時と翼と英雄たち

海賊の館    5





 オーブの輝きが強くなる。
リグたちは海賊の館の外れにいた。
こんな建物の影になって、年中日が当たっていないようなじめじめした所にオーブがあるというのか。
ひどい扱われようである。
早速辺りの草むらを捜索してみるが、指を掠めるのは草や土ばかりだ。
どこにもオーブなんてありゃしない。






「ないじゃん、オーブ。」


「あるはずだよ。もうちょっと腰屈めて探してみるとかしたら?」


「じゃあエルファだってそうしろよ。」


「エルファのその白衣を土いじりで汚すつもりか? そりゃないぜ。」





 ぶつくさと文句ばかり垂れる彼らを止めるストッパーはいない。
なぜなら彼女は今、19年越しの姉との再会を果たしているのだ。
もちろんそれはリグたちには知る由もないのだが。
夜の草むらに座り込んだリグは、むすっとした顔で館を見つめた。
いったいいつまでドンチャン騒ぎをするつもりなのだ、この連中は。
客人(リグたち)の歓迎の宴だというのに主役はおらず、海賊を束ねるべき頭領もいない。
おそらく彼らは騒ぎたかっただけなのだろう。
何かと理由をつけて宴をする、自分たちはその日の口実となっただけなのだ。






「こんなに騒がしくちゃ眠れないって。」


「リグはお寝坊さんだからねぇ。
 でも見つかるまで、たぶん寝れないよ。」


「それはもっと困るけど・・・。
 おいバース、なに1人で肉食べてんだよ。」





 どこから運んできたのか、丸太のテーブルに切り株の椅子を用意し、優雅に夜食を食べているバースがいた。
ちょっと目を離すとすぐにこれだし、まるで戦力外だ。
こんなのが勇者を並び証される賢者だなんて、世も末だ。
しかも椅子は2脚しかないし、俺は地べたか。
バースは静かに茶を啜ると、リグの座っている辺りを指差した。




「そこらへんを基点にレミラーマ唱えてやるから、光ったとこを探してくれ。
 エルファ、一緒に休憩しよう、疲れたろ。」





 右手を頭の高さまで上げ、人差し指をくるりと天に向かって回す。
指先から現れた金色の輪が、宙に浮かび弾ける。
と、リグのもたれていた岩が金色に光った。
ついでに微かにエルファが光ったのだが、それは当人はおろかリグも気付かない。
わかったのは、呪文を唱えたバースだけだ。




「・・・なんだよ、この岩の下とか言うんじゃないだろうな。」


「俺の呪文を信じろって。大切なものはちゃんと光った。」




 エルファがぼんやり光った時、バースは苦笑を禁じえなかった。
やっぱり、という気持ちが強かったが。
この呪文はあまり人前では使えまい。
その度にエルファが光るのであれば、ばれたらなんて言われるかわからない。
変態扱いとかされたら、たまったもんじゃない。





「これ、動かせると思ってんのか? 岩だぞ。」


「勇者だろ、それくらいしろよ。」


「頑張れリグ。あ、私バイキルトかけたげるね。」


「おい、2人とも手伝おうって気はないのか?
 特にバース、お前鬼畜だろ絶対。」


「だって俺賢者だし。力仕事するような体の造りじゃないんだよなー、非常に残念なことに。」





 エルファがバイキルト、と唱える声がした。
腕にぐんと力が宿る。
なるほど、これなら岩も動かせそうな気がするが、やはり釈然としなかった。
最近まっとうな扱いを受けていない気がする。




「ささ、俺への怒りも岩への力に還元して。」


「自分で言うな、この外道賢者が!!」





 どっごーんと大きな音がして、岩が動いた。
数秒の沈黙の後、リグ力持ちだねーと賞賛するエルファの声が聞こえた。
リグは岩の下を見つめ、小さくため息をついた。
どこのどいつだ、こんな所に地下室を作った奴は。
地下室が埋まらないように、入り口にはご丁寧に蓋までしてある。
オーブはこの地下にあるのだろう。
リグは蓋をあっさりと取り去ると、相変わらず傍観者を決め込んでいたバースと、応援部隊エルファを手招きした。





「おー地下室。よく頑張ったなリグ。」


「どっかの誰かが小指の1本手伝ってくれなかったからな。
 おかげで俺は眠いぞ。」


「じゃ、早いとこオーブ頂いて休みますか。」






 リグは木箱に収められているレッドオーブをじっと見つめた。
暖かい色だと思った。
ライムやアイシャの髪の色と似ている気もした。
だからこそ、このオーブは長い歳月ここで見つけられるのを待っていたのかもしれない。





「てかさー、ライムは?」


「あ、まだいないね。アイシャさんと一緒かな。」


「これであの2人赤の他人だったら、またびっくりだな。」


「レッドオーブだから?」





 ほのぼのと、けれども賢者同士とか到底思われないような低レベルの会話をするバースとエルファ。
彼らの後ろを歩きつつ、リグはこれからの旅路を考えていた。
本来ならば100人力は下らない才能を秘めた賢者がこれなのだ。
ライムがいなくなったら、たちまちあらゆる能力が低下する。
バラモスはおろか、戦闘もおかしくなるかもしれない。
幼少時から密かに姉とも師とも慕っているライムの重要度は、半端ではなかった。
リグは、ライムの去就に運命を託していた。





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