いやー、このシリーズもついに最終回。
彼らの最後の雄姿(?)、どうぞご堪能下さいね。
Case of Last: 宇宙の花嫁
~それって私のことですか~
イザークとは首が据わりだした我が子2人を見て、頬を緩めていた。
生まれたばかりの頃はよくわからなかったが、この頃のなるとどちらに似ているのかがはっきりするようになった。
男の子のリオは譲りの紺髪をしている。
瞳の色こそ両親と同じ水色だが、アスランにそっくりである。
姉のロザリーはイザークと同じさらさらであろう銀髪の持ち主だ。
彼女に関しては、絶対におかっぱにはしないとが宣言している。
イザークは男だったからいいが、女の子でイザークばりのおかっぱとかしたら、河童女とか学校でからかわれること必定だ。
「や、ほんとに似てるわねリオは。」
「の子なんだから当然だろう。」
「ううんアスランに似てるって。きっとアスランが抱っこして歩いても、親子だって思われるわよ。」
「あいつになど似とらん! よく見てみろ、俺に似てるじゃないか口元とか。」
躍起になって反抗するイザークを見て、は苦笑した。
2児の父となったのに、まったく大人気ない。
むしろ最近はシンの方が男らしく堂々となったと聞く。
の言いようからして、豹変して一皮向けた彼に再び恋をしているように思えた。
彼女がシンを好いているのは当然の前提だが、以前は逆の構造が真っ先に思い浮かんでいた。
それがくるりと変わったのだから、人の恋路は面白いものである。
あの2人もそろそろ、同棲関係から脱却するだろう。
「ねねイザーク。私ね・・・・・・。・・・・・・ちょっと、何吹き込んでんの。」
「子どもには父上と呼ばれたいからな。練習してるんだ。」
『あー』とか『うー』しか言えない乳児に向かって、熱心に父親フレーズを連発する。
さすがにこれはも笑顔で見ているわけにはいかなかった。
ここはやはりノーマルに『お父さん・お母さん』、もしくは『お父様・お母様』路線だろう。
父上・母上なんて古めかしいじゃないか。
「勝手なことしないでよね。大体バイブルはどうしたのよ。
あれだけ買い込んだってのに、全然見なくなっちゃって。」
「マニュアルはマニュアルだろう。そんなことも知らんのか。
リオやロザリーはガンダムじゃないんだぞ。」
「だったら買うことなかったじゃない。あぁ、もったいない。」
お嬢様育ちの癖に思いっきり倹約家で質素な生活を好むは、イザークの書斎で眠り続ける育児書に思いを馳せた。
あの大量の本は、一体どうなるのだろうか。
イザークはその性格上、もう開きもしないだろう。
自分はそもそも必要ないと考えていたし、このままでは部屋の肥やしだ。
いっそのことアスカ家にでも送りつけてやろうか。
なかなか興味深い策ではあったが、はそれを実行に移すのはやめた。
他人の要らぬお節介だ。
これは世話焼きばあさんへの追いなる第一歩に繋がってしまう。
おばさんと呼ばれるほど年も取っていないのに、ばあさんは早すぎる。
「はあの本を読みもしなかったが、俺は1つ学んだぞ。」
「あれだけ読んで、たった1つ?」
「子どもは親の愛情を一身に受けて育つ。親が幸せなら子どもも幸せになる。
他のどんなせせこましくて細かいアドバイスよりも、これが大事だと思わんか?」
だからそうやって顔をしかめて俺を怒ってくれるな。
イザークはの顔を優しく両手で包み込んだ。
しかめた顔をほぐすかのように、そっと頬を撫でる。
ふとイザークからではない視線を感じ、その出所を見やった。
子どもの無垢な、汚れを知らず、戦争も知らない澄んだ瞳がじっと自分を見つめていた。
2人を見ていると、自然と笑みがこぼれていた。
「の笑顔がますます好きになったな。リオやロザリーに感謝しなくちゃな。」
「私も父親になったイザークの顔、前よりも温かみがあって好きよ。」
周囲のギャラリーが見たら砂を吐きそうなほどに甘い雰囲気を作り出している。
それはもう、メイドが彼らへの来客を告げるのを躊躇うほどに。
主たちが幸せなのはいいが、その幸せを少しだけでもいいからお裾分けしてほしいものだ。
そしたら自分だって、ある日突然素敵な男性と出逢えるかもしれない。
ジュール家のメイドをして働くのには誇りを持っているが、惜しむらくはなかなか出会いがないのである。
「あ、あのイザーク様、様。ご友人がお見えでございます。」
ようやく言い切ったメイドは、もはや耐えられないといった表情でその場を走り去った。
走り去るなんてご法度だが、この若夫婦はあまり礼儀とかにうるさくない。
当人たちが完璧なマナーの持ち主だから意外と言っちゃそうだが、決して怠惰なわけではないので親近感と尊敬の念を抱くことができた。
「こんにちは、イザークさん。」
シンと連れ立ってやって来たは、すぐさま双子が眠るベッドを覗き込んだ。
愛らしさ全開で指やら口やらを動かしているその姿に悩殺される。
愛情をたくさん注いでもらっているのだろう、とても表情豊かだ。
「すぐに大きくなるんだね。こないだはまだこんなにちっちゃかったのに。」
「そう? 私は毎日見てるからわかんないけど。」
「来るたび見るたびに、お父さんお母さんに似てきてる。ね、シン。」
「嫁に出すのが惜しくなるんじゃね? こんだけ可愛けりゃ。」
性格まではまだ発達していないから未定だが、どちらも美男美女に育つ可能性は大いに秘めている。
嫁、と言われてはぽんと手を叩いた。
そうだった、先程イザークに言いかけていたのはそのことだった。
「そうよイザーク。私ね、ひとつ考えたんだけど。」
「何だ。」
「私ねー、このこたちをの子どもと結婚させたいのよ。
いい考えだと思わない?」
「わ、私の!?」
結婚してもいないのに子どもの将来を言われ、の心臓は飛び上がった。
いきなりそんな、まだ自分の結婚すらしていないのに早すぎる。
しかしイザークも妙に乗り気で頷いている。
「なるほど、婿殿か嫁か知らんがいい考えだと思うぞ。」
「でしょでしょ。絶対相性いいと思うのよ。」
「まままま、待ってよ。私結婚してないんだよ!? 子どもとかずっと先の話・・・!!」
「でも、いずれはそうなるでしょ。そうよね、シン。」
の顔が見る見るうちに紅くなる。
もはや恥ずかしすぎて前を見ていられない。
シンは首の辺りまで紅く染めたを見つめ、に向かってにやっと笑った。
「後は俺のタイミング次第っすよね。」
「ご名答。」
今日これ以上ジュール家にいてもは変わらないと判断したシンは、未だに俯いたままの彼女の手を引いて外へと出た。
少し歩いているうちに熱も冷めてきたようで、は大きく息を吐いて背伸びした。
「びっくりしちゃった。ったらいきなりあんなこと言い出すんだもん。」
「俺も、まさかそこまで尻叩かれるとは思ってなかったよ。」
「イザークさんも乗り気だったし・・・。」
なんとなく、どう言えばいいのかわからなくなってしばらく無言で歩く。
ジュール夫妻の願望に偽りはないにしろ、あれは彼らなりの乱暴な後方支援だった。
シンは少なくともそう考えていた。
もう、子どもではないのだ。
いつまでも同棲関係では満足できなくなる。
言葉を選ぶ必要はないのだ。
伝えたいのは、確認し合いたいのは双方の意思の共通。
シンは隣を歩くの手を握った。
さすがに彼女を見つめて言うのは恥ずかしいので、目の前に浮かぶ夕日に向かって口を開いた。
「・・・結婚、しよっか。」
「・・・・・・・うん。」
きゅっと強く手を握り返されると同時に、肩に心地良い柔らかな重みを感じた。
「・・・不束者だけど、よろしくね。」
「幸せになろう、一緒に、いつまでも。」
は微笑んで頷き、最愛の夫となる男性にそっと寄り添った。
―完―
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