最後の戦い




 レティスから神鳥の杖を受け取ったたちは、物言わぬそれにわずかな期待も打ち砕かれていた。
やはり杖は杖でではないのだ。しゃべるわけがないのだ。






 「・・・が4本に分裂してる・・・」


「言うなゼシカ。リアルに想像しちまう」






 それぞれの手に託された小振りの杖のどこにが眠っているのかはわからない。
そもそも、杖の中へ戻るという概念すら理解できなかったのだ。
本当に彼女がこの中にいるかも怪しい。





「・・・は」





 がぽつりと口を開いた。
逢えないのは今だけだ。戦いが終わりすべてが片付けばまた逢える。
はそうなるとしか考えていなかった。
いや、それ以外の結末なんて考えられなかった。





に余計な負担かけさせないように、早くラプソーン倒そう。
 勝ったらみんな、トロデーンで宴会だよ!」






 先に進むことしかできないのであれば。
そうすることで彼女に逢えるのならば、空元気だって本物の元気に変えてみせる。
の目には、紫色の霧に覆われたラプソーンしか見えていなかった。









































 は上も下もわからない空間に放り出されていた。
肉体を動かすという感覚がなかった。
空気のような存在になっているのか、あるいは細かな粒子のごとく散ってしまったのか。
夢の世界にいる時とはまた違う感覚がを襲っていた。
もはや声すら出ない状態で、今見えているのが果たして目を通してなのか、それとも心の中で見ているのかさえも認識できない。
ただわかるのは、おそらくはもう地上に足をつけることはできないだろうという、ある種の確信だけだった。
人に、レティスに言われるまでもなくわかるのだ。
』という存在がなくなりつつあることに。
たとえラプソーンをたちが倒してくれたとしても、杖ごと消えてしまうという終焉を。








(もう、幽霊にもなれないや・・・)





 外で何かが起こっているのだろう。
急激な魔力の消耗を感じ、それから遥か昔に出会っていたかもしれない(らしい)古の七賢人の力を感じた。
抗いがたき眠気に襲われつつも、は心の中で懸命に呪文を思い描いた。
幽かなものでもいい、地上で戦うたちに届くようにと歌った。
願わくば彼らの力になるようにと強く念じた。
なすべきことを終えほっとしたのか、それから『』としての意識は深い深い淵へと落ちていった。










































 気のせいだったろうか。
杖と七賢人の力で結界を破ることに成功したは、ラプソーンの激しい炎を盾で庇いながら思った。
どこか遠いところでがいなくなった気がした。
いなくなるというよりも、もっともっと遠い場所へと行ってしまったような感じだった。
死闘、しかも最終決戦である今に考え事をするのは自殺行為に等しい。
しかしは思わずにはいられなかった。
早く彼女の存在を確かめたかった。






「行け! 俺らのことは構うな!」





 強烈な炎や吹雪に耐え、打撃攻撃に耐える光に包まれたの耳にククールの叫び声が入った。





「ククール、でも・・・っ!!」


「でももだってもないだろうが! お前が見たいのは何だ。暗い世界か、の笑顔かっ!?」


「それはもちろん「だったら行け! 未来を拓くのはお前だ!!」








 の身体が熱くなった。剣を握る手に力が入る。
レティスの背で戦う自分たちとラプソーンの距離は消して近くはない。
懐深くに飛び込み致命傷を与えるには長すぎる距離だ。
自由に羽ばたける翼が欲しい。に心の中で語りかけた。
彼女ならば持っているはずだ。真っ白な汚れなき天使の翼を。






「・・・、僕に力を貸して。僕に、願いを叶える翼をちょうだい」






 はレティスの背を強く蹴り跳躍した。
下は何もない。空を飛べなければ、ラプソーンを傷つけることもできず戦場を離脱してしまう。
は迷わなかった。真っ直ぐに倒すべき相手を見据えた。
身体が軽くなった。





















 ―――――――ラプソーンの目に映ったのは何だったのか。
軽やかに天を駆ける青年か、あるいは力強き竜の翼を宿した勇者か。
どちらであったにせよ、ラプソーンの辿る運命に変わりはなかった。
心臓深くに突き刺さった金色の刃を掴もうとして、その手は空を切る。
肩で荒い息を吐きながら剣を突き立てているは、一言低く呟いた。








「・・・ギガ、ブレイク」







 ラプソーンの口からどす黒い血が溢れ出る。
刃を抜いた心臓からも噴水のように命の欠片が流れていく。
は無言で剣を仕舞うと、迎えにやって来たレティスの背に飛び乗った。
闇色の霧が晴れ視界が明るくなる。
そしてその時初めて、ゼシカたちは気付いてしまった。
ラプソーンを倒し喜びに満ち溢れているはずのが、静かに涙していることに。
強く握り締めた手の中にある杖が、音もなく崩れ去っていたことに。







「・・・・・・切り拓いたはずの世界に、はいない・・・・・・っ!!」






 の悲痛な叫びと目から溢れる大粒の涙が、粉々になった杖へと落ちた。



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