その進路、一方方向につき




 自分勝手にも程がある。
他人を巻き込んだ未来設計図を作り上げるなど許せるわけがない。
もういい、今度こそ絶交だこの腐れ幼なじみめ。
は今日のお泊りスポットで淡々とこれからの予定を話し続ける豪炎寺の横顔を見つめ、むうと眉をしかめた。
週末の待ち合わせ場所を伝えるのと同じテンションで言う馬鹿がいるか。
まあ、目の前にいるのだが。




「これから俺たちはどんどん出て行くことになる。染岡なんて北海道だ、近くて良かったな」
「いいって何が?」
「俺は木戸川だから近くていいって意味に決まってるだろう。はいつ来る? 俺と同じ方が戻りやすいかな・・・」
「え、なに、私も戻るの? なんで?」
「戻らないのか? どうして?」
「どうしてって・・・だって私関係ないじゃん、なんで修也こそ私も木戸川に行くって当たり前みたいに考えてんの?」
「関係なくないだろう、雷門でも一緒だったのに木戸川じゃ別なんておかしい」
「だーかーらー! もう、なんでそんなに勝手なの。いーい、私絶対木戸川行かない、修也なんてブザマ3兄弟にコテンパンにされちゃえばいいんだー!」
「武方だ。あ、どこに行く!」





 慣れ親しんだ豪炎寺家のリビングを飛び出し玄関を開け放ち、お家帰ると言い捨てる。
いつだって自分勝手な男だが、さすがに今回はやりすぎだ。
確かにこちとらごり押しに弱い流されやすい性格をしているかもしれないが、流すにしてももう少しスマートに押し切るような芸が欲しかった。
毎週末のサッカー観戦とはスケールが違うのだ。
夕食後のなんとなーくののんびりした会話で出していいようなふんわり案件ではなかった。
いきなり転校要請して受け入れてくれるとでも思っていたのだろうか。
思っていたから出したのだろう。
どうせいつもの流れで話せば大丈夫なんて能天気なことを考えながら話していたのだ、あの年中汗臭く暑苦しいサッカーバカは!





「追いかけてもこないし・・・お家帰ってもパパママしないし・・・もーーーーーーー!」





 別に追いかけてこられても豪炎寺家に戻るつもりはさらさらなかったが、何もなければないで腹が立つ。
サッカーが絡めばとことん執着してくるのに、面倒だとわかればたちまち放ったらかしにされるのも気に喰わない。
この様は都合良く扱えるマジ女神ではないのだ。
大体何が強化委員だ、サッカーよりも先に長年連れ添った幼なじみしかも美少女へのもてなし方を風丸に指南してもらうのが先だろうに、本当にあのサッカーバカは自分のことが見えていない。






「思い出しただけで苛々してきた・・・。あーもーそれもこれも修也が悪い! 修也のバ「?」





 戻るあても行くあてもなく、河川敷のサッカーグラウンドでぶつぶつと呟いていると不意に声をかけられる。
だいぶ恥ずかしいところを見られてしまった。
今よりもっと恥ずかしいもはや黒歴史として人生史に刻まれてしまったエピソードに比べればまだまだ可愛いものだが、あまり見てほしいものではない。
はグラウンドへ降りてきた鬼道にひらりと手を振った。





「鬼道くんこんばんは、こんな遅くにどうしたの?」
こそこんな夜更けに何をしてる。散歩・・・ではなさそうだが」
「うーん家出・・・じゃないけど家出かなあ」
「家出? 喧嘩でもしたのか? だが、だからと言って本当に飛び出すのは感心しない。不審者でも出てきたらどうするんだ」
「鬼道くんは不審者じゃないでしょ。それに喧嘩したら帰りにくいじゃん、お家には誰もいないし・・・」
「誰もいないのに喧嘩して家出? 、いったいどこから・・・」
「まーまーいいじゃんそんなこと! あっそうだ鬼道くん、もし鬼道くんが良ければなんだけどお泊りしてかない? うち、今日誰もいなくて帰っても寂しいんだあ」





 先程からが何を言っているのかさっぱり理解できない。
誰と喧嘩をしたのかもわからないし、家出とやらもどこからしてきたのかわかったものではない。
以外誰もいない自宅で喧嘩をして家出して、寂しいから泊まりに来い?
駄目だ、話が破綻している。
登場人物が圧倒的に足りない。
現時点でわかっていることはただひとつ、このまま訳もわからないまま頷くととおそらくは2人きりでお泊りコースだ。
どうしよう、頷いてしまいたい。
だが、背景を何も知らずに家を訪ねるのはいささか不気味だ。
喧嘩の仲裁をしてもいいが、相手が誰かわからない以上今はお互い家には近付かない方がいい気がする。
だとしたら答えはこれしかない。
鬼道は自身をじいと見つめてくるを前にごくりと生唾を飲み込むと、ゆっくりと口を開いた。





「家に・・・来ないか?」
「へ? 鬼道くんち? いきなり行っていいの?」
「問題ない。待ってくれ、今車を出してもらって部屋も手配する」
「えーえーどうしようー鬼道くんとこにお泊り・・・! お泊りセット持ってきてて良かったあ」
「準備がいいんだな、さすがはだ。だが、やはり家族を心配させるようなことは良くない。喧嘩のことも含め話してくれるな?」
「いいけど・・・、でっ、でも! 鬼道くんは私の味方してくれる!?」
「話を聞いてみないことにはなんとも言えないが・・・、庇える限りはの側に立とう」




 喧嘩がよほど不安だったのか、味方を得たがぱああと表情を明るくする。
ナイター設備の照明よりも明るい太陽のごとき輝きだ。
見守り続けたい、この笑顔。
鬼道は自らの野性と本能に勝利した理性に心から安堵した。









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