イシス 4
並々ならぬ悲鳴の大きさで無事リグたちに発見されたエルファは、極度の疲労と恐怖で座り込んでいた。
「エルファ、何があったんだ? 怪我はっ!?」
どこかぼんやりとあらぬ方向を見つめているエルファの虚ろな瞳は、バースにがくがくと身体を揺さぶられてようやく我に返ったようだった。
いったい彼女の身に何かあったのだろうか。
外傷は特には見られない。意識もはっきりとしてきている。
「あ、あの・・・、すごく懐かしい感じの声で誰かに呼ばれて・・・。よくわからないんだけど、扉が開いた音がしたら魔物がたくさん・・・」
支離滅裂な発言をするエルファだったが、リグたちは無事にエルファが見つかってひと安心していた。
あんなにピラミッドに入るのを嫌がっていた彼女に限って何かあったら大変である。
彼女の言っていた声というのは気になりはしたが。
「エルファ、その声は女性の声だった?」
「うん。あったかくてね、害意は感じられなかったよ」
「そっか。きっとその声の主はこの地方を見守ってらっしゃる女神様だよ」
バースは壁画を見つめた。
エルファもつられるようにそちらを見つめる。
壁画に描いてある女神と呼ばれるその女性は、淡く微笑んでいるように見えた。
「この女神は昔からこの地方で信仰されてて、五穀豊穣とか、土地の豊かさを司る神様らしい。
ピラミッドはやっぱり昔からあるやつらしいから、女神が描かれたのもずいぶんと昔なんだろうな。ご利益ってすごいな」
「じゃあ女神様は神に仕えてるエルファに何か語りかけたって訳ことか」
「それはどうだかわかんないけど、そんなもんだと思う。俺らに起こらずにエルファに起こった現象だし」
そう言うと、バースはエルファを見つめた。
仮にリグの言ったことが正しいとしても、もしかしたらエルファには声だけじゃなく、姿も見えていたのかもしれない。
彼女が声だけと言ったから、そう思うだけなのかもしれないが。
エルファもまた、壁画の女神をじっと見つめていた。
今にも微笑みかけてくれそうな、そんな優しい表情をした女神だった。
魔法の鍵とは、特殊な呪文によって封印された扉を開けることのできるというまさしく魔法のような鍵だった。
なぜそんな鍵がここにあるのかはわからないが、この鍵を手にしたことで旅がより快適になるのは間違いない。
そんなに便利な鍵なら量産すればいいと言ったリグだったが、バースの話によれば、この鍵を作る技術はとうの昔に失われてしまったものらしい。
そもそもたくさんあったら、呪文でわざわざ封印する意味がない。
確かにバースが言うとおりだった。
「いくら女王様に許してもらったからって墓荒らしなんて、そんな事やっちゃ駄目だよ!! 鍵は手に入れたんだからもう帰ろう?」
「・・・まあ、呪われるのは勘弁したいからさすがに手はつけないけど。でもせっかくだし頂上までは行こうぜ。魔法の鍵の力ってのを見てみたい」
手に入れたばかりの魔法の鍵を使いピラミッドの頂上へと出たリグたちは、そこから望める景色に言葉を失くした。
一面黄土色の地面にちらほらと見られる緑の大地。
イシスの城もここからではとても小さく見える。
「この砂漠の先には何があるんだろ。今は山に囲まれて見えないけど、山を越えた先にも人は住んでるのかな」
「俺もエルファみたいに外に出たことないからよくわかんないけど、大地あるところに人はいるだろ。早く見つかるといいな、エルファを知ってる人」
「うん」
砂漠の熱気を含んだ風がリグたちに吹きつけた。