時と翼と英雄たち


ネクロゴンド    4







 新たなる宝箱を見つけたエルファは顔を輝かせた。
今度こそ自分にぴったりの武器や防具が入っているかもしれない。
こんな場所にあるのだからきっと、王家に伝わる秘宝とかそういったものに決まっている。
神官団は由緒ある精鋭部隊だったから、神官団員向きの宝物があってもおかしくはないのだ。




「あ、エルファ! 1人で走ったら危ないわよ!」


「大丈夫大丈夫、ちょっとの距離だも・・・わぁっ!」





 宝箱への行く手を阻むかのように魔物がぬっと現れる。
それほどまでに素敵な宝なのだろうか。
そうだとしたらやる気も上がってくるというものだ。
エルファは杖を握り締めると、勢い良く魔物に襲いかかった。
エルファの突撃にバースが顔面蒼白になる。





「わああああエルファ! わかったから、その中身エルファにやるからちょっと落ち着こう、な、な!?」

「なんでお前が勝手に決めてんだ。ほら、さっさと援護に行く」

「そう言ってる2人、早く倒しにかかる!」


「またお前のせいで怒られただろ、責任とってイオナズンしてこい」


「ほんっと人使いの荒さだけは一流だよなー・・・」





 バースははあとため息をつくと、渋々両手をぱしりと合わせ魔物へと向けた。
洞窟が崩落するのではないかというくらいに大きな爆発音が響き渡り、リグたちは思わず耳を塞いだ。
危うく生き埋めになるかと思った。
味方の呪文で窒息死するなどシャレにならない。
爆発が止みもうもうと土煙が上がっている中、エルファがむくりと身体を起こす。
やっと見つけた、私の武器。
どんなものかな、できれば細身の剣とかがいいんだけどな。
わくわくしながら宝箱を開けたエルファは、中身を確認すると静かに蓋を閉じた。
何だったと背後からライムに尋ねられると、振り返って困ったように笑う。





「うーん、私には使えないものだった・・・」


「何だったのって訊いてるの」


「重たそうな剣が一振り」

「すごく立派な剣じゃない! リグ、ちょっと来て」





 ライムは改めて宝箱の中を確認し、感嘆の声を上げた。
一目見てわかる名剣に思わず見惚れてしまう。
リグはライムから剣を受け取ると、へぇと言って2,3度素振りした。
目利きではなくても、この剣が優れていることはよくわかった。
今装備している草薙の剣よりも切れ味は鋭そうだし、ヤマトには悪いがそろそろこの剣に持ち替えようか。
リグは草薙の剣を鞘ごと外すとエルファに手渡した。
そして代わりに、拾ったばかりの稲妻の剣を腰に佩く。





「草薙の剣はそこまで重たくもないし、エルファにも使えると思うけど。俺のお古だけどエルファ使う?」


「いいの?」


「だってライムもバースもゾンビキラー持ってるし、さすがにさっきみたいに突撃されちゃ困るけど、護身用として持つ分にはいいんじゃないかな」

「うんうん、持つ! ありがとうリグ!」




 うわぁときらきら笑顔で草薙の剣を見つめるエルファに、リグも頬を緩めた。
せっかくの宝箱を一度閉じてしまった時は何事かと思ったが、結果的にエルファの機嫌を損ねることにならないで良かった。
本当はエルファにも剣を買ってやりたかったのだが、慢性的な金欠状態の財布からはとても3本目のゾンビキラー代を捻出できなかった。
あの時はまさか正直に金が足りないからエルファは後回しとは言えず適当な理由をつけてはぐらかしたが、ようやく後ろめたさからも解放される。





「良かったなーエルファ。でもとりあえず後方援護が俺たちの仕事だからなー」


「うん! ライム、今度剣の遣い方教えてね!」


「俺の話聞いてた? 聞いてないよねエルファ。大事なことだからちゃんと俺の言うこと聞いて」





 戦う女の子って凛々しくてかっこいいけど、でも。
バースはこれから増えそうなエルファの暴走を案じ、がくりと肩を落とした。


































 進んでも進んでも出口が見えない。
稲妻の剣を手に入れた後もひたすら歩き続けたリグたちだったが、彼らの前に出口が現れることはない。
進んだ先が行き止まりだったりするとテンションも下がる。
マッピングしながら進んでいるのだが、なかなか思うように進めなかった。





「どうする、ここまで戻ってみる?」


「そうしなきゃいけないみたいね・・・」


「もうここさ、人を脱出させる気ないだろ。ただの市民じゃ次のフロア行く前に過労死してるって」





 バースは地面に座り込むと頭を抱えた。
水路がある場所へと移動はできたが、ここから先がまたわからない。
足もいい加減疲れてきたし、エルファの魔力も余裕があるとは言えなくなってきた。
稲妻の剣がなかったらもっと苦戦していたかもしれない。
ネクロゴンドがもたらした恩恵は、後にも先にもそれだけだった。





「エルファ、ここってほんとにネクロゴンド王国の脱出路か?」


「そうだと思うけど・・・・・・。・・・あ、それって」


「困った時の攻略本ってやつ。載ってるといいけど・・・」





 重たい思いをして袋に本を詰めてきたのだ、何か載っていなければここまでの苦労が水泡と帰す。
リグは袋から王家秘伝の書を取り出すと、ばらばらとページを捲り始めた。
エルファはなんとなく本を覗き込んでみるが、何が書いてあるのかさっぱりわからない。





「目次とかあればいいのにさー、どこらへんだろ」


「リグ、頑張って!」


「それ、持ってきてたのね」


「結構重たかったんだよ。家に置いてても良かったんだけど、あったら役立つかなと思って」





 ページを捲っていた手を止め、ある文章を凝視する。
王族の名前を告げればわかりやすい見取り図が現れると書かれているが、生憎とリグはそんな大層な名前は知らない。
リグ以外の名前があるのなら、逆に教えてほしいくらいである。




「エルファ、母さんの本名って何だっけ」


「リゼリュシータ・ネクロゴンド様だよ。覚えてあげて、リグ」


「俺の母さんはリゼルなの。リゼリュシータ・ネクロゴンドの息子のリグですよ・・・」





 本に書かれた文字が動き出し、リグたちはぎょっとして思わず身を引いた。
訳のわからない文字の羅列がくねくねとした道を作っていく。
1ヶ所だけ色の違う文字があるが、これはもしかして現在地なのだろうか。
さすが私たちのネクロゴンドと感激してはしゃいでいるエルファの隣で、ほんとあの王家ろくな事してねーよ怖いにも程があるとバースがぼやく。
リグ自身も驚いていた。
何から何までスケールが違う。どこに魔力を使えば気が済むのだ、母の一族は。
リグはページを開いたまま手に持ち立ち上がると、1本の道を指差した。






「ここを真っ直ぐ行ったとこに隠し通路があって、そこを抜ければすぐみたいだな。はー、便利だけどこの本やっぱ怖いな。世界吹き飛ばす呪文とかも書いてありそうだ」


「ルザミの学者先生、逆にこれ読めなくて正解だったな」


「傍系と直系ってこんなに違うのね。私、一般人で良かった」

「俺の気分は生まれた時から一般人なんだけど、ライム」





 地図に示されていた通り隠し通路を通り、しばらく歩くと階段が見えてくる。
これが地上に繋がってるといいな。
先頭を歩いていたリグの目に、白い光が飛び込んできた。







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