海賊の館 6
いったいどれだけの時間が経ったのだろうか。
入り口から差し込む眩い光に晒され、リグはぼんやりと目を開けた。
なんだかんだでバースの言いなりになって地下室の上に被さっていた大岩を退かしたが、それで力尽きてしまったのだ。
地面に寝転がったまま左手を動かすと、ふわりと柔らかいものにぶつかった。
そのまま手をまさぐると、今度はさらさらとしたものに触れる。
果たして自分は何を触っているのかと、左側に体を向けた。
ぎょっとして飛び起きた。
どうして地下室でバースとエルファと3人、雑魚寝してるんだ。
男の癖してものすっごくきれいな髪質して。
しかも若干酒の臭いもする。
「なんなんだよ・・・。家の中で寝ろって・・・・・・。」
自分のことは棚に上げ、いつまでものうのうと寝入っているバースを蹴飛ばした。
いつも杖で突かれたりして起こされるのだから、このくらいは許されてしかるべきである。
いだっと情けない声を上げて、バースが跳ね起きた。
ぼうっとした顔で辺りを見回し、隣に横たわるエルファを見つめて首をかしげた。
どうやら現状をまだ把握しきっていないらしい。
「えーっと・・・? なんてここに寝てんだ?」
「大方1人で晩酌してたんだろ。ちょっと酒臭い。」
「げ、まじで? ものすごく水割りしたんだけど。
やっぱ海賊らのは強いのな。」
「エルファにも飲ませたのか? 起きないんだけど。」
リグは未だにすやすやと寝息を立てているエルファの肩を突いた。
せめて彼女ぐらいは、雑魚寝を断念してほしかった。
一緒にいるのが自分たちだからいいが、あまりにも無防備すぎる。
後でライムあたりに叱ってもらおうと、リグは心の中で決めた。
「・・・にしても、陽の高さからしてもう昼近いだろ。
オーブ頂いてさよならするつもりだったんだけどな。」
「へぇ、あたしら相手にこそ泥行為働こうなんて、なかなか度胸あるね。」
不意に頭上から凛とした声が降ってきた。
この声音、ライムと似ているがほんの少し違う。
アイシャの方が、いい意味で野生的だった。
何を掻っ攫うつもりだい? とアイシャは笑顔で問い詰めてきた。
笑顔ひとつにも凄みがある。
だからこそ、海賊一家を束ねられるのだろうが。
「オーブだよ。こればっかりはもらっとかないといけないし。」
「それは、あたしの妹の旅にも必要になるのかい?」
「妹・・・?」
リグの背後でん・・・、と眠たげな声がした。
ここにきて、ようやくエルファが目覚めたようだ。
経緯を知らない彼女は、アイシャの姿に戸惑っている。
そんな彼女に、オーブを持ってく話し合いをしてるんだよとバースが囁いた。
「ライムのことさ。本当はアリシアってんだけど、赤ん坊の時に生き別れた双子の妹なんだよ。」
「他人の空似とかじゃなくて?」
「正真正銘の姉妹だよ。親父の形見でもある対の短剣が教えてくれた。」
「そうなんだ・・・。」
それきり黙りこんだリグを横切り、アイシャは木箱の中に眠るオーブを手に取った。
妹もオーブのことは話していた。
正直スケールが大きすぎて、やや理解に苦しんだが。
バラモスとか、難しいことはよくわからない。
なかなかそうは見えないが、世界を旅する勇者一行だということはわかった。
そのたびにライムは欠かせないということも。
そして、世界に散らばっているオーブを集め不死鳥の力を借りなくてはいけないことも。
まさか、そのオーブの1つがここにあったとは思いもしなかったが。
オーブなんて、こんな所にあったって意味がない。
むしろ、その在り処を知られて敵に奪われることの方が恐ろしかった。
「・・・年下をいじめちゃいけないね。いいよ、持ってお行き。
うちにあるよりも、あんたらに渡しといた方が良さそうだ。」
「・・・アイシャさん・・・。俺、年下扱い嫌いなんだけど。」
「ははっ、そりゃ悪かったね。んじゃ出航といきますか!」
座り込んでいるエルファにオーブを手渡すと、アイシャは手をぱちんと叩いた。
出航と聞きぽかんとしているリグたちを地下室から追い出す。
充分に高く登りきった太陽に照らされ、思わず目を細める。
絶好の航海日和だねぇと背伸びをしているアイシャを眺めた。
さっきから航海航海と、今から仕事に出かけるのだろうか。
そう思っていると、いきなりアイシャがリグの方を振り向いた。
「ここで会ったのも何かの縁。海での見聞を広めてもらうためにも、ルザミに行くよ。
あたしらと一緒にね。」
「ルザミ・・・?」
「こっからずっと南に行ったところさ。
地図には載ってないだろうねぇ、小さいから。」
突然告げられた進路に、リグは水先案内人バースの意見を求めた。
何も考えてなさそうで、案外しっかりと予定を組んでいる彼のことだ。
飛び入りの進路には困っているかもしれない。
「バース、ルザミってとこに行っても平気か?」
「いんじゃね? その前にライム探さなきゃだけど。」
「あぁ、ライムなら一足先に船を移動させてるよ。
いやぁ、立派な船を持ってるんだねぇ。」
昼食後には出発だよと意気込むアイシャに、見事に主導権を持っていかれたリグだった。
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