ロマリア 7
ノアニールの町に着いたリグたちは言葉を失っていた。
立っている者も座っている者も関係なく、全ての住人が眠りについていた。
「・・・なんで? いつからこんな事になってんの」
「ロマリアで教えてくれた人の話によれば、軽く10年は経ってるみたいだな。もっと経ってるかもしれないけど」
「みんなを目覚めさせる方法とかあればいいんだけどな・・・」
口に出して言ってはみたものの、その肝心の手がかりを人に聞こうと思っても、答えてくれる人はどこにもいない。
どうしたものかと考えあぐねていると、ライムは人間ではないものを見た。
翠色の美しい艶やかな髪をした、耳の尖っている白い肌の少女を。
「あっ! ちょっとあなた! 待って!」
ライムは大声を出して彼女を呼び止めようとした。
声に反応して振り返った少女は、リグたちの姿を認めた途端に体を強張らせた。
「いや・・・、人間が・・・。人間がいる・・・!!」
明らかに人間を恐れている声だった。
少女はあっという間に森の奥へと消えていく。
残されたリグたちは少女が消えていった先をじっと見つめていた。
魔物でもなく人間でもなく動物でもない種族がこの世界にはいると聞いていたが、まさか本当にいたのか。
「さっきのって・・・、もしかしてエルフ?」
「そうだと思う。ノアニールの森の奥にエルフがいるっていうのは結構有名っちゃ有名な話だけど。
あの森には結界が張られてて普通の人は入れないんだ。だから確認した人はいないけど・・・」
「そんな街中ではまずお目にかかれない存在であるエルフが今、俺らの前に姿を現したんだな?」
「その通り。」
「じゃ、あのエルフが向かった奥の森に行こうよ。人の前に姿を見せない種族がわざわざこんな何もない町に現れるか普通。
この町の人が眠り続けているっていう妙な事件、俺はエルフが絡んでんじゃないかと思う」
「私もリグに賛成」
「エルファの言うとおりね。でも、その厄介な結界はどうすればいいの? 行っても入れないんじゃ、意味がないんじゃないかしら」
ライムの質問はもっともだった。
賢く、高い魔力を秘めるエルフたちが張った結界だ。
誰がその結果を破ることができるというのだろうか。
結界が破られなかった場合、この町の望みも絶たれてしまうかもしれないというのに。
ライムの言葉を聞いたバースは笑いながら言った。
「大丈夫大丈夫。こっちにはリグがいるから。いざとなったらって時の手だってちゃんと考えてるし」
バースの言っている意味がこの時にはちっともわかっていないリグたちだった。
翌日、リグたちは森の中に入っていった。
鬱蒼とした森には強敵が待ち構えており、彼らがようやくエルフの居住地らしき場所に辿り着いた時は日も暮れかかっていた。
「ここ、か・・・。・・・あれ? 結界は?」
「まあ見てろって」
バースに見てろと言われたものの手伝いくらいはできるだろうと手を出しかけたリグたちだったが、彼が何をするのかわからないためじっと見守るしかなかった。
一体何を始めるというのだろう。
何か、特別な呪文でも唱えて華々しく結界を破ってくれるのだろうか。
リグたちの期待とは裏腹にバースは、別段何か変わったことをするでもなく足元にあった石を投げつけた。
「・・・・! よし、入っていいぞ。歓迎はされてないだろうけど」
この時のバースが石を投げたと同時に何をしたのか。
リグは再三彼に尋ねたが、彼は笑って何も答えようとしなかった。
「・・・人間がなぜこのような場所に入って来られたのです。表には結界を・・・、・・・破ったのですね、あなたが」
「はい。どうしても女王に聞きたいことがあったんでちょっと無理やりお邪魔しました」
目の前にいる豪奢に衣装を身に纏った気品ある女性が女王らしい。
女王に対してもバースはにこにこと笑いながら話しかけただけである。
女王はリグたち4人の顔を順に眺めると、吐き捨てるように言った。
「なぜあなたのような方がここにいるのかは私には解せませんが・・・。ノアニールの呪いはたとえ誰に言われようと解くつもりはありません。
人間のせいで、私の愛しい娘のアンはこの里から出て行ったのです。あのような男のどこが良かったのか・・・。
私はあの子を不幸にした人間を許しません。帰りなさい、人間たちよ」
「・・女王ってさ、極度の親バカか?」
「リグっ!!」
小声でライムに呟いたリグだった。