パーティースタイルを立食形式にしたのはいい考えだと思う。
誰の発案かはわからないが、立食パーティーを提案した人物を鬼道は心の中で褒めていた。
がやがやと動き回る円堂たちには、決まった席などあってないようなものだ。
適当にテーブルを用意しておけばそこで寛げるので、こちらの方が余計なことを考えずに済む。
の隣の席に座ることで揉めたりやきもきする必要もないのだ。
さりげなく近寄ってさりげなく話をすれば雰囲気が良くなるからだ。
緊張していることもそう簡単には見破られまい。




「えっ、あいつ本当に引っ張ってきたのか?」
「うん。おかげでコートが雪まみれになってさあ、やんなっちゃう」
「俺がエスコートした方が良かったのかな。ごめんな、気が利かなくて」
「ううんいいの、でもやっぱり風丸くん速かったなぁ、あっという間に見えなくなっちゃったもん」




 なにやら深刻な顔をして話し合っている風丸とを見つけ歩み寄ると、鬼道の姿に気付いたがひらひらと手を振り席を勧めてくる。
風丸の隣も空いていたが勇気を振り絞りの隣に座ると、が嬉しそうに笑う。
外が寒かったからなのか、頬がほんのりと上気している。
照れているようにも見えて可愛いなと思っていると、鬼道の心の声を読み取ったのか風丸が可愛いと呟いた。




「え?」
「んー、今日のはほっぺがいつもよりも紅くて可愛いなあって。寒いわけじゃないよな?」
「わ、ありがと風丸くん! 外ほんとに寒いよねー、ったくそれなのに修也ってばもう・・・」
「豪炎寺と何かあったのか?」
「遅刻するかもしれないから引っ張られて、コートが雪まみれに」
「それは大変だったな。だが遅刻とは珍しい」
「いやあ、寒くて朝ぐずぐずしてたからいけないんだと思う。でも遅れたくないんなら鍵は私に預けて修也は先に行っときゃ良かったのにね」
「・・・?」




 何か今、引っかかることを言われた気がする。
鍵を預けてとは、まるで昨晩一緒にいたかのようだ。
豪炎寺の家に彼の父が滅多に帰って来ないことは話には聞いていたが、だからといってほいほいと年頃の女子を家に連れ込んでいいのか、いや、いいわけがない。
幼なじみだろうが何だろうが、男は誰だってどこかに狼を飼っているのだ。
満月の夜うっかり豪炎寺が狼男になってしまったらどうするのだ。
は格好の獲物ではないか。
危ない、非常に危ない、危険すぎる。
鬼道は自らの発想が最も危険だということに気付くことなく、豪炎寺を危険人物だと認定した。
後でやめろと叱っておかなければならない。
不純になりそうな異性交遊は恋敵は許しません。
ルールと道徳倫理総無視の既成事実を作っていいのなら、こちらだって望むところだ。
どこからか春奈が調達してきた酒だか惚れ薬だか媚薬だかを、何としてでも飲ませてやる。
本当に、我が妹はどうやってこれらを用意するのだろう。
ネットの力だろうか。
恐るべしネット、もしかしたら愚兄の恋活日記なんてブログも開設されているかもしれない。





「あ、ちゃんここにいたんだ」
「秋ちゃん! 春奈ちゃん、夏未さんもこんにちは! 今日はお招きどうもありがとう!」
「華はたくさんあった方が盛り上がるしね。どう、楽しんでいて?」
「うん! 美味しいねこのお料理、レシピ教えてほしいくらい」
「私も同じこと思ったの。夏未さん、このお料理の作り方教えてくれない?」
「後でシェフに頼んでおくわ。音無さん、あなたは?」
「私はいいかなー・・・」





 春奈は夏未からの視線を逸らすとさりげなく兄に目配せした。
今言えすぐ言え、が作った料理を俺も食べてみたいとどうして言わない。
春奈は根気良く兄の口が開くのを待った。
開く気配が一向にない。
彼なりの言い方を考えているのかもしれないが、こういうのはタイミングが大切なのだ。
さぁお兄ちゃん早く!
春奈の耳に風丸の声が飛び込んできたのは、鬼道の口がわずかに開いたその時だった。




「お「へえ! 俺も食べてみたいな。、今度作る機会あったら俺も食べていい?」
「うん! えへへ、風丸くんに食べてもらえるなら気合い入れて作らなきゃ!」
「あ、それとも俺も手伝おっかな。そんなに難しいことはできないけど、野菜切るくらいなら手伝えるかも」
「それはとっても嬉しい! 美味しくできたら鬼道くんも食べてくれる?」
「も、もちろんだ。俺も手伝おう、玉ねぎを刻むのは任せてくれ」




 後手に回った。風丸に負けた。
勝とうと思ったことはないが、いやもう風丸は何かの殿堂入りを果たしているので勝つだなんて畏れ多いが、完璧に攫われた。
春奈のアイコンタクトにはもちろん気付いていた。
何を言うべきかもわかっていた。
風丸の第一声がまさしくそれだった。
言えなかったのは恥ずかしかったからだ。
浮いた言葉を言い慣れていないから、慌てて言うと舌を噛むかどもるか声が裏返りそうで怖かったのだ。
だから心の中で5回ほど練習した。
練習してなんとか言えそうだと自信を持てた気がして口を開いたら、見事に風丸と被った。
春奈の視線が痛い。
何を言おうとしていたのか理解し、静かに見守っていたマネージャーたちの心遣いを無駄にしてしまった。
そうだ、ギャラリーが多かったから緊張したのだ。
これが仮にと2人きりだったら言え・・・ない、もっと言えない。
何にしても駄目だったのか。
どこまで意気地がないのだ、我が身が恨めしく憎たらしい。
さらりと素敵な言葉を言える風丸が本当に羨ましい。
俺は風丸になりたい。





「あー、鬼道また撃沈」
「面白いほどに上手くいかないもんだな、鬼道兄妹の作戦」
「音無さんはいいんだけど鬼道がなあ・・・。でもちょっとほっとした、豪炎寺?」
「別になんとも思わない」




 素知らぬ顔で飲み物を飲み干す豪炎寺を一之瀬と土門は見つめた。
なんとも思っていないはずなのに、眉間に皺が寄っている。
これは怒っているな、かなり怒っているな。
豪炎寺の顔を見つめながら2人でひそひそと話していると、豪炎寺がどうしたんだと声をかける。
本当に気付いていないのか。
そうだとしたらなんと面白い男だ、豪炎寺は。




「ここに皺寄ってるけど、実は結構イラッとしてるんじゃない?」
「しかめ面するのは癖だ。イラッとするわけないだろう、今のところはまだ俺に厄介事を押しつけてないんだから」
「ほんとにー? ていうか、俺たち一言もさんとは言ってないけど?」
「・・・・・・昔はこんなに男とつるむ奴じゃなかったのに」
「あーわかるわかる。久々に秋に会ってみたら隣に円堂いて、俺もちょっとショックだったもんなー。取られた!とか思ってさ」
「風丸も鬼道もいい奴なんだけどなぜだかイラッとする・・・てやつだろ、豪炎寺」
「・・・・・・否定はしない」




 取られたとは思っていないし奪えるものなら奪ってみろと宣言してやりたいが、何にしてもあまりいい気分にはならない。
ただ、一之瀬と土門も同じように思っているので、これは幼なじみを持つ者ならば誰もが通る道なのだろう。
特段自分だけがおかしいだけではない、当たり前の感情。
同じ女の子の幼なじみ持ちでも、相手が違えばこうも変わるのかと思ってしまう。
手のかからない幼なじみを持った一之瀬たちが羨ましい。
他の誰かと取り替えたいと思ったことは一度もないが。




「でもまあ豪炎寺とさんは幼なじみ超えて夫婦に見えるけど。今日も2人に危うく殺されるとこだったって半田が喚いてたよ」
「あれは半田が悪いが、俺は半田の目が節穴で良かったと思っている」
「半田には容赦ないよね、豪炎寺もさんも」
「ああいう奴が実は一番危険だと思わないか?」
「言った傍から半田に熱視線送るのやめなよ豪炎寺。そして少しは鬼道も相手にしてやれよ、あんなに頑張ってんだから」
「頑張ったらもれなくもらえるご褒美じゃないんだ、は」




 背中にびしばしと焼き焦げるような熱すぎる視線を感じる。
遠赤外線よりも熱が籠もっているというのに、体はぞくぞくと悪寒を感じる。
俺、何かした? いつの間にかまた豪炎寺もしくはあいつの気に障るようなことした!?
していないと信じたい。
悪寒の原因は風邪だと信じたい。




「ああもう豪炎寺! 俺、お前に何かしたか!?」
「しないように見ているんだ」
「あー、これはただの嫉妬か。ごめん豪炎寺、さすがにお前には俺も一之瀬もついてけねぇや」
「何、何言った土門、一之瀬!?」




 どうして嫌な予感だけはずばり的中してしまうのだ。
半田は焼けつく視線から逃れるべく外へ飛び出すと、暢気に雪合戦に興じている円堂たちの下へと突進した。






翌日、半田くんは39度の高熱を発して寝込みました


リクエストして下さった方へ

年末年始企画にリクエストをしていただき、どうもありがとうございました。
月華の夢連載を構成しているほぼすべての要素を含んだリクエストに、非常に気合いが入りました。
女の子のはしゃぎ具合が少し足りなかったのが心残りですが、半田はこれが限界だそうです。





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