何の勝算もなしに戦いを挑むほど無鉄砲ではない。
それなりに下ごしらえを済ませた上で、さも唐突を装い喧嘩を吹っ掛けただけだ。
我が幼なじみin日本は、サッカーバカだが頭もなかなかに切れる曲者だ。
面倒で厄介でしかない曲者を相手にするのは、無駄に体力を使うので好きではない。
しかし、ああまで言われて黙っていては奴はさらなる暴言を吐きかねない。
これは乙女のプライドを賭けた宿命の戦い、聖戦なのだ。
はグラウンドに集まったチームメイトに向かって勝とうねと発破をかけた。





「今日こそ修也の口にサッカーボール詰めてその口利けないようにしてやる」
「確かにお前の言うとおりだ。私もそろそろあの馬鹿の口を塞ぎたいと思っていた。今日は遠慮なくやらせてもらう」
「玲名ちゃんその意気! いーい、ささっとこそっと1点もらったら後は逃げ勝つからね」
「それは楽しそうだけど勝つ見込みはあるのかな? だって相手は円堂くんたちだよ?」
「勝ち目のない戦いにみんなを召喚するわけないでしょ。ご意見番の本気、見せたげる」





 伊達にチームの状態を見ているわけではないのだ。
個人に合ったトレーニングを課し、そして更に見極めていくくらいの芸当は若葉マークのご意見番でもできる。
そうだというのにあの馬鹿は、人の思いやりも知らずに当り散らしやがって腹が立つ。
食べて寝ているだけではなく、それなりに運動もしているのだと今日は目の前で見せつけてやらねば気が済まない。
はじっとこちらを見つめている豪炎寺を睨み返した。
奴の弱点も既に把握済みだ。
力ではこちらが劣るが、弱点を攻め続ければ勝機は見えてくる。
はイナズマジャパンでいう鬼道のポジションに立つと、始まった試合を突っ立ったまま観察した。
ちゃんは動かなくていいよ、いざという時だけやってくれればいいよと自分を除くすべてのチームメイトに言われたので、フィールドの邪魔にならない場所に突っ立っている。
秋たちがなぜあのように言ったのか真意はわからない。
わからないが、それも作戦らしいのでいうことを聞いて指示だけ飛ばしている。
は駆け寄ってきた風丸にぶんぶんと手を振った。





はどうして動かないんだ?」
「動かなくていいよって秋ちゃんたちが」
「ああ、なるほど・・・。お互い楽しい試合にしような!」
「やだ」
「豪炎寺にまた何か言われたなら俺からも言っておくから、あんまり臍曲げないでくれ」
「修也が謝るまで許すもんか。あ、そこ玲名ちゃん壁山くんを飛び越えてまずは左隅にシュート!」





 ハグしたい気持ちをぐっと堪えまたね風丸くんと告げ、より見やすい場所へと移動する。
ふざけるなと飛んでくる怒声にじゃあ謝れと怒鳴り返すと、円堂が喧嘩は後にしてくれと悲鳴を上げる。
前線で油を売っている豪炎寺はいいだろうが、守備に徹するディフェンス陣はの指示によりなされる波状攻撃に崩壊寸前だ。
さすがはご意見番だ、こちらの弱点しか突いてこない。
右に回れば読み切ったように左へ動くし、すべての原因をマークしても司令塔自体は動かないので防ぎようがない。
1人キーパー、1人が傍観者と明らかにチームの方が人数が少ないというのに、何なのだこの苦戦ぶりは。
イナズマジャパンだけではなくオルフェウスの白い流星まで擁しているのに何なのだ、この無様な姿は。
円堂はゴールポストギリギリに入るよう放たれたシュートを辛うじて弾くと、とんとボールをキープしたを見上げ硬直した。
はにっこりと微笑むと、ぎこちない動作でボールを高く蹴り上げた。






「円堂、何が何でもを止めろ! これ以上を調子づかせるな!」
があんななっちゃうまで酷くしたのは豪炎寺、お前だろ!?」
「・・・違う! をああしたのは・・・・・・フィディオだ!」
ちゃん、落ち着いて深呼吸して、それから俺のことをよく思い出して打つんだよ」
「「フィディオ!?」」





 あろうことか敵にアドバイスを送っているフィディオを顧みると、フィディオがだってと言い照れ笑いを浮かべた顔を見せる。
好きな子が俺の必殺技打つんだから応援したくなる気持ち、そもそも教えられていない豪炎寺にはわからないよね。
あああああ、笑顔を今すぐ引っぱたきたい!
きらきらと輝く笑みを見せるイケメン面にファイアトルネードをぶち込みたい!
えーっとぉと間延びした口調でが右足を高く振り上げる。





「オーディーーーーーン・・・・・・はいパス玲名ちゃん!」
「よし!」
「えっ、いや、ちゃん、そこはシュートしていいんだよ?」
「だってどう考えても私のへなちょこシュートでゴールできるわけないでしょ」




 だから大事なとこは私がやってみんなの視線釘付けにしたとこで、とどめは玲名ちゃんに打ってもらおうと。
太った疑惑の私の魅惑のプレイに見惚れちゃってるなんて修也もまだまだよねえ。
にんまりと意地の悪い笑みをが浮かべた直後、玲名の奇襲シュートがゴールに突き刺さった。









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