時と翼と英雄たち


ロマリア 4







 戦いを前にして作戦会議を始めたリグたちは、それぞれ自分の持つ役割を確認するとカンダタの前に向き直った。





「待たせてごめん、盗賊」


「ずいぶんと待たせやがって。貴様ら、この俺様たちを舐めてるのか!?」





 逆ギレもかねてカンダタが振り下ろした斧が低く唸る音に、リグたちは自分たちの立てた作戦が間違っていないことを再認識した。
彼の子分たちもなかなかに戦える。
さすがは数多の危難を乗り越えてきた盗賊団である。
一筋縄ではいかないと思っていたが、その予感は的中していた。
それに比べてこちらは全員が戦うというわけではない。
攻撃に当たるのはリグとライムの2人だけなのだから、この大量の盗賊団を前にしては不利な状況に陥ってしまいかねない。
そこでリグたちが考えた作戦は、予定では傷ひとつこちらが負わないであろうという作戦だった。





「いつまでもうろちょろと逃げ回るな!この小僧が!!」


「・・・しまった・・・」


 リグが小さく呟いた。
逃げ回り続けていたが向かっていた先にはもう床がなく、見えるのは遥か下の地上に広がる草原だった。
前方の真っ逆さま、後方のカンダタ。
気が付くとどこから現れたのか、ライムたちと戦っている子分たち以外の奴らがリグの周りを取り囲んでいた。





「てこずらせやがって・・・。死ね、小僧!!」


「神の刃を降り注げ! バギ!!」





 カンダタがリグに向かって斧を振り下ろしたと同時に、後ろで可憐な声が響いた。
呪文を発動するエルファの声を聞いた直後、リグは体を思い切り右に捻った。
捕らえるべき者を失った巨大な斧はそのまま床へと突き刺さる。
こんな大層なものが刺さったら最後、俺の旅はここで終わっていただろう。
床に突き刺さった斧につんのめるようにして、カンダタの巨体が前に傾いだ。
前のめりに倒れようとした彼を更に襲ったのが、先程エルファが唱えたバギだった。
背後から突如として突風を受けたカンダタの体は、そのまま見えない床に一瞬浮かび上がった。
まさか浮くこともできたのかとリグがぼんやりと思い終わる前に、カンダタは絶叫を上げながら遥か下の地上まで落下していった。






 「お、親分!!」





 子分たちが、地に落ちたカンダタを呼ぶ声が響き渡る。
カンダタという中心を失った彼らにはもはやリグたちと剣を交える気力はなく、次々と逃げ出していく。
後に残されたのはリグたち4人と、床できらめく金の冠だった。





「バース、これで良かったんだよな。ほんとにあいつ落ちてったぞ?」


「俺は上出来だと思うけどな。エルファもあの時手加減して呪文唱えてたみたいだし、まさか死んではないだろ」




 いや、ここは何がなんでも死んでいては困る。
せめて複雑骨折くらいにしてもらわないと、今度は自分たちが殺人未遂でお尋ね者になりかねない。
リグたちはカンダタの無事を自己の保身のために祈ると、彼が落下した現場を見ることなくロマリアへと飛んだのだった。







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