時と翼と英雄たち

ダーマ    5





 究極の宝、悟りの書を求めいざガルナの塔へ。
リグたちはバースの掲げた目的に沿い早朝早くから、約一名眠い目を擦りつつではあったがガルナの塔潜入大作戦を敢行することになった。
実際には潜入など危ないことをするはずもなく、ダーマ神殿で修行を積む者たちの鍛錬の場となっている塔に真正面から入ったのだが。
気合いが入っているのは順番にエルファ、バース、ライム、リグ。
特にリグに至ってはぐっすりと眠っていたところをエルファの神殿内放送によって起こされたのだから堪ったものではない。
おかげで神殿中にリグの朝寝坊さが広まってしまったのだ。





「あのさ、ほんともう少し人の起こし方考えてくれるかな。あんなので起こされたら外も恥ずかしくて歩けない」


「何言ってるの。今もこうやってちゃんと外歩いてるじゃない。起こされたくないんだったら、もうちょっと早く寝なさい」


「ライムに何がわかるって言うんだよ。寝る前にも身体鍛えとかないとこの山道きつくなるだろ!?」


「そんなの誰だってやってるわよ」




 リグの反論は見事に崩されてしまった。
そして彼らは今、ガルナの塔の分岐点に立っていた。

































 「えっと、どっち行けばいいのかな。結構この塔の内部複雑そうだよね」





 3つに分かれた道を交互に見ながらエルファが呟いた。
修行者たちの鍛錬所になっており悟りの書がここに眠っているのだ、すぐに見つかるような簡単な構造になっているはずがない。
ひとまずリグたちはひとつの道を選んで歩いてみた。
彼らを待ち構えていたのは悟りの書でも修行者たちでもなく、魔物だった。






「うわっ、なんだよこの嘴のでかいの! 気持ち悪い」


「あぁ、それおおくちばし。突っつかれたら痛いから、呪文で攻撃することをおすすめする」


「早く言えよ!」





余裕の表情でベギラマを発動しているバースにリグは食って掛かった。
始めからそうならそうと言ってもらいたい。
リグは仕方なく魔物と距離を取ると、相手が近寄ってくるのを待った。
嘴が突進してくる。リグはタイミングを見計らって頭を引っ込めた。
どごっと彼の背中の方で音がした。
振り返って見てみると、おおくちばしの嘴が見事に床に突き刺さっている。




「さっすがリグ。頭はいいわね」


 嘴が突き刺さってもがく魔物をライムがぽーんと蹴り飛ばした。
綺麗な円を描いて飛んでいくおおくちばしは、それからすぐに視界から消えた。






「ちょっと奥を見てきたんだけど、アレがあったぜ、アレ」


「アレ?」


「そう、アレ。旅の扉。絶対怪しいって。階段じゃなくて、旅の扉がある時点で怪しいって」





 バースが指差したその先には確かに微かに渦を巻いている水のようなものが見える。
いつぞやアリアハンから出る時にお世話になった旅の扉とそっくりだ。
4人は顔を見合わせて頷き合った。
こんな所で立ち往生していては、また魔物が寄って来るだけだ。




「じゃ、先に俺とライム行っとくからすぐに来いよ。ここの魔物強くて、お前らいないと戦えないからな」



 リグはそう言い残すと早々に扉に吸い込まれていった。
私あれちょっと苦手なんだよね、と言いながらもライムもリグの後についていく。
元の場所にはエルファとバースだけが残った。
バースに促されてゆっくりと水の中に歩を進める。
身体が不思議な力に引き寄せられるようにして流されていくのは、心地良さすら感じる。
それは永い時を感じさせるような、ゆったりとした流れだった。




(おかしいな・・・。前入った時ってこんなのだったっけ・・・。)





 旅の扉の外にいたバースは中にいるエルファよりも先に異変に気付いていた。
リグたちが入った時とは明らかに扉から発する力が違った。
心なしか水も激しく波打っている。
慌ててバースもその中に入ろうとするが、何かに阻まれるようで近付く事すらできない。



「エルファっ、大丈夫か!? おかしなことになってる、旅の扉が暴走してる・・・!!」







 彼の声は悲しいかな、エルファに届く事はなかった。
ようやく波が静まり、バースも渦の中に足を踏み入れたが、そこにはリグとライムしかいなかった。

















 「あれ? エルファはまだ?」


「やっぱり来てないんだ。先にエルファを入らせたんだよ。でもエルファが入った途端に旅の扉がおかしくなって、明らかにリグたちの時と状況が違ったんだよ。
 それですぐにエルファを呼び戻すとしたんだけど」


「間に合わなかったのか?」


「そう。たぶんこの塔のどこかに飛ばされたんだと思うけど・・・」





 そう言うとバースは唇を噛んだ。
悟りの書がどうしても必要だ、悟りの書が自分を待っているとまで言ったのにエルファがどこかへ行ってしまった。
塔の中の魔物は強く、僧侶な上にただでさえ非力な彼女が独りでいるのは危険極まりない。
戦う術をほとんど持たない彼女は大抵戦闘の時は後方支援で、自ら前線に出て戦うということを知らない。
だからこそ、バースの不安は大きくなるばかりなのだ。
教えている呪文もちゃんと覚えているとは言いがたい。
いくら彼女自身が魔力が豊富で呪文を操ることに素質があっても、魔法使いの唱える呪文を今の段階で使うのは至難の業なのだ。




「探さないと、手遅れになる前にエルファを探さないと」


「でも当てはあるの? この塔は複雑な構造だって知ってるでしょ。そんなに簡単にエルファが見つかるわけでもないでしょう?」




 ライムの言う事はもっともだった。
ほとんど黙っていたリグが、ここで口を開いた。





「行こう。きっとエルファの方も困ってる。それに、もしかしたら悟りの書も見つかるかも」



「お前な、こういう時まで悟りの書って・・・」



「エルファ言ってただろ。悟りの書が自分を待ってるって。待ってんなら、エルファを強引に呼び寄せるっていうのもやるんじゃないの? 神様の認めるような子だったら尚更」





 リグは悪戯っぽく笑った。
自分で言って、なるほどと納得しているのかもしれない。
装備を確認すると、リグはライムとバースの戦闘に立って歩き出した。
今なら、エルファの居場所がすぐに見つかりそうな気がした。





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