ぶちりぶちりと絶え間なく音が聞こえる。
馬鹿だのアホだの甲斐性なしだの、容赦なく罵詈雑言が飛んでくる。
悪かったと素直に謝ると、何がと冷ややかに尋ねられる。
怖くはないのだが、扱いにくいことこの上ない。
豪炎寺はもう一度悪かったと呟いた。
ぶちりとひときわ大きな音をさせたかと思うと、はえんどう豆を剥く手を止めた。




「私、いつ修也に人生の選択権委ねましたか」
「・・・・・・」
「修也、いつから私の未来設計図描く人になったんですか」
「だからそれは円堂が。・・・シャレじゃないからな」
「修也、そんなに私の不幸を願ってるんですか。なんで私を人身御供にするんですか、責任持って勝ってきやがれこの野郎」





 豪炎寺も、本当に最初は訳がわからなかった。
武方3兄弟から試合に勝ったら豪炎寺に勝った証を寄越せと言われ、円堂が売り言葉に買い言葉でわかったくれてやると言ってしまったのが事の発端だった。
勝った証とは、きっと決勝進出のことだろう。
豪炎寺はそれ以外は何ひとつ思い浮かばなかったが、後でよくよく円堂の話を聞いてみて事態の深刻さを悟った。
敗者になっても相変わらず人気があるのは気に食わないから、とりあえず豪炎寺の一番近くにいるを寄越せという内容だったらしい。
隣の芝生は青いという。
あれだけぼろくそ言われてもなお、を欲しがる3兄弟の趣味にまず驚いた。
欲しいなら勝手に持って行け。
そう言いかけたが、それではまずいと思い円堂を叱りつける。
円堂が約束しようと風丸が約束しようと、本人に無断で本人の不利益になる約束をした場合は、自分にすべての怒りが向くのだ。
円堂くんそれはいくらなんでも酷いよ。
なんで円堂までを苛めるんだよ。
お前はサッカー以外でもバカだな。
周囲に攻められ円堂がようやく事の重大さに気付いた時にはもう打つ手なしで、結局に顔向けできない事態となってしまった。
そして今、代表して豪炎寺が猛烈に叱られている。
えんどう豆を毟る音が今日ほど殺意めいて聞こえたことはなかった。
このまま豆ご飯を作らせたら、毒物でも混入されそうな気がする。





「まさか、8年9年付き合ってきて挙句、戦利品として進呈されるとはねー・・・」
「俺たちが勝ったらその話はなくなるから心配するな」
「だいたい私には、実は将来を約束した人が・・・」
「いるのか? いつそんな奴に会った、俺は聞いていない」
「言う必要ないもん」
「子どもの頃の約束を引っ張り出すな、紛らわしい」




 豪炎寺はと一緒に剥き終わった豆をザルに入れると、そのまま台所へと向かった。
やはり今日はに料理は任せられない。
隠し味に何を入れられるのかわかったものではない。
そもそもなぜ豆を持ってきてくれたのかもわからない。
怒っているなら差し入れなど持って来ないだろうに、の考えていることはやはりよくわからない。




「そもそもあの3人、修也を臆病者の卑怯者呼ばわりしたあたりが嫌なんだよね」
・・・。なんだかんだでちゃんと幼なじみなんだな」
「そんなヘタレとずっと付き合ったたとか恥ずかしいじゃん。私のこと知ってたんならどうしてもっと早く教えてくれなかったのかって思ったら、なんかムカついてきて」

「・・・少しでも期待した俺がバカだった」
「はあ? とにかく、木戸川戦で勝ってもらわなきゃいけないからしっかり食べてしっかり寝ること!」
「わかった、わかったから何度も背中を叩くな。試合前にするだけでいい、それは」




 激励の意を込めばしばしと背中を叩くに、豪炎寺は勝っても負けてもこんな幼なじみくれてやると心の隅で思ったのだった。






ここまで書いてて諦めたらしい






ブラウザを閉じてください