本当に、黙っていれば可愛らしい。
半田は振袖姿できゃっきゃとはしゃいでいるマネージャー陣とと見つめ、口元を緩めた。
4人で並ぶととても華やかだ。
可愛いと連呼している風丸のようには言えないが、同意は大いにできた。
本当に、中身があれなのが惜しい。
あれでなかったらと何度思ったことだろう。
ここまでを野放しにした豪炎寺を恨んでも恨みきれない。
「そういえば初夢どんなのでしたぁ?」
「うーん、私はみんなでサッカーやってる夢だったかな」
「木野先輩らしいですよ! さんはどうでした?」
「私? それが変な夢でさあ、誰かと結婚して子持ちになってた」
「だ、誰ですかその相手! お兄ちゃんでしたかお兄ちゃ「やめないか春奈、が困ってるだろう」
ものすごい勢いで話に食いついてきた春奈から半歩ほど引くと、は口元に指を当てことりと首を傾げた。
誰かと言われても夢の話だからよく思い出せない。
ふと辺りを見回すと、春奈たち女子だけでなく豪炎寺たちもこちらを注目している。
どうしよう、新年一発ギャグを期待されている芸人のようだ。
困った時の半田へ顔を寄せどう受けを狙うべきかと尋ねると、ありのままを話せと言われる。
だから、ありのままと言われても夢の話ほどあやふやなものはないのだ。
「旦那さんはどんな人だったの?」
「よく見えなかった。あ、でも子どもはちっちゃくてねー、可愛かった」
「誰かに似てるとかないのか? どこかあるだろう、似ているところ」
「うーん、あ、茶髪だった」
「お兄ちゃんですね! お兄ちゃん茶髪だし!」
「俺も茶髪だけど俺じゃないよな」
「うん、円堂くんじゃあないと思う」
「誰の子どもにしてもの子どもだったら可愛いんだろうなあ」
「そうだと嬉しいな! ていうか春奈ちゃん、さっきから鬼道くんばっかりプッシュしてどうしちゃったの?」
鬼道は手の中のおみくじに目を落とし、くしゃりと紙を握り潰した。
恋愛運の欄には、前途多難にも程があるので再起不能の怪我を負う前に諦めた方がいいと書いてある。
今年初めのファーストアタックからこれなのか。
助走もなしに高い障壁にぶつかった気分だ。
ある意味予想ができた反応とはいえ、面と向かってやられると辛い。
本人の傷が癒えるのを待たずして続けられる春奈のアシストを少し止めたくなってきた。
「でも鬼道くんじゃないと思うんだ。子どもの目は黒かったし、案外半田かもしれない」
「なんでお前はそうやって無邪気に俺を死地に追いやるんだ!?」
「私だって半田はやだよ、だって半田だよ? 半田にするくらいなら修也の人格矯正して修也で手を打つよ」
「俺をどうしたいのか具体的に教えてくれないか、?」
「どうって、こう全体的に紳士的で優しくてとにかくいい男に・・・。あっ、それなら鬼道くんでいいじゃん! 盲点だったー、ごめんね鬼道くん」
急に無限の壁が音を立てて崩壊した。
外部からの圧力によるものではなく、あろうことか壁を築いた本人の手でぶち壊された。
鬼道の脳内での初夢の光景らしきものが再生される。
大人になったの隣に座り、肩なんて抱いてみる大人らしき自分。
微笑むと、も蕩けるような笑みを浮かべ体をすり寄せてくる。
庭では目に入れても痛くない愛息が犬と戯れている。
なんと素晴らしい未来だ、早くやって来ないものか、未来。
鬼道は勝手にの夫となった自身を想像し悶絶した。
「おい、おい鬼道! 駄目だ鬼道が突っ立ったまま息止めてる!」
「えっ、どうしちゃったの鬼道くん! おおおお餅喉に詰まらせちゃった!? 背中叩く!?」
「鬼道もまた器用な息の止め方覚えたなあ。初めはぶっ倒れるだけだったのにさすがは天才ゲームメーカーだ!」
「円堂、そこは感心するところじゃない。鬼道しっかりしろ、魂を飛ばすな帰って来い!」
「あ、そうだ! 私まだお参りしてきてないからそこの神様に鬼道くん治して下さいって頼んでくる!」
「じゃあ俺はの付き添いで。行こう、はい手」
「わ、やっさしい風丸くん!」
おとぎ話でよく見る仕草での手を取った風丸が、賽銭箱の元へを連れて行く。
すべての発端であり原因がいなくなったことを確認すると、豪炎寺は容赦なく鬼道の背中を叩いた。
わっと叫び意識が戻った鬼道に詰め寄り、白昼夢はやめろと叱る。
鬼道は白昼夢じゃない未来の現実だと言い張ると、今年はやると高らかに宣言した。
「さっきが言った言葉を忘れたのか。紳士的で優しいのは俺の専売特許だ。がそれに気付いてくれた以上、俺はの初夢を叶えてやらなければならない」
「夢は夢だろう。俺も今年の初夢は気味が悪いほどに優しくなっただったが、現実を見て幻滅した。夢は所詮は夢だ、現実と混同するな」
「豪炎寺、まともな事言ってるつもりなんだろうけど、お前の初夢相当気持ち悪いぞ。何だその汚れた願望」
「そうだ豪炎寺、初夢にを出して何をした。を欲望の対象にするな」
「鬼道にだけは言われたくない」
がいなくなった途端にこれだ。
の友人代表としては、豪炎寺と鬼道のどちらにもをやれない。
どちらにやってもは大変だと思う。
半田は、の初夢とはかなりかけ離れたことでバトルを始めた2人をとりあえず仲裁することにした。
サッカーをやっていないとこうも酷いのか。
早く戻って来てくれないだろうか、俺の親友と最終兵器風丸。
風丸はどこまでを連れ回しているのだ。
ちょっと行って帰ってくるだけなのに、おつかいもろくにできないのか最近の中学生は。
邪魔をするな半田、そもそもお前が茶髪黒目だから紛らわしいんだと訳のわからぬ逆ギレを受けながらしぶとく待つこと15分。
ただいまぁと聞こえてきた華やかな声に、半田たちは一斉に声のした方を向いた。
「おっせーよ何やってたんだよ!」
「インタビューされてたんだよな、テレビ局に」
「ねー! 可愛いカップルですねって言われたから、カップルごっこしてきたんだ!」
「「カップルごっこ・・・?」」
「縁結びの神社行って一緒に岩に触ったり、恋おみくじ引いたりした。楽しかった、色々」
「すっごいんだよ! 目瞑ってそれぞれが両端から歩いて真ん中の岩触るんだけど、ぴったりビンゴ! おみくじも大吉だった!」
「の初夢もさ、よく考えたらたまたまその子がに似てるってだけなら旦那さんは俺でも染岡でもいけるよ」
「頭いいよねさっすが風丸くん! ぎゅってしちゃお!」
「今年最初のぎゅって返しだ、よしよし」
うんまあわかってた、風丸と行かせたら99パーセントこうなるって。
なんで喧嘩してたんだろうって馬鹿馬鹿しく思えるほどにいちゃついて帰って来ると。
後でお参りをする時に、もう少しが優しくなって風丸と距離を置くようにと頼んでみよう。
豪炎寺は恋おみくじを囲み秋たちと盛り上がり始めたを見つめ、再び魂を飛ばそうとしている鬼道の背中をばしりと叩いた。
「『相手には困らない』だってー! モテ期? モテ期到来!?」「もういつでもモッテモテですよぅ、さん!」
リクエストして下さった方へ
アキラさん、リクエストをしていただきどうもありがとうございました。
初夢のお話もされていたのでそっちもそれとなく混ぜてみると、初詣感が随分薄くなりました。
初詣に一度も行ったことがない私にとって初詣はまさしくドリームストーリーだったので、いい経験になりました。