もはや定例会と化してしまっていた豪炎寺の対策会議も、ついに今日で終わりかあ。
この会議が早々に機能不全に陥ったすべての原因は議場となるサッカー部室に議題にして事態の張本人が参加していたことなのだが、最終回となるであろう今回もはばっちり着席済みだ。
今日は弁護人とばかりにの隣には鬼道も控えている。
ろくなことにならないなとは、当人たちがいる以上心の中に留めておくしかない。
今日はいったい何事だろうか。
俺、まだ荷造り終わってないんだけどなあ。
円堂は、むすりとご機嫌斜めの豪炎寺にどうしたと努めて明るく声をかけた。





「豪炎寺はもう準備終わったか? 木戸川だから懐かしい仲間や友だちとまた会えるといいな!」
「俺は終わっている。だがが」
「あ、もう本題に入るのか。がどうした?」
「行かないとごねている」
「行くわけないじゃん。ね、円堂くんもおかしいって思うでしょ。おかしいって顔してるからはい円堂くんも私の味方ですう」
「行かない理由は何だ。大体昨日も嫌だと勝手に切れて外に飛び出して・・・。あんな時間に危ないだろう!」
「とか言ってる癖に追いかけもしなかったじゃん! こっちなんて鬼道くんにおもてなしされちゃったし、もーどうせ行くなら鬼道くんについてこうかな」
「鬼道を巻き込んで迷惑をかけるな! 鬼道、を甘やかしすぎだ。強化委員就任をいい機会に距離を置け」




 先程から黙っていれば言われ放題だ。
認めたくはないが事実として確かにそうとしか聞こえない夫婦喧嘩もとい痴話喧嘩に巻き込まれ、恋の当て馬のような浮気男のような間男のような、
とにかく不遇な扱いをされた上にごくごく自然と豪炎寺に接近禁止令を言い渡された。
確かに初めにお泊りを誘ってきたのはだが、乗っかった上に自宅へ招き入れたのはこちらだ。
巻き込まれるどころか混ざりたくて渦中に飛び込んだのだ。
昨日の時点では、まさかの喧嘩相手が豪炎寺で家出元が彼の家だとは知りもしなかったのだが。
鬼道は外野そっちのけできゃんきゃんと喧嘩2回戦を始めている2人を交互に見つめた。
豪炎寺がを連れていきたい理由はわからないが、気持ちはわかる。
いて当たり前だったから、今回も来て当然だとでも思っているのだろう。
しかし、彼はがそのあたりの繊細な気持ちを汲み取れると思っているのだろうか。
できるわけがない、あのなのだ。
何度それとなくアタックしても斜め上の返答ですべてを粉砕し消し炭にさせてきたが、今になって急に豪炎寺の言葉足らずなわがままを理解できるわけないではないか。
それができているのなら、と豪炎寺はとっくに出来上がっている。





「木野は円堂に、音無だって鬼道について行くのにわがままを言うな。というか音無だけじゃなくも連れて行こうとは鬼道、どういう料簡をしている」
「ふっ、が行きたいと言うなら俺が止める理由はないだろう・・・。安心しろ豪炎寺、は俺が一生幸せにすると約束しよう」
「いや私別に鬼道くんのえーっと星章学園だっけ? にも行かないけどね」
さんさっき行こうかなって言ってたじゃないですか! お、お兄ちゃんその気になってますよ!?」
「だって星章遠くないじゃん。そりゃ染岡くんみたく超遠くなら考えるかもだけどさ、鬼道くんとは鬼道くんが会いたいって言えば会いに行ける距離なんだからわざわざ転校まですることなくない?
 木戸川だってそうじゃん。だってのに修也はぶちぶちぐちぐち、一生会えなくなるわけじゃないっつーの」




 異世界に転生するわけでも、タイムスリップするわけでもないのだ。
ただ通う学校が変わるだけなのに、どうして豪炎寺が頑なになるのか意味がわからなかった。
他校の生徒と係わってはいけないなんて校則はなかったはずだ。
自分で勝手に他校とは係わらないという縛りを課した生き方をしているのなら止めはしないが、それならそれでこちらにまで強いないでほしい。
会いたいと言えば時間は空けるだろうし、特別何かが大きく変わるわけではないのだ。
そうだというのにあの男は、真性のサッカーバカとの付き合い方はこれを期に考え直した方がいいかもしれない。





「えーっと、じゃあは雷門に残って豪炎寺は単身赴任ってことでいいんだな? 豪炎寺、ひとりで大丈夫か?」
「円堂、その言い方はやめろ」
「いい離れの機会じゃないか。、星章はこれからもっと強くなる。いつでも遊びに来てくれ」
「イケメンいるかなあ」
「ああ、揃えておこう」
「やったー! みんなが散らばるから応援も行きやすくなるね。あっでも対戦相手になったらどうしよう・・・」

「わかってるって。ったく修也そんなんでほんとにひとりで行けるの? 無理でもついてかないけど」




 怒っているのか寂しいのか、そのなんとも言えない顔を見せるのは時々にしてほしい。
あまりに見ていたら、ついつい絆されて元いた学校の制服を引っ張り出してしまいそうになる。
はモヤモヤ空気をかき消すべく、豪炎寺の背中を思いきり叩いた。






もはやお泊りについては誰も言及しない






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