無重力空間にいると、重力空間はきついらしい。
それはエリートパイロットにも、またしかりである。














Step:11  被弾しました
            ~ついでに顔にも傷1つ~












 「っきゃぁーーーーーっ!!」




 青と白を基調とした色の機体が吹っ飛ばされた。
片腕がもげたそれのコックピットでは、宝石のように美しい水色の瞳をした美少女が必死に体勢を整えようとしている。
彼女の状態を他の誰よりも早く察知したイザークがすぐさまに連絡を取る。







っ!! おいっ、っ!!」


「・・・ザーっ!!」








ぶちっと音を立てて通信が途切れた。回路がおかしくなったらしい。
再び大きな衝撃がを襲った。身体を強かに打ちつけて気を失う。
彼女が乗る機体はそのままふらふらと地上へと落ちて行った。






! ーーーっ!! くそっ!!」





迫ってくる機体を瞬殺してイザークはの後を追った。
アスラン達が2人の不在に気付いたのは、戦闘が終わった後だった。











































 波の音が静かに聞こえる。時に大きく、時に小さく、まるで眠りを誘うかのようにの耳に入ってくる。
ぼんやりと先程の先頭を思い出す。慣れない重力に戸惑い、空中戦に持ち込もうとしたところを狙われた。
片腕が切断され、慌ててもう片方の腕で目の前の敵を撃ったが、どうやら切られどころがまずかったらしい。
もともと彼女の搭乗機は他のイージスやデュエルと比べても軽量だ。
そのため素早い動きは出来るが、少々打たれ弱いというデメリットがある。
それでもたかが片腕がもげたくらいで戦闘不能に陥るような事はないはずだった。
それなのにこの有り様である。そしてこんなどことも知れない場所に不時着・・・。












「いった~・・・。・・・!? ここ、どこよここ!?」





ようやく今の状況に気がついたりゼル。それと同時に外へ注意を払う。
見た感じでは人もいなければ他の機体も見られない。どうやらここはどこかの浜辺のようだ。
とりあえず外に出ようとして身体を起こす。が、動けない。










「・・・痛いのはこれが原因ってことね・・・。」






恨めしそうに見つめる先には自分の左足が。ズキズキとした痛み。
これでは動く事もできない。通信を入れようにも壊れていて使い物にはならない。
は大きくため息をついた。





「ツイてない・・・。これであっちが来たらどうすんのよ・・・。」





向こうが来たらどうしようもないだが、そう呟いた時、彼女の視界外に何かが到着していた。
少しして、今度はコックピットを乱暴に叩かれる。その叩き方に身を強張らせる









「おいっ!! 生きてるのか!! 俺だ、開けろ!!」






 聞きなれた声。声の主はイザークだった。
声からしてかなり焦っているのがわかる。は急いで開けた。














「イザ「!! 貴様その傷はどうしたぁっ!?」


「は、傷? あぁ、ちょっと足怪我して動けなくって・・・。」


「足・・・?違う!!顔だ!!」






そんな事を言われてもここに鏡などないし、第一顔の傷なんてまったく気がつかなかった。
きょとんとしているに呆れたのか、それとも彼女が足を怪我を負傷したという言葉を思い出したのか、イザークはいきなり彼女を抱きかかえた。
そしてそのまま外へと連れ出す。驚いたのはの方だ。







「ちょっと、離してよ!! 重いわよ!?」


「動けない貴様をどうやって外に出せと? おとなしくしろ。それに重くもない。」








確かに彼の言うとおりだ。は言われたままに、されるがままにおとなしくしていると、大きめの岩の上に降ろされた。
じっとしていると今度は足に激痛が走った。
下を見てみると、イザークがノーマルスーツの上から足を触っている。
やがて小さくため息をつくと、彼女の顔を見、痛々しそうに顔を歪ませながら言った。






「足は折れてはなさそうだ。打撲ぐらいで済むだろう。見えんだろうが、顔の傷は左の頬にかすり傷だな。
 大丈夫だ、すぐ治る。」





まったく貴様は、と言い、それからイザークの説教が始まった。
思いのほかそれは長く、ようやくひと区切りついた頃には日が暮れかけていた。






「イザーク、私ご飯作るよ? 多分非常食あったと思う。」







 そういってついいつもの癖で歩き始めようとしては顔を思い切りしかめた。
足を負傷している彼女が平気で歩ける訳がない。
イザークは苦笑すると、ちょっと待ってろと言い残し、機体の方へ戻っていく。
ここには人もいないと言う事もあり、大した危機感も覚えず手持ち無沙汰なは、
たまたま手の届く所にあった手ごろな長さの棒を手に取ると、頭上付近の乾いた木に向かって棒を操った。
どこをどうしてか、ぼろぼろと彼女の周りにきれいに折れて落ちてくる枝。薪に使えそうだ。
しばらくするとイザークも戻ってきた。
手にはいくらかの食料と燃料が。火をつけようとした彼に声をかけると、そこらじゅうに散らばっている先程しとめた枝を指差す。
さすがだな、とイザークは言うと手早く火をつけた。










「アスラン達に連絡を取ってきた。朝にならないと迎えに来れないらしい。
 画面の向こうで奴は取り乱してたぞ。」


「だと思った。私愛されてるわね。」







それからしばらく他愛ない話をしていた。だんだんと暗くなり、冷えこんできた。
が、どうにも防寒具が不足している。
あるのはなぜだが損傷著しいの機体の中に入っていた、無駄に大きな毛布1枚のみ。
がこともなげに言う。









「これ大きいから、2人で入っても充分余るわね。」


「待て。俺はなくて構わん。1人で使え。」






あくまで拒否するイザークにはなおも言い募る。



「でもくっついて寝た方が温かいって昔からよく言うじゃない。
 風邪ひくと大変よ? 私この前風邪ひいてイザークにも結構迷惑かけたけど、あれほんとにきついんだから。」



「お前、自分がなに言ってるのかわかってるのか? 俺は男だぞ?」



でも、と言ってはイザークを見つめた。
じっと見つめて言った。









「でもイザークでしょ。何にも起きないって。
 それにもし間違いあったら最後、本気で私と結婚させられるわよ?」





妙な説得力があった。結局、使う人がいないなら私も使わないとが言い張ったため、仕方なく一緒に寝る事になった。
毛布の両端に陣取り、夜空に広がる星々を眺める。













 「きれいよね。ほら、いつだったか言ったでしょ。地球で星空眺めてみたいって。
 願いが叶ったわね。」




そういって遠く離れた隣に横たわるイザークに向かって嬉しげに微笑む。
傷こそ負ってはいるが、やはり彼女の笑顔は美しかった。
イザークはつられるように口元を緩めると、





「本当はこんな状況で見たくはなかったんだろうがな。」




と言った。




「そんな事ないよ。ほら、こうやって横になってたら目に入るもの全部が星空。
 私達あそこで戦ってんだって思うとちょっと複雑だけど。」







ぽつりと寂しげにそう呟くと、は目を閉じた。
ややあってすやすやと規則正しい寝息が聞こえてくる。







「疲れていたんだな・・・。当然、か。」







イザークは独りごちると、の傍に寄り彼女の顔を優しくなでた。
月の光に照らされてぼんやりと浮き立つ白い、きめ細やかな頬には今日できたばかりの傷が見られる。
なでていて傷口に触れてしまったのか、が寝ているにもかかわらず眉をひそめる。
その表情に気分を害し、再び元の位置に戻ろうとするイザーク。
そんな彼の背中に、の小さく、ありがとうという寝言が聞こえてきた。
ゆっくりと振り向くイザーク。そこにはやはり、先程となんら変わりなく眠り続けている彼女の姿が。







・・・。」





彼女の名前を呟いて、不意に妙な気持ちが沸き起こった。
決して淫らなものではない、もっと健全な、強いて言えば庇護願望のような。
イザークは顔を眠っているの顔に近づけた。
そして一瞬ためらうと、左の頬の傷にそっと口付けた。
それから先はイザークも覚えていない。彼もまた、眠ってしまったのだ。

































 「!! あぁ、イザークに何もされてないだろうな!?」


「喧嘩の1つぐらいはしただろうな、あの2人だし。
 お前の心配してるような事なら、ないほうがおかしいぜ。無人島で甘いひととき、とか。」



「・・・これはどうなんでしょうねぇ・・・。何もなかった、という事でしょうか。」







 翌日、朝一番で迎えにやって来たアスラン達が見つけたのは、デュエルの影でぴったりと身体を寄せ合って安らかに眠っている2人の姿だった。








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