ニートではない。
昼頃まで居候先の家でゴロゴロしてはいるが、無職ではない。
今の仕事は給料が発生しないので仕事というよりもボランティアだが、そこらの根無し草と一緒にはしないでいただきたい。
いるべき場所に戻れば仕事はごまんとあるのだ。
は洗面所の鏡台に映る少し元気のない自身の姿を見て、そりゃそうだと独りごちた。
昨日はいろいろあった。
まずは二日酔い。
さしてアルコールに強いわけでもないのに何かを忘れたいがごとく痛飲して、頭が痛くなるのも当たり前だ。
もう1つの原因が酔いが回って判断能力が鈍っていたせいか、はたまたお得意の相手に流されるという弱点を突かれた結果なのかわからないが、久々の経験が身に堪えたのは確かだ。
大したことないだろうと高を括っていたので、尚更痛い目を見たのかもしれない。
若さを吸い取ったのか吸い取られたのか、しかし早朝の奴はすこぶる元気だったのでおそらく吸い取られたのだろう。
「私、ほんと生まれた時代違ってたら国の1つや2つ潰せてたわ」
のろのろと身支度を整え、雷門中へ向かう。
一足も二足も先にグラウンドに到着し、神童や松風と話している円堂におーいと呼びかけ片手を上げる。
ああ、今日も視線が熱い。
はじっとこちらを見つめお疲れ様ですと言う神童に朝でもないのに軽くおはようと声をかけると、円堂の手の中の紙を覗き込んだ。
サッカーバカも時を経れば多少が知恵を身につけるのか、ボール以外の物を持っている。
真面目にサッカーしてるんだあ。
の呟きに円堂が苦笑いを浮かべた。
「何か考えとかないと勝てないって言ったのはだろ」
「手抜きどころか容赦なく潰しにかかってくるだろうからそのくらいしないといけないんだろうけど、円堂くんが持ってるとなぁんか違和感」
「ははっ、そうか! でさ、これどう思う? これでいいかな」
「いいんじゃない? ていうか監督は円堂くんでしょ、もっと自信持ってびしっとやらないと私をリストラさせようにもできないじゃん」
「さん、やめるんですか・・・?」
「コーチね」
「それは嫌です! 俺はさんの意見も聞きたいです」
「だからコーチって言ってね。駄目よ神童くん、私みたいなどこの馬の骨ともわかんないようなただの美人にふらふらしてちゃ。
今もサッカー選手なの? とにかくちょっと前までは現役張ってたプロに訊いた方がいいって」
「ですが!」
「あー頭痛い痛くなってきたー・・・。やっぱあんなに飲むんじゃなかった。ったく、なんで円堂くん止めてくれなかったわけ」
「俺がを止められたことなんてないだろ・・・」
「もう、そういうあたりが・・・・・・。・・・いい、なんでもない」
訝しげな表情を浮かべている神童たちを追い払い、痛む頭を押さえベンチに腰を下ろす。
今日はあまり口を開かない方が良さそうだ。
居候先の冷蔵庫から拝借してきたペットボトル飲料水を口にしていると、円堂がこちらへと歩み寄ってくる。
なぁにと尋ねると、ぽんとタオルを肩にかけられる。
汗臭くはないので黙ってかけられたが、円堂の行動に意味を見出せない。
首を傾げていると、円堂がもごもごと小声で囁いた。
「あのね、神童や天馬には見えてないだろうけど、上から見たら虫刺され」
「・・・ん!?」
「がなんだかんだであいつと縒り戻したっていうのは嬉しいしこれであいつのやんちゃも終わるかもしれないと思ったらもっと嬉しいけど、ほら」
「円堂くんが何を勘違いなさっているのかわかんないんだけど、えっ、うっそギリ見えてないと思ってた」
「えっ、あいつじゃないのか!? もうほんとさあ、こんなとこいないで早くなんとかしろよー」
「なんとかの方法がわかんないからこうなってるんだもん。あーもう頭いたぁいおっきな声出さないで―」
こそおっきな問題持ち込んでポイ捨てするのやめようぜ!
捨ててないもん扱いに困ってから仮置き場に置いてるだけだもん。
サッカーグラウンドをゴミ処分場化する決定とでも思ったのか、グラウンドの神童たちが一斉にぎょっとした表情でベンチを顧みた。
7話あるじゃん? そんなの知らないこれが7話である