ロマリア 3
無事カザーブに到着し英気を養ったリグたちは、シャンパーニの塔へ挑戦すべく草原を歩いていた。
初めての塔へのチャレンジだが、やる気はあまり上がらない。
村人から得た情報によると、あの塔はそれなりに高い造りになってるとかで、よく足腰を鍛えておかなければならなかった。
しかしリグたちに脚力の心配は皆無だった。
ここに至って、あの日の山中での戦いの成果が現れてきたのだ。
だだっ広い草原だろうと沼地であろうと、どこまでも歩けそうな気がした。
やたらと固いカニに剣を突き立てながら歩いた結果、昼頃には高くそびえ立つ塔の前にいた。
歩くのには慣れていてもそれなりに疲れを感じながらここまで来たのだ。
これで盗賊がただいま仕事中とかいって留守だったら、彼らが戻って来るまで居座る所存だ。
「盗賊たちって、頭悪いだろ」
「どうして?」
「普通隠れ潜んでるんなら、こんな逃げ場のないような塔に籠もるか? この塔の周り海だし、特に身を隠せるような森もないし。
まるで俺らに捕まえて下さいって言ってるみたいじゃん」
リグの指摘するとおりだった。
塔に潜み、しかも最上階などにいて追っ手が迫った時、盗賊たちに残された道は追っ手を返り討ちにするか、地上に飛び降りるかである。
こんな知恵のない盗賊たちに知的派盗賊が仲間にいることは考えられないし、そんな者がいたらもっと遠くへと逃げているはずだ。
つくづくおかしな盗賊だ、本当に盗む気はあったのだろうか。
盗賊の可哀想な知能について話し塔を登っていくと、リグたちの前に居住空間が現れた。
おそらく、ここが盗賊たちの棲み処なのだろう。
リグたちは互いに頷き合うと、慎重かつ急ぎ足で部屋の先へと向かった。
先にはさらに上に続く階段があり、それ以外に道はない。
やはり、盗賊はここにいる・・・、いや、いた。
リグたちの姿を確認した途端、盗賊の手下と思われる重装備の男たちが足早に階段を駆け上っていった。
「あ、おい! 盗賊の癖して逃げるなんて、こそ泥棒みたいな真似するなよっ!!」
「リグっ、あいつらは王冠を盗んだ泥棒よっ!!」
盗賊の後を追い階段を駆け上ると、部屋の中央には盗賊の首領らしき人物が仁王立ちしてリグたちを待ち構えていた。
首領は声高く笑うと、そのまま何かを弄った。
何をやっているんだあいつはと思った直後、リグたちの足元の床が消えた。
翼なんて代物を持たない人間リグたちは、当然のごとく下の階に落とされた。
上からはまだ笑っている盗賊の首領の声が響いている。
あの時彼が弄っていたのは、床が抜ける装置か何かなのだろう。
「い、痛い・・・。も、もう少し優しくしてくれてもいいのに」
「大丈夫、エルファ? あいつら、エルファに尻餅つかせるなんざよっぽど地獄が見たいんだな」
「やめとけバース、お前が言ったら洒落になってないから」
ふつふつ、いや、ぐつぐつと盗賊への怒りを高めているバースにリグがさらりと釘を刺した。
一応自重を促しておかないと、また突然イオを唱えられては敵わない。
あれは怖いのだ、土砂崩れに巻き込まれるかと思っていた。
体勢を立て直し、再び階段を駆け上ったリグたちだったが、そこには既に盗賊の姿はなかった。
逃げられたか、と一度は悔しがり出直そうと踵を返したリグたちだったが、それは悔しがり損だった。
盗賊の集団は、下の階で彼らを返り討ちにせんと待ち受けていたのである。
自分たちの腕に自信があるのか、それとも出会った獲物は逃がさないという思想があるのか定かではないが、リグたちは念願の盗賊たちと真正面から向き合うことになった。
確かに向き合おうとした、リグがバースの腕を引っ張ったことからそれは一時保留にされたが。
「なぁバース。人間として訊くけどさ、生身の人間を剣で斬ってもいいのか・・・?
そりゃあの変態は泥棒だけど、それでも魔物じゃないただの変態を、斬るのはどうなのか?」
「俺も一応盗賊だけど、とりあえず、あんな格好した変態と同視はしてくれるな。
エルファを下に落としたのは許せないし今すぐにでも焼き殺したい気分だけど、半殺しの目とかに遭わせたら後味悪いしな・・・」
「じゃあこうすればどうだ・・・? これだったら、仮にあいつらが死んでも事故として処置してくれる可能性大だ」
リグの恐るべき提案に、バースはにやりと笑った。