豪炎寺たちは、の存在をすっかり忘れ果てサッカー話で盛り上がっていた。
とあるサッカーチームの話題になり、そこの試合をと共に行ったことがあると思い出す。
あの時も確か、隣でがちゃがちゃとサッカー談義をしていたはずだ。
豪炎寺は俯いているに声をかけた。
「、ほら、帰りに電車を乗り間違えて散々な目に遭った試合を覚えているか」
「・・・・・・」
「?」
「・・・寝てるよ、」
ゆらゆらと揺れているの体を風丸がちょんとつつくと、そのままぐらりと鬼道の方に凭れかかる。
突然の柔らかな重みに驚いた鬼道は反射的に身を退こうとしたが、そうしてしまうと確実にの頭が床に直撃することになるので必死に押し留める。
頭は大事だ。これ以上彼女に不用意な衝撃を与えたら、今度は直にファイアトルネードをぶち当てられかねない。
責任を取れと言われたら、取る自信は大いにあるが。
「どうする? このまま寝かせとくなら豪炎寺、布団かタオルケット持って来い」
「鬼道、を起こさないようにしてくれ。風丸はテーブルちょっと退かしてくれ」
豪炎寺がリビングから姿を消したのを確認すると、風丸はすやすやと眠っているへじりじりと近寄り頬を緩めた。
普段の元気なも可愛らしいが、無防備に健康な寝息を立てている彼女もこれはこれで可愛らしい。
お人形さんみたいだなとを支えている鬼道に話しかけると、小さな声でああと返ってくる。
我慢できずにの頬を指でつついてみると、思った通りのふわふわとした感触に出会う。
「・・・抱きついてもいいかな。すごく可愛い、ぎゅってしたい」
「やめろ。・・・早くテーブルを退けてくれ、この体勢じゃ寝た気にならないだろう」
風丸が音を立てないようにゆっくりとテーブルと動かし始めたのを見届けると、鬼道はそろりとの体に腕を廻し、彼女の両肩を掴むことに成功した。
このまま床に寝せればミッションクリアだ。
体を捻じるようにして寝せた鬼道は、真下で寝こけるに胸をときめかせた。
無造作に散らばった髪が中学2年生にあるまじき色気を醸し出している。
こんな子と一緒にいて、よく豪炎寺は間違いを起こさないものだ。
自分なら耐えられない。
本能のままに抱き締めて押し倒してあれやこれやしたい。
風丸に倣って、頬くらいは撫でてもいいだろうか。
鬼道はゆっくりと手を伸ばした。
「・・・鬼道、に何してるんだ」
「・・・鬼道、さすがにそれはまずいって・・・」
冷ややかで恐ろしい声が聞こえ、鬼道はふっと顔を上げた。
タオルケット片手に、今にもファイアトルネードを打ってきそうな豪炎寺が仁王立ちしている。
何をしていると尋ねられたので寝かせようとしていたと答え、眠っているを見下ろす。
やっぱり何度見ても可愛い。
今からでも俺専属のメイドになれと言ってみようか。
「お前の寝かせるは、を押し倒すことなのか」
「・・・・・・不可抗力だ。やろうと思ってやったわけではない、信じろ豪炎寺」
「じゃあその手は何だ。早くからどけ、変な目でを見るな」
「人には抱きつくなって言ったくせに、ほんとのこと大好きだなー・・・。わかりやすいよ鬼道」
「起きているならともかく、寝ているに抱きつこうとするな風丸。・・・これ持っててくれ鬼道」
豪炎寺はタオルケットを鬼道に手渡すと、何の躊躇いもなくの体を抱き起こした。
せっかく寝かせたのにと異論を口にする鬼道の言葉を無視して、手早くヘッドドレスと背中で結ばれているエプロンを取り外す。
そして膝を少し曲げさせると、軽々とを抱き上げソファーまで運んだ。
迷うことなくなされたお姫様抱っこに、風丸と鬼道は絶句した。
「・・・豪炎寺こそ、に何やってんだ・・・?」
「寝かせた。床だと体が痛くなるし、寝た気がしないだろう」
「なんでその優しさを起きてる時に見せないんだよ。人生損してるぞ」
「が起きていたら、大人しく抱きかかえられると思うか? そもそも起きているを抱きかかえる必要がないだろう」
寝苦しいであろう胸元のリボンを緩めブラウスのボタンを外して腹部にタオルケットをかけると、何があっても起きないの頬にかかった髪を丁寧に横に流してやる。
タオルケットならともかく、よくもまあ女の子の服を簡単に肌蹴させることができるものだと、風丸と鬼道は豪炎寺を恐ろしいものを見るような目つきで見つめた。
おそらく以前もやったことがあるのだろう。
てきぱきと処置を終えると、何事もなかったようにずらしたテーブルに戻る。
どこまで話していたかと話の続きを催促してくることから、本当になんでもない日常茶飯事をやっただけなのだろう。
どんな慣れだろうか。
今どき夫婦でもやらないはずだ、あんな見ていてむず痒くなるような甘いひととき。
しかも、片方は眠っていてとんと気付いていないという優しさの押し売り。
「ああいうことやってムラッときたりしないのか? お前大丈夫か、男か?」
「相手にどうこうなるわけがないだろう。口を開けばあれだと思えば何も思わない」
見た目に騙されるなといつも半田も言っているだろうと忠告すると、豪炎寺は先程から鳴り続けているの携帯電話を手に取った。
発信元を確認すると、そのまま電話に出る。
どうやらの母親らしい。
これが半田だったら無言で切っていたはずだ。
「・・・はい。服は貸したんですが元の服は濡れているんで今日は泊めます。今ですか? 疲れて寝てます。いえ、はい、さようなら」
泊めるという言葉にも、いちいち反応しない方がいいのだろう。
いつものことだと言われてしまえばどうしようもないのだし、この2人はどこかおかしい。
一般常識が通用しない世界を生きているのだ。
言うなれば超次元の世界というやつだ。
「豪炎寺さぁ、に彼氏ができたらどうすんだよ」
「そんな物好きがいるのなら会ってみたいところだな。それで、本当にと付き合えるような男か確かめる。の真性を知らずに付き合わせると相手に失礼だからな」
「どうやって確かめるんだ。サッカー勝負でもするのか?」
「俺でもよくわからないの性格を、俺よりも詳しく解明できたらだ。やってみるか、鬼道」
「・・・いや、今日は遠慮しておく」
それは誰もわからないと思う。
おそらく実の両親よりも厳しい幼なじみチェックをパスできる男はまずいないだろうと断定し、風丸と鬼道は顔を見合わせ苦笑した。
「ねぇあなた、うちのちゃんそんなに魅力ないのかしら」「修也くんが娘の魅力に気付いた時点で、お泊りは二度とさせません!」