ロマリア ８
女王から早々に立ち退き命令を受けたリグたちだったが、それであっさりとと引き下がる彼らではなかった。
エルフの里を後にしたリグたちは里のすぐ南にある洞窟へと向かっていた。
バースいわく、何かがありそうな気配らしい。
里での一件から彼の行動には一目置くようになっている。
ようやくバースの存在価値に気が付いた、というところか。
以前の彼は、盗賊の癖して呪文を使えるエルファ至上主義の青年というあたりだったのだろう。
「ここが、もしかしたら女王の娘のアンさんエルフが身投げしたかもしれないっていういわくつきの洞窟、か。
まぁ、確かに洞窟にしちゃ魔物もそんなに強くないし、第一癒しの水とか流れてたし・・・？」
「後者はともかく、魔物たちが弱いと感じるようになったのはリグが強くなったってことだと思うな」
洞窟のついての感想を述べるリグにかけられたエルファの言葉は、リグにとっては心強いものだった。
強くなったと言われれば、大抵の人は喜ぶものである。
もちろんリグもその例に漏れない。
「ありがと、エルファ。でもエルファもバースの教え方がいいのか、最近どんどん呪文使うの上手になってるよ」
「わ、ありがとう！！ うーん、なんかね、コツをつかみ出したっていうかなんていうか・・・」
エルファの場合は記憶を取り戻しかけてるってことだといいなと、心の中で思うリグだった。
吸血鬼や狼に噛みつかれながらもやって来た洞窟の最奥部は泉が湧き出ており、あちらこちら島のようなものが見られる。
不思議とあまり邪悪な気配は感じられない。
むしろどこか寂しげな、そんな感じさえした。
「全然洞窟っぽくないんだけど、これってやっぱりバースの言ったことが正しいってことかしら。だってこんなに綺麗だもの」
「だから最初から何かあるって言っただろ。俺の勘がそう言ってんだから」
バースの勘とやらに頼り周囲を散策していたリグたちは、ぽつりと置かれた古い木箱が見つけた。
箱を開けてみるとそこには紅く美しく輝く宝石と、１枚の手紙が入っていた。
「これって・・・」
「『夢見るルビー』、エルフ族に伝わる宝だ。きっとこれはアンさんが駆け落ちする時に一緒に持ち出したんだろうな・・・。
あ、おいリグ、それをずっと見るなよ。意識が遠くにいくからな」
簡単な説明を聞きながらじっとルビーを見つめていたリグに、バースは慌てて声をかけた。
その声にリグははっとして宝石から目を離した。
危ないところだった、吸い込まれるような輝きを放つその光にいつの間にか見惚れていて、意識が遠ざかりかけていた。
エルファは手紙を手に取ると、声に出して読みだした。
この手紙をあなたが読まれる時、きっと私たちはこの世にはいないでしょう。私は彼のことが大好きでした。愛していました。
しかし私はエルフ、彼は人間。種族が違いました。それでも私は、彼のことを愛していました。
彼と結ばれるのなら、私は里を、お母様と離れたって良かった。けれどもやはりそれは叶うことではありませんでした。
私たちは、この世で結ばれないのならあの世で結ばれようと思います。
お母様、私はお母様のことが大好きでした。お母様はきっと人間たちをお恨みになるでしょう。
でも、そんなこと、やめて下さい。
私たちの最期をお母様に伝えて下さるのはきっと人間でしょう。彼らの願いを聞き届けてあげて下さい。
この手紙を読んでいる方、私の母、里の女王にこのことを伝えて下さい。よろしくお願いします。
アン
「・・・リグ、このこと早く女王様に伝えましょう？ 女王だって自分の大切な娘の気持ち、きっとわかって下さるわ」
４人の思いはライムと同じだった。
この泉には２人の亡骸が眠っている。
その亡骸は幸せな思いがたくさん詰まっていて、だからこの洞窟には癒しの水が湧いたのだろう。
命ある者がいつか必ず辿る道、それが死だ。
２人の道は決して平坦ではなかったが、愛する人と共に在ることができて幸せだっただろうとリグは思った。
少し大人になった気がする。
リグたちは里に帰って来ると、ルビーを渡すのと共に女王にアンと人間の最期を語った。
女王はその話を聞き泣き崩れた後、目覚めの粉を差し出した。
これでノアニールの眠りの呪いは解けるという。
アンの死を伝えたのは人間だが、だからといってエルフたちの人間に対する意識が急に好転するとは考えられない。
余計な波風を立たせないためにも、リグたちは早々に里を立ち去ることにした。 リグたちが里を去る間際、女王がバースを呼び止めた。
「何でしょう？」
「呪いを解いた後、もう一度こちらを訪ねなさい。あの娘、青い髪をした・・・、何かあるのでしょう？」
「女王には敵いませんね。えぇ、エルファは記憶喪失で名前以外何も覚えてなくて寂しい思いしてるんですよ、自業自得ですけど」
「あなたのことですからわかっているのでしょうが、あの町の者たちはあの娘と同じです。いいですね、多少の無理をしてでもおいでなさい」
目覚めの粉が町全体を包み込んだ直後、ノアニールの町に再び人の声が響くようになった。
あとがき（とつっこみ）
ロマリア＋エルフ編、いかがだったでしょうか。
未成年に王をさせたら国は崩壊します。誰かその事に気付いてあげてください。
カンダタは盗賊でなくて、変態だと本気で思います。別の理由で牢に入れられるんじゃないか、とか思います。
（修正後の感想）
いろいろあったんですねー・・・、本当にいろいろありすぎて、詰め込みすぎたことに反省してます。
でもここら辺はまだまだ当初の予定どおりです。ライムはみんなのお姉さん、これは鉄板。