俺の幼なじみがこんな隠し芸持ってるわけがない
ファイアトルネードを使えるようになったばかりの頃、たくさん見せてたくさんすごいねと言ってもらいたくて体力が尽きるまで見せびらかしていた。
買ってもらったばかりの玩具を自慢げに見せる心境とそう違いはなかったと思う。
誰だ、に必殺技を教えたのは。
豪炎寺は隣のベンチで準備体操にしてはやけにゆるゆるふわふわなストレッチをしているを横目で見やり、自チームに潜んでいるであろう犯人へと視線を移した。
この中のどこかにをけしかけた犯人がいる。
に懐かれているのをいいことに、興味本位でに自分の必殺技を伝授した奴がいる。
にサッカープレイヤーとしての素質がないことはわかっているので、さほど脅威はない。
恐ろしくはないが、ただただひたすら面倒なのだ。
豪炎寺は数分後に待ち受ける面倒でしかない試合を思い、深くため息をついた。
「これはどういうことだ豪炎寺。に何があった」
「俺が知りたいくらいだ。サッカーボールもろくに蹴れないがサッカーやろうよなんて正気の沙汰とは思えない」
「俺は常々とはゲームメーク勝負をしてみたいとは思っていたが、とフィールドでボールを奪い合う勝負をする日が来るとは思わなかった。必殺技を覚えたというのは本当なのか?」
「本当だよ」
「「フィディオ」」
招待されたのか勝手に入り込んだのか、当然のようにチームに加わり支度を整えていたフィディオが柔和な笑みを湛え歩み寄ってくる。
なぜだろう、彼の笑みを見ていると負けた気分になってくる。
先入観で人を見てはいけないと言い聞かせはするのだが、やはりこちらも人である以上、自分にないものを持っている人物に対しては劣等感を抱いてしまうらしい。
フィディオは訝しげな表情を浮かべている豪炎寺と鬼道にオーディンソードと告げた。
「俺はちゃんに教えたんだ、オーディンソード」
「嘘をつくにももう少しまともな嘘を言え、にできるはずがない」
「できてたよ。そりゃ威力は落ちてるけど、あれはまさしく俺のオーディンソードだった。気分がいいよね、自分の必殺技を好きな子が使うって」
「・・・・・・」
「そもそも今日こうなったのだって、君はちゃんに余計なことを言ってまた怒らせたからなんだろう? 俺まで敵扱いされたのは心外だけど」
「・・・あのくらいはいつものことだ」
「ちゃんはそういう『いつも』は望んでないんじゃないかな。だからご覧よ、今日のちゃんはすごくやる気だ。本気で俺たちを潰しにかかるつもりらしい」
試合に持ち込まれずとも既に潰されかけているとは、鬼道や風丸よりも遥かに度の強い色眼鏡でを見ているフィディオには言わない方が良さそうだ。
虫の居所が悪いのか単なる意地悪か、同じFW陣の中でもは特に自分にハードなトレーニングを課してくる。
染岡はグラウンド3周なのに対してこちらは6周など、悪いしか感じられない。
まだまだいけるでしょだって修也でしょと根拠のない持論を展開しては次々と課せられていくヘビー級のトレーニング苛めに、豪炎寺は開始3日目でぶち切れていた。
同じトレーニングをもやってみろ、なぁんで私がやるわけ私はご意見番ですう。
食べるだけ食べて寝るだけ寝て少しだらけ始めたこそダイエットした方がいいんじゃないのか。
むうなんですと、太ってないもんスタイル抜群になってるだけだもん。
その台詞はもっとくびれができてから言ってみろ!
思い返してみても、取り立てて間違ったことは言っていないはずだ。
が動かず食べては眠り生活を繰り返していることは事実だし、本人の意向とは裏腹にちっともスタイル抜群になっていないのも正しい。
正しいことを言っただけだというのになぜこちらが糾弾され、挙句悪役として成敗対象にならねばならないのだ。
事実をありのままに伝えただけなのに、なぜ風丸から落第者の烙印を押されなければならないのだ。
だけならまだしも、なぜ女性の敵とみなされているのだ。
豪炎寺は突きつけられた現実のすべてを受け入れることができなかった。
「チームちゃん、実力は未知数だね・・・」
「未知数だろうがこっちは各国代表揃いだ。ここでを徹底的に躾ける」
必殺技を1つや2つ覚えようが、所詮はだ。
軽くあしらってやればも実力差に気付き、そして考えを改めてくれるだろう。
豪炎寺はきゃいきゃいと華やかな女の子だらけの対戦チームを見据え、グラウンドへ足を踏み入れた。
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