時と翼と英雄たち


ロマリア 5







 ロマリア城へと帰還したリグたちは、王から熱烈な歓迎を受けていた。





「これこそわしの金の冠。さすがは勇者よ、こうも鮮やかにわしの冠を取り返してくれるとは!」




 いかような戦いぶりだったのかと聞かれ、リグの眉間に皺が刻まれた。
事実を話せるわけがない。
王たちはきっと、カンダタ一味をこてんぱんに伸したと思っている。
そんな正統派勇者らしいことなど、一度もやっていないしやろうとしたこともないのだ。
相手のうっかりにつけ込んで塔のてっぺんから突き落としただなんて、口が裂けても言えない。





「ところで勇者リグとその勇敢なる若者たちよ。わしはそなたらに礼をしたい。しかしわしにできる礼といえば、この王位を譲ることぐらいしかできんのじゃ」





 王の言葉にリグたちは硬直した。
まずい、このままでは世界を救う勇者ではなく、この国を治める王に据えられかねない。
しかし王はいやに乗り気だ。そんなに王位が嫌なのだろうか。



「どうじゃ、リグよ。お主、わしに代わり王位に就いてはみらんか?」


「お断りします」


「初めは皆そう言う。だがな、やってみたらこれが案外面白い」


「だったらこれからも王としてこの国を治めればいいじゃないですか。大体なんで王族でもなんでもない俺が・・・。しかもロマリア・・・」


「この国が不満なのか? 温暖で肥沃な大地と穏やかな性格の民が暮らすこの国を、勇者殿は不満だと言われるのか?」


「そんなこと誰も・・・」





 明らかにリグの方が分が悪い。
言い争いになれば自分は勝てまいと、フィルとの過去の戦いからも知っている。
こうして嫌々ながらもリグの王様生活が始まった。
































 当初は渋々王様生活を送っていたリグだったが、これが意外にも周囲の者には好評だった。
どうやら彼の隠れた優しさが良かったらしい。
だが、ライムたちの行方も気になる。
王様なんだから好きなことやればいいんじゃないと言い残して好き勝手に散らばったライムたちだが、今はどこにいるのだろうか。
気になって仕方のないリグは、彼らの消息を確かめるためこっそり街へと抜け出した。
もっとも、わざわざ脱走を図らずとも城内を歩き回るだけで彼らの話は存分に聞くことができたのだが。





「なぁ、最近兵士鍛錬場に現れた凄腕の剣士、知ってるか?」


「もちろん。兵士長と互角の戦いをしたって奴だろ? しかもすっげぇ美人」


(ライムだな。ったく、しばらく見ないと思ったらそんなことやってたのか)





 次にリグは城の庭園を訪れた。
そこではリグとそう歳の変わらないぐらいの城に仕えている娘たちが話に花を咲かせていた。




「ねぇねぇ、町の教会にはもう行った?」


「行ったに決まってるでしょ。あの銀髪の人、バースさんがいるんだから。彼、すごくかっこいいわよね。性格も爽やかだし、一目惚れしちゃったかも・・・」


「でもバースさんがいつも一緒にいる青い髪の女の子、あれ誰? 僧侶みたいだけど、今まではいなかったわよね」





 本人の知らないところでもてはやされているバース。
彼が知ったら逆に迷惑に思うかもしれない。
バースはエルファがいればそれでいいのだから。






 兵士たちの休憩所では、腕に真新しい包帯を巻いた若い兵士が自慢げに同僚に話していた。




「これさ、町の教会にいるエルファっていう可愛い僧侶に直してもらったんだぜ」


「あぁ、お前も行ったのか。でも気を付けた方がいいぞ。彼女とあんまり話したりしてると、近くにいる銀髪のやたら美形の男がものすごい視線かましてくるから」




 城の者たちの話を聞いていると、リグは自分のやっていることが馬鹿馬鹿しくなってきた。
自分だけこんなに面白くない生活をして。
どいつもこいつもかっこいいだの美人だの可愛いだのと噂され、じゃあ俺は何だってんだ。
誰だってこんなもふもふした動きにくいことこの上ない衣装なんて着たくない。
様々な、多少責任転嫁している分もあるが考えていたリグは、沸々と前王へ怒りが沸いてきた。
今、奴はどこにいるのだろう。
リグは王を探しに今度こそ町へ飛び出した。







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