今更だけど、このシリーズのサブタイトルは、毎度奇妙だと思いません?
このくらい英語で書けっての。














Case13:  はじめましてだね
            ~ウェルカムトゥーベイビー~












 母親はおろか、妊娠初体験のはとある1つの推測を生み出していた。
これといった確かな証拠はないけれど、体がそう感じているのだ。
ずっとイザークと、赤ちゃんとか子どもとか言っていたが、それはどうも複数形で呼ぶべきではないか、と。
2人でも3人でも別に構わないし嬉しいが、あまり似ていては困るかもしれない。
親だから間違えない自身はあるが、他人に間違えられるのはちょっとかわいそうだ。






「名前、イザークいいの考えたかなー。」






 いつの間にやら育児書がバイブルとなったイザークだが、さすがに姓名判断の本にまでは手を伸ばさなかった。
来る日も来る日も腹に手を当て、どんな名前がいいかと胎児に問いかけている。
質問や話が何にせよ、話しかけることは子どもにいいらしいので勝手にさせている。
俺との名を足して2で割りたいと言っているが、それはかなり難しいだろう。
下手に頑張ってへんてこりんな名を付けたりしたら、生まれてくる我が子に申し訳ない。
そんなことを考えていると、部屋の外がわずかに騒がしくなった。
ここ一応病院なんだけどな、とは呟く。
実家の兄夫婦の出産時にも利用した、れっきとした病院である。
病室は個室でやけに広く、ぱっと見ちょっとした普通の部屋と変わりないが。








さん元気かな。」


「病気じゃないから平気だよ。」







 コンコンと控えめにドアをノックされ、わずかに開く。
はそっと室内を覗きこむ幼なじみに、にこりと笑いかけた。
やはり彼らだったか。
声とか台詞ですぐにわかった。
伊達に人の恋路やらその他諸々に足を突っ込んでいるわけではないのだ。






「こんにちは。気分はどう?」


「よく来たわね、シン。とっても元気よ。」


「ここ、病室なんすか。セレブとなるとこんなに豪華なんだな。」







 シンはもの珍しげに病室を見回した。
こんな所、一体どれだけ重傷を負ったら入れてもらえるのだろうか。
生死の境目辺りをうろつかないと、無理かもしれない。
だってこの部屋、ホテルの一室って言われても納得できるもんな。
が妊娠しても、ここに入れてもらえないだろうなぁ。
そこまで考え、シンは顔を紅くした。
突然トマト状態になったシンを見て小首を傾げる
彼の脳内妄想がわからないのだから仕方がない。
もっとも知ったら、だっていろんな意味で頬を染めるに違いない。







「イザークさんは?」


「仕事。いつまでもディアッカに任せてても不安だしねぇ。
 やっぱり自分でしないと気が済まないみたい。あ、でも薄情な人とか思わないでね。」



「大丈夫だよ、そんなこと誰も思わないよー。」







 あのイザークが薄情者だなんて、この夫婦を知る者ならば思うはずがなかった。
戦時中は公私の区別こそ弁えていたものの、何かとの身を案じていた。
戦後の婚約者時代も義従兄に邪魔をされながらもデートに誘い、共有の時間を多く持ちたがっていた。
新婚当初は言うまでもなく、現在進行中で彼が愛情を最も多く注いでいる女性はである。
たぶんこれから先も、その順位は不動のものだろう。







「可愛い赤ちゃん生まれたら、今度はみんなで遊ぼうね。」


「そうな、すごく楽しみ。」






 また来るねと言い残し去っていったシンとだったが、彼らはその翌日には再び訪れることになるのだった。















































 「・・・なんだかちょっとした同窓会だね。」




 キラの言葉は誰かの返答を受ける前に、沈黙の中に沈んでいった。
子が生まれると家の母親から連絡を受けたイザークは、たまたま居合わせたディアッカとともに病院へと駆けつけた。
イザークにとっての義母は、ついでに甥っ子にも連絡したらしい。
アスカ家にて団欒していたアスランはそれを当然のごとくシンとにも伝え、家を出ている時にキラとも出くわしたのだ。
それで、ここにはわらわらと人がいた。







・・・。」


「こうやって見ると、イザークもただの父親なのな。」


「どういうことだ?」






 のほほんと言ったディアッカに、イザークは不安げな色を隠さずに尋ねた。
するとディアッカはそうだよなーとアスランたちに同意を求めた。
こくこくと頷くギャラリーに、イザークは不思議そうな顔をした。






「すっげえやり手の若手議員も、奥さんと子どものことになると、どこにでもいる親父だなって思ったんすよ。」


「でも、そういうイザークだからも好きになったんじゃないの?
 、家庭的な人が好きだしね。」



「イザーク、あのさ・・・。俺は昔からとの交際は認めないとか言ってたけど・・・。
 もしもの相手がお前じゃなかったら、もっとすごく、本気で反対してたと思うよ。」







 親父と呼ばれるのにはいささか抵抗があったが、彼らの言葉には嬉しく思えた。
恐れることなどないのだ。
家族が増えるのは喜ばしいこと。
扉を隔てた先にいるだって、近く訪れる幸せな生活を待ち望んでいるはずだ。
今の自分にできることはなんだろか。
今まで待たせていた方ばかりだったので、どうすればいいのかわからない。
するとそれを見越したかのように、が椅子に座っているイザークの視線に合わせてしゃがみこんだ。








「私はずっと待ってるばっかりだったから、こういうのは得意なんです。
 のことを想って、無事でいてほしいなとか祈ってればいいんですよ。
 そうだよね、シン。」



「そうそう。待ってる人がいるって思ったらやる気も出たし。」







 のアドバイスを受けて、イザークはゆっくりと目を閉じた。
のことは、いつも案じていた。
出会った時から、気にはしていたのだ。
初めは女だてらにガンダムになど乗って、足手まといにならないかと。
次第にそれは、愛しい人が怪我をしないかと思いやる気持ちになっていったが。
を想うのならば、誰にも負けない自信があった。
イザークの祈りがピークに達したその時、新たな命が発する泣き声が響き渡った。


































 数日後、新しくできた家族を見てイザークは頬を緩めた。
一度に2人も家族が増えた。
それには驚いたが、なんとは知っていたという。
母親とはそういうもんなのかと、イザークはやや感心した。






「可愛いわねー、男の子と女の子が1人ずつ。」


「俺らの子どもだから当然だろう。」








 家には明日明後日あたりに帰れるという。
の容態は完璧だし、最近は平気で歩いている。
医者の話によれば、体の鍛え方が違うからこんなにも元気なんでしょうと言われた。
確かに彼女の鍛え方は並みではない。







「姉弟で似るかな。」


「4人でいれば、すぐに親子とわかるぞ。」






 まだ赤子だし眠ってばかりだから、誰に似ているのかはわからない。
けれども起きて笑っている笑顔を見ていると、どことなく口元とか目元とかが似ているのではないかと、互いの顔を見比べてみる。
顔を見合わせている両親がおかしいのか、双子はきゃっきゃと笑ってくれる。











「・・・ありがとな、。」


「やだ、何言ってんのよ。これからが子育て本番なんだからね。
 頼りにしてますわ、お父様。」






 ジュール家は幸せまっただ中だった。








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