やっぱりよく見ているんだなと改めて思う。
サッカーだけではなくて、洞察力そのものが優れているのだと思う。
風丸はアドバイスを元に用意したプレゼントを鞄の中に潜ませたまま、部活の終わりを待ちかねていた。
本当は部活が始まる前に渡したかったのだが、円堂たちが大勢いる中堂々と渡すことはできなかった。
渡すことが恥ずかしいわけではない。
人前で開けられて恥ずかしい物を送ったわけではないしむしろ、いいチョイスだという自信も少しばかりはある。
それでも渡さなかったのは、雰囲気を大切にしたかったのだ。
がやがやと騒がしい部室でどさくさ紛れに渡すのは、好きな人の一年に一度しか訪れない大事な記念日を祝う場に相応しくない。
TPOはとても大切なのだ。
これが読めるか読めないかで人の印象はがらりと変わってしまうのだ。
「蒼維」
「なに、風丸。あ、さっきのパスだけど良くなってたよ、すごく受けやすかった」
「ありがとう。今日、部活終わった後少しいいかな?」
「いいけど・・・?」
極めて平静を装って言ったつもりだったが、緊張が少しだけ出ていたらしい。
表情がぎこちないけど大丈夫と心配されてしまい、風丸は慌てて平気だと答えた。
本当は平気でもなんでもない。
上手く渡せるかと不安だった。
風丸くんならいけるよ風丸くんができないんならだーれもできないよと励まし応援してくれたのためにも、ここはひとつびしっと決めたい。
彼女が誰と比べて褒めてくれるのかは、比較対象の名誉と誇りのためにもあまり考えたくないが。
「風丸ー、そっちいったぞー!」
「おう!」
ふわふわと浮ついた気持ちはとりあえず横に置いておこう。
今は雷門中サッカー部員でDFの風丸一郎太で、部活終わりの自分とは似て異なる存在だ。
スイッチの切り替えははっきりしておかなければ周囲に迷惑をかけてしまう。
そう心に決め、部活の時間は夢中でボールを追いかけ練習に励む。
数時間後、いつもと変わらないハードな練習を終え部室へと戻る。
着替えが終わり次第帰っていく部員たちを見送り、ようやく2人きりになる。
風丸は蒼維に向き直ると、ゆっくりと名前を呼んだ。
「どうしたの、急に改まって」
「そんなにぎこちなく見えてる?」
「うん、ちょっとだけ」
「・・・まあ、そのあたりは気にしないでくれ。誕生日今日だったよな、おめでとう」
「・・・・・・はあ」
「・・・え?」
いまいち反応が薄いことに戸惑い、もしや日付を間違えてしまったのかと急に不安になる。
いや、そんなことはないはずだ。
誕生日を訊いた時は何度も確認したし、手帳も何度も見返した。
それでもほとんど無反応に等しいのはなぜだろう。
奇妙な沈黙に耐えかねたのか、蒼維があのうと声を上げた。
「今日だよ、ありがとう。それで・・・、どうして今?」
「どうしてって・・・。あ、はいこれ、気に入るかどうかわかんないんだけど誕生日プレゼント」
「あ、ありがとう! 開けていい?」
何だろうと嬉しそうに包みを開けていく蒼維の手元をじっと見つめる。
あまりゴテゴテしたラッピングはしないでくれと頼んだはずなのに、紙を破かないように丁寧に包装を外していく時間は気が遠くなるほどに長い。
色も一番似合いそうなものを選んだが、本当にこの色で良かっただろうか。
最後まで悩んだあっちの色の方が実は良かったかもしれない。
いや、そもそもこれで喜んでくれるのか。
女の子への贈り物はどれも可愛いものだから選ぶのは楽しいが、似合うかどうかを考えていると他の何よりも難しい買物になる。
本人は色や柄など気にしないと言うかもしれないしそう思っているかもしれないが、贈る方としては一番似合う物を送りたいのだ。
風丸は蒼維の歓声を聞き顔をばっと上げた。
「え、どうしたの風丸、これもらっていいの?」
「もらってくれると嬉しい。ほら、部活終わって顔洗う時って前髪邪魔だろ?」
「うんうんなるなる! 濡れると気持ち悪いし、でもこれなら思いっきり顔洗えそう。私、円堂のバンダナちょっと羨ましかったんだよね」
「ああ、あれなら濡れにくいしな。バンダナにしようかとも迷ったんだけど、そっちの方が蒼維に似合うかなと思ってさ。
良かったら使ってくれ・・・って言いたいけど、蒼維の好みもあるだろうから後は任せる」
「使うよもちろん。ありがとう風丸、早速明日からこれ使うよ」
もらったばかりのカチューシャを手に取り嬉しそうに笑う蒼維を見て、風丸もつられて笑みを浮かべた。
良かった、気に入ってもらえて本当に良かった。
精神的に重すぎず、けれども役に立ちそうなプレゼント。
同じ色のにしたら風丸くんとお揃いでもっと素敵になるよとアドバイスしてくれたには、後で礼を言っておこう。
風丸は早速カチューシャをつけている蒼維を見つめた。
「どう?」
「すごく似合ってる、可愛い」
「ちょ・・・、びっくりした」
「そうかな? 思ったこと言っただけだけど」
「風丸ってそういうキャラだったっけ・・・?」
「知らなかったならこれから覚えてほしい。他にも俺のことたくさん蒼維に知ってほしい。俺も知りたい」
楽しいことも辛いことも、なんでも共有できる特別な存在になりたい。
言外にそんなニュアンスを込めてみたのだが、果たして彼女は気付いてくれただろうか。
風丸は一足先に外へ出た蒼維の後を追うと、隣に並び極めて自然な動作で彼女の手を握り締めた。
「あっ、ほんとにカチューシャしてる可愛い!」
「えっと、・・・さん?」
「うん! あ、はじめまして蒼維さん。舞姫って呼ばれてたんだよね? 小学校の頃もくるくるきらきらしてたけど、今もかぁっこいい!」
「・・・鬼道、後で絞める」
「え、鬼道くん? あーこらちょっと半田! 私に見惚れてないでちゃんと練習しなよ、ったくもう!」
あちらの風丸さんを目指したらうちの風丸さんがちょっと混じってしまったけど、突っ込むところはもっと他にたくさんあると思う