あいつ生きてるから!
生かすために逃がしたんだから!
あいつが、がそう簡単に敵にやられる奴に見えるのか!?
半田ならばこう言いそうな気がする。
豪炎寺と鬼道は廃墟と化した城を訪ね、根拠も確証もまったくないがとりあえず半田だと仮定した亡骸に手を合わせた後、亡霊の言葉を信じ毒の沼地へと足を踏み入れていた。
命の危険と隣り合わせの溝さらいは、一歩歩くごとに体力がごっそり削られていく。
しっかりと睡眠を摂り食事を平らげ万全の状態でやって来たというのに、気付けば体中に汗を掻いている。
殺気を感じて振り返ればマンドリルの群れがおり、沼に足を取られながらも戦い、なんとか追い払うとまた溝さらいを始め。
本当にこんな所にラーの鏡とやらはあるのだろうか。
ラーというくらいだから、ひょっとしたらそこに見えている塔のてっぺんにあるのではないか。
豪炎寺と鬼道の疲れと苛立ちはピークに達していた。




「そもそも鏡を見つけたところでどうやってを探すんだ。何かに化けてるとはどういうことだ」
「それは俺も知りたい。は俺以外の前では常に化けの皮を被っている」
「なんだと豪炎寺。では、は俺にありのままの姿を見せてはいないと?」
「所詮は鬼道もその程度ということだ」
「その程度とはどの程度だ!」




 怒った鬼道が毒の成分を豪炎寺に浴びせる。
全身に激痛が走り、豪炎寺は思わず沼地に身を沈めた。
更なる痛みが体を貫き、這うようにして沼地から脱出する。
地面を這う指が沼ではない何か固いものに触れる。
木すら溶かしてしまうといわれる毒にも負けず硬度を保つそれが気になり、豪炎寺はゆっくりと引き上げた。
繊細な装飾が施されたきらきらと輝く鏡が地上に現れる。
誰かの落とし物の手鏡ではない。
これはまさしくラーの鏡だ。
豪炎寺は未だ溝ざらいをしている鬼道を呼び寄せた。




「あったぞ鬼道! 今すぐテレポートでムーンペタに帰ろう!」
「すまない豪炎寺、回復呪文の使いすぎでもう魔力が残っていない。歩いて帰るしかない」
「もう少し鍛えて強くなれといつも言っているだろう。もういい、置いていく」
「待て豪炎寺、抜け駆けは許さん!」




 追いかけっこのように全力疾走し、マンドリルも見なかったことにして町へと飛び込む。
スペアの写真を入れた袋を置いてきてしまったが、命をかけて取りに戻ろうとは思わない。
写真はまた頼むか焼き増しをすればいいのだ。
鬼道は服にこびりついたままだった毒素を叩き落すと、が化けていそうな生き物を探し始めた。
あの亡霊、人に伝える気があるのならばもっと具体的に、何に化けたかくらい教えてほしかった。
犬か猫か、それとも植物か。
そこの花を見てみろ、人に踏まれて今にも枯れそうではないか。
いくらが花のように可憐とはいえ、枯れてしまったらアウトではないか。
鬼道は町中をくまなく見渡した。
豪炎寺と風丸が往来で言い争いをしている。
寄越せだの嫌だだの、子どもの喧嘩ではあるまいに。
鬼道はため息をつくと、仲裁をするべく2人へ歩み寄った。




「何を騒いでいる」
「豪炎寺がこの子を寄越せって言うんだよ。だから言っただろ、この子は怖がりの甘えたさんだから豪炎寺には無理だって!」
「無理じゃない。俺の目にはもう、この犬はにしか見えない。そうだろう
「そうだとしても! ほら怖がってるじゃないか。よしよし怖くないからな、ぎゅうー」



 頭を撫でてからの一連の動作に対する犬の反応がにしか見えない。
豪炎寺は風丸の腕から子犬を分捕った。
やだやだと首を横に振っている仕草も、人間のが駄々っ子のように嫌がる様子に酷似しているように見えてくる。
豪炎寺は子犬を片腕に抱くと、袋の中からラーの鏡を取り出し犬へと突きつけた。
鏡から眩いばかりの光が溢れ、子犬へと降り注ぐ。
片腕に抱いた子犬がだんだんと大きくなり、犬とは違うやや骨ばった柔かさを感じるようになる。
犬の変貌を目の当たりにした鬼道が声にならない悲鳴を上げ、地面に崩れ落ちかけたかつての犬を抱きとめた。




! 大丈夫かしっかりしろ!」
「・・・だ、が」
・・・?」
「半田が、あ、半田が身の丈に合わないことやって・・・! こ、これ半田落ちの夢かなって思ってたのにまさかのリタイア・・・!」
「落ち着け。これは王女と兵卒が結ばれる話じゃないんだ。これは2人の王子のうちのどちらかと王女が・・・じゃなくて。何があったんだ」
「そんなのこっちが訊きたいっての! ほんとどうなってんのここ、風丸くんいなかったら私マジでやっばいことなってたんだからね!」




 は立ち上がると風丸にぎゅうとしがみついた。
ほんとにだったんだな道理でよく似た可愛い犬だったもんなあと風丸はにこにこしているが、とてもじゃないが笑えない。
ここまで来るのにどれだけ苦労したと思っているのだ。
鬼道はすぐに死にかけるし自分の治療で魔力を使い果たしてしまうし、頼もしい相棒なのかお荷物なのかわかったものではなかった。
豪炎寺はと再会しほっとした表情を浮かべている鬼道を見やった。
これを期に、鬼道も少し強くなっていただきたい。
旅がまだ終わらないのならばの話だが。




「私やっぱこっちでもモテ期みたいでさ、魔物たち私狙ってお城襲ったらしいのよ。だからここはひとつ、半田の仇討ちも兼ねて親玉ぶっ潰しに行こうかと思ってるわけ」
「外はが思っている以上に危険だ。マンドリルは特に恐ろしい。それに俺は、が傷つくのを見たくない」
「でも鬼道くん、今もあちこち怪我してて痛そう。あのね、私なんかよくわかんないんだけど呪文使えるよ。鬼道くんの痛いの飛んでけー!」
・・・! すごいじゃないか。だがやっぱり俺は・・・」
「ねえ修也、駄目? 私ずーっとここにいて風丸くん危険に巻き込むよりも、修也と一緒にいて守ってもらう方がいいと思うんだ」
「旅は大変だ。寝ても覚めてもこの世界から逃げられないし、意外と鬼道は使えない」
「だったら尚更私お買い得だって!」
「・・・じゃあこれだけは約束させてくれ。は俺が、何があっても絶対に守る。守らせてくれ」
「は? そんなの約束しなくても当たり前のことでしょ」




 待っててね半田。今すぐ半田の仇、討ってあげるからね。
は久々の二足歩行を難なくこなせることを確認すると、今は廃墟と化したムーンブルク城へと思いを馳せた。






ロレムンよりもサマムンよりも、一番よく見るのは3ピーーーーー!(自主規制音)






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