことでっ!」






 ククールは渾身の力を込めてマルチェロの腕を引っ張った。
マルチェロが大人しくしていたのが良かった。
マルチェロの体が浮かび、平らな地面にへばりつく。
それでもほっとすることなく、彼はの腕を掴んだ。
あと少しで助けられる。
自分のような男でも、守ることはできるのだ。
それがとても嬉しかった。
残り僅かな力を振り絞り、を引き上げた。
ちょうどその時、はククールたち3人の姿を認めていた。
苦しげに顔をしかめているを見て、思わず叫んでいた。
マルチェロは微かに笑うと、に話しかけた。







「・・・辛い思いをさせて悪かった・・・。
 だが・・・、お前の助けは嬉しかった・・・・・。」



「マルチェロさん・・・、どこ行くんですか・・・・・・?」



「・・・・・・。あのガキはお前を心底大事に思っている。
 大切なものは手放すな。」







 マルチェロはゆらりと立ち上がり、指輪を外した。
ククールに向かって騎士団長の証である指輪を放り投げると、振り返ることのなく1人その場を後にした。








・・・・・。・・・・おかえり。」



「・・・・・・・・ただいま、。」







 不安げに、泣きそうな顔をしているを見つける。
近付いてきた温かな腕に抱かれ、は意識をなくした。



back next

DQⅧドリームに戻る