時と翼と英雄たち


イシス    5





 砂漠の中に浮かび上がる都市イシスに別れを告げる前に、リグたちは女王に会いに行くことになった。
ピラミッドの入室許可からそこに眠る宝まで、彼女が手配をしてくれなければ今頃は墳墓侵入罪やら国家侮辱罪で牢に繋がれていたかもしれない。





「よく来てくれました。実は私もあなた・・・、リグと言いましたね、話したいことがあったのです」


「俺に?」





 リグたちを謁見していた女王はやおら立ち上がると、彼の前へやって来ると腰を屈めた。
いきなりの近距離で美人の顔を見て、リグは顔が赤くなるのが自分でもわかった。
少しの間、女王は彼の顔を見つめていた。
家族に共通する黒い髪に、父親譲りの黒い瞳。
その輝きはどんなものにも染まることのない、強い意志を秘めているように見える。
やがて女王は彼から離れると、微かに笑った。








「かつて、この国に1人の英雄、勇者と呼ばれる者が訪れました。彼の名はオルテガ。
 ・・・その頃はまだ先代の女王がこの国を治めていたのですが、私もその者の姿を見たことはあります。
 あなたにそっくり・・・。その髪も、瞳の強さも・・・、何にも屈することのない、その強さも」


「女王は俺の父がオルテガって知ってらしたんですか?」


「いいえ。けれどもあなたの姿を見たとき、もしかしたらと。
 彼もまた、ピラミッドに入ったそうです。それでも、今あなたたちが手にしている鍵を手に入れることは叶わなかった。
 ・・・あなたは本当にお父上に似ておられる。この世界を、この大地に生きる全てのものを守ってあげて下さい」


「父の遺志は俺が継ぎたいと思っています」





 リグの言葉を聞き、女王はふわりと微笑んだようだった。































 リグたちは地図と睨めっこをしながら次の行き先について話し合っていた。
どうやらイシス方面では、これより先に行っても何もないらしい。
南には大地が広がってはいるが、山脈が連なっていてとても人の足で歩いていけるようではない。





「どこでもいいけど、そろそろ船がないと移動が不便になってくるな。ずっと歩いて行けるわけでもないし」


「そうだよね。でも船ってどこにあるんだろう」





 バースとエルファが船の必要性に頭を抱えだした時、リグがとある事を思い出した。
それは思い出したくもない、あのロマリア王様体験事件でのことだった。






「ロマリアで王様やってた時に聞いたんだけど、ロマリアの辺りにどうしても開けられない扉があったんだって。
 その扉を守ってる兵の話によると、ポルトガとかという国に繋がってるって聞いたんだけど」


「ポルトガ? ・・・ああ、海に面してる国ね。船とかあったりするんじゃないの、地形的に」


「だろ? で、その時確かその国の産業が造船業とかって・・・」


「さすが俺らの頼れるリーダー! 伊達に暇潰しに王様業やってたわけじゃないんだな!!」






 褒めてはいなかった。
リグが引きつりそうになる顔をなんとか制御している横で、ライムとエルファが早速ルートの確認に入っている。
彼女たちの打ち出したプランは全てリグ任せのようで、まずは呪文を使いたがらないバースの代わりにリグがルーラでロマリアへ。
それからリグの記憶を頼りに扉の場所まで歩くというものだった。
計画の成功の鍵は、リグの呪文と記憶と勘が全てだった。
リグの周りに3人が集まる。
数秒間目を瞑っていたリグはゆっくりと目を開けると、呪文の詠唱に入った。
体から呪文の波動を感じる。
リグもあまり呪文を使わないし、ましてやルーラなど数えるほどにしか唱えたことがない。
体質的には呪文にもかなりの素質があるとバースに言われている、嘘か真かわからない言葉だけを信じて彼はロマリアと呟いた。
光に包まれた4人の体が宙に浮かび上がる。
数秒後、リグたちはロマリアの城門に立っていた。








あとがき(とつっこみ)

かなり短く簡潔に、淡々と終わらせてしまったイシス編。
書いてみれば、中身が・・・、ないですから。
女王様は大好きです。年齢いくつぐらいなんだろ・・・。
 

(修正後の感想)
女神様に愛されやすい体質のエルファですが、実はリグにしておいた方が彼の霊感体質からしてしっくりきたんじゃないかとか。
ピラミッドはこんなにさっくり纏められるほど簡単な場所ではなく、ゲームでは様々なドラマ(大体血まみれ)を見られる恐怖のスポットです。




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