時と翼と英雄たち


ロマリア 6







 新王が失踪した―――――。



 ロマリア城内に衝撃が走った。
つい最近新しい王を迎えたばかりだというのに、前代の王に引き続き今回の王も放浪癖がある男だったのか。
人々に温かく迎えられ、本人は嫌々ながらも王様生活をしていたのだから尚更信じがたい。
ある日突然失踪するという事態に、大臣を初めとした国の中枢機関は混乱を来たしていた。






 事の次第は2日前に遡る。

 勇者オルテガの息子にして平和への旅敢行中であったリグは、前王の退位後の生活を見て腹が立った。
当然のである。王は連日朝から晩まで城下町の格闘場に入り浸っていたのだ。
その事実をどういう訳か入手したリグは、警護の兵たちの目を盗み単身町へと飛び出した。
怪物相手に戦ってきたのだ。たかが城の兵士ごときが行動を止められるはずがない。
そしてリグは格闘場にやって来た。
もちろんそこには、いつもと変わらず熱戦を繰り広げる魔物たちに歓声を上げている王がいた。





「・・・王」


「おぉ!リグか!! どうじゃな、この城は。なかなかに居心地が良いであろう。これからもこの城の王として・・・」


「何おっしゃってるんですか。俺はここの王なんかじゃない。格闘場に行くぐらい、王の座を退位しなくてもその強かさがあればできるでしょう」


「う・・・。いや、しかし・・・」


「つべこべ言ってないですぐに、今すぐに城に戻って下さい。金の冠を取り戻してきた意味がないじゃないですか。それとも何ですか、もうあの冠は王には必要ない、と」




 完全に怒ったリグに敵う者はいなかった。
いつの間にか、騒ぎを聞きつけてライムたちがリグの元へと集まってきていた。
いつでも旅に出られるような準備をしているあたり、そろそろがリグの限界だろうとわかっていたらしい。




「王様ごっこが終わったんならそろそろ行きましょうか。これでも私たち、結構暇を持て余してたんだから」


「俺も同じく。てか、俺はもうこの町には戻りたくないんだよ」


「私はこの町好きだったんだけど、私が教会にお世話になるようになってから怪我人の数が増えたって聞いたの。
 バースは私目当てに来てるって言ってるし、よくわかんないけどもうここに用はないよね?」






 理由はともかく仲間たちは揃った。
リグももちろん旅への準備は万端だ。
リグは座り込んだまま動かない王にそっと冠とマントを預けた。





「この衣装は、王であるあなたが一番よく似合う。他の誰でもない、あなた自身が」




 格闘場から出る直前、リグは王に声をかけた。
色々と素行に問題のある王だが、そんな王がいるからこそ、この町はこんなにも明るいのだろう。
世界の歯車とはなんとも上手い具合に回っているものだ。
こうしてリグたちは誰に告げることもなく、ロマリアを去った。








 リグという新米ながらもそこそこによく出来た王の存在がいなくなった後、城は本来の王を探すため町に捜索隊を派遣しようとした。
前の王の行方も知れないのではこの国は終わってしまう。
そろそろ世にも美しい女王が治める砂漠の国で再就職を目指そうかと誰もが考え始めた矢先、懐かしい声がした。





「皆の者、何をそんなに騒いでおる。仕事はどうした。そんなに固まったままでいては、片付く仕事も片付かんだろう」




 以前と同じ人物なのだが、明らかに王位を譲る前とは一回りも立派になった王がそこにいた。



































 「・・・で、次はどこに行くの」





 ロマリアを出てからしばらくした後ライムがリグに尋ねた。




「カザーブの北にあるノアニールってとこに行こうと思ってるんだ。城で聞いた話によれば、そこに住んでた友人が何年間も自分を訪ねてきてないらしい。
 今までは来るなと言ってたぐらいにこっちに遊びに来てたらしいってから、ちょっと気になってさ」


「俺が聞いた話でも最近はノアニールから商人が来てないってあったし、あそこで何かあったのかもしれないな」





 リグたちは、ノアニールに向けて再び山道を登り始めた。







backnext

長編小説に戻る