〜断片的な記憶たち〜
また叫び声がした。今度は甲高い、女性の声。
共に戦い続けた仲間たちは次々と斃れ、既にこの世のものではなくなっている。
たとえ息があったとしても、それは遠からず訪れる死を待つ者たちだけ。
私にできることはあるのだろうか。
迫り来る魔物たちを退けながら考えた。
周囲に視線を巡らす。戦っている者たちはもう、ほとんどいない。
守るべき者たちもいなくなっていた。
目の前に立ち塞がる無数の魔物たちが途切れることはなかった。
彼らに終わりはない。
この国のありとあらゆる命を奪い破滅へと導く、まさに地獄からの使者。
どこからともなく現れた奴らに向けて再び武器を構える。
生ける血を貪欲に求める彼らに、渾身の力を込めて武器を振るう。
その時、誰かが自分の名を呼んだ。
「―――!」
名を呼ぶのは愛しき人。
どんなに魔物の返り血を浴びようと、どんなに己が傷付いても決して負けない、銀の髪を持つ私の大好きな人。
彼が私に近づいてくる。
あれだけの数の魔物たちと対峙したにもかかわらず、その足取りは存外しっかりとしている。
私は魔物のことなどすっかり忘れて彼の元へ駆け寄った。
彼は、血塗れの戦場にはおよそ似つかわしくない優しい笑みを浮かべた。
「・・・本当に、今までよく頑張ったね。でも、もういいんだ。これからはあの方が君を導いてくれる。
今は無理でも、いつの日か絶対に俺たちはまた逢えるから。だからその時まで
・・・さよなら」
彼の言った言葉の意味を理解する前に、彼は私に杖を向けた。
眩いばかりの光。私の意識は途絶えてしまった。
それから私は、随分と長い間眠っていたような気がする。
どことも知れぬ場所でずっと眠っていたとばかり思っていたけれど、ある時アリアハンの勇者たちに海岸で打ち上げられているところを助けてもらったらしい。
目を覚ました私が覚えていたのは自分の名前と、そして、誰か知らない人から言われた言葉だった。
私の記憶の中に言葉の持ち主はいない。
自分がどこから来たのかすらわからない。
そう告げると、漆黒の髪と瞳を宿した勇者は言った。
あんたは記憶喪失だ、と。
あとがき
初めて書いた作品です。まだ、どんな感じにしようか定まってない感じです。
彼女の名前は出しませんでした。