喧嘩するほど仲がいい。
けれども喧嘩も度を過ぎると仲を引き裂かれることも。














Step:12  転属の危機です
            ~仲が悪くてさらばクルーゼ隊!?~












 「なんだと! もう1回言ってみろっ!! 俺のどこが悪いんだ!!」


「何度だって言ってあげるわよっ。イザークは前に出すぎなのよ、危ないでしょ!?」


「前に出ないと戦えんだろうがぁっ!!」





 クルーゼ隊員赤服組のたまり場を化している部屋はとにかくやかましかった。
戦闘後の反省会を開いていたらこれである。
これはもう、2人の喧嘩は日課のようなものになっていた。
が、このままでは良くないと思う人も当然いた。












































 ある日、はクルーゼの部屋に呼ばれた。
以前より仮面の数が増えた気がしないでもないが、それはこの際気にしないことにする。









です。」








 は隊長の隣に腰掛けている白服の男性へと視線を移した。
男性はと上から下まで嘗め回すようにしてみると、クルーゼに向かって言った。







「彼女が君ですか。実物で見た方が数倍美しく、そして強い。
 ぜひとも我が隊に来てほしいものです。」


「しかしランス隊長。彼女の意見を聞かなければ。、彼はランス隊を率いておられるジョルジュ・ランス隊長だ。
 今回ぜひ君を隊にほしいとのことだ。」




ランス隊、とは反芻した。名前ぐらいは知っている。
クルーゼ隊ほどではないが、そこそこに実績のある隊で今度地球に降下するという実力派だ。
しかし、ねちっこい、好色そうな目を持ち、さらに先ほどセクハラとも取れる発言が彼女の嫌悪感を生み出した。







「(うわ、この人セクハラ隊長?やめとこ、クルーゼ隊のほうがまだいいや。)せっかくのお話ですが・・・。」



「聞けば君は隊員の1人とよく喧嘩をするそうだね。」








 断ろうとして言いかけたの言葉を途中でランスは遮った。
彼の言っている事は外れてはいなかった。
図星で何も言えないに追い討ちをかけるかのように彼は続ける。







「戦場に身を置きながら、同僚との関係が上手くいっていないというのは命にも関わる事だ。
 そんな事では相手とも全力で戦えまい。」



「ですが・・・!!」






反論しようとするを手で制した。
ランスは立ち上がると、クルーゼに向かって言った。









「近々正式に転属届けを出したいと思います。我が隊が地球に降下する前に決めていただきたいのです。
 隊長もよく彼女と話し合われてください。・・・2人のためでもあるのですよ。」




それでは失礼します、というと彼は外へと出て行った。自分の艦へと戻るのであろう。
クルーゼは5日後までによく考えて結論を出してほしいと言った。
の頭は混乱をきたす余裕もなかった。





























































 それから3日間、は何事もなかったかのように淡々と訓練をこなしていた。
まるで転属の話など初めからなかったかのように平静でいた。
彼女は、もちろんアスラン達にも転属のての字も言わなかったし、それらしい気配も見せなかった。
しかし、彼らは3日目の夜、偶然にもその事を知ってしまう。





 その日の夜、アスランは書類を届けに隊長の部屋へと訪れた。
隊長が不在だったため、机の上にそれを置いたのだが、ちょうどその時彼のパソコンのメールボックスにあった、
ランス隊長からの『 転属の件について』という項目を見つけてしまったのである。
さすがに中までは見なかったものの、彼は急いで部屋を出た。
そして、のいないたまり場でこの事を3人に話したのである。











「なんで何も言わないんだ!? もう決まってる事なのか、これは!?」


「落ち着いてください、アスラン。」


「そうだぜ。でも、そりゃ言いにくいよな、転属するなんて話。」



「決まった訳じゃないんだろ!? なんで、はなんでランス隊に!?」











 4人の中でもアスランの取り乱しようは特にひどかった。
軍中では彼女の保護者であると一方的に自認しているにもかかわらず、何も言ってくれなかったのだ。
しかもランス隊とクルーゼ隊には接点がない。
1度離れるとの技量だ、そう簡単にまた他の隊へ異動ということはないだろう。






に話を聞かないと!! 間に合うなら断りを入れさせて・・・!!」



「やめておけ。」








 今すぐにでもの部屋へ乗り込まんとしたアスランをイザークは引き止めた。
不満げな顔で睨みつけるアスラン。
イザークに対してこのような態度を取る事は、逆はよくあっても滅多になかった。
イザークはアスランを見据えて言った。









「本人が言ってこないのは理由があるからだろう。よく考えてみろ。
 こんな男だらけのむさ苦しい隊で、深窓の令嬢が本気で耐えられたと思うか?
 あいつだって本当はそっちの方が精神的にも楽かもしれんだろうが。」






 イザークの言葉に3人は黙り込んだ。確かにこの隊は男だらけだ。
クルーゼ隊ではどうしても埋もれがちなその能力だって、他の隊に行けばエースパイロットになれるぐらいは充分過ぎるほどに持っている。
が今の生活について何か文句を言ったことはない。
が、本心ではどう考えているのは、それは誰にもわからないことなのだ。
的を得ているイザークの言葉に何も言えない3人は、悔しそうな表情を浮かべながら部屋へと戻って行った。
























































 「あと2日、か・・・。」






 は大きな窓のある、人気のない廊下で宇宙を眺めながらそう独りごちた。
あと2日で進退を言わなければならなかった。
行きたくないのだが、これから先、イザークと喧嘩をせずに過ごして行くのはまず無理そうだった。
思えばこの隊でよくもまあ、今までやってこれたものだった。
は早くも次々とクルーゼ隊での日々を思い出していた。













か? そんな所で何をやっている。明日も早い、早く部屋に戻れ。」






突然現実に引き戻された。イザーク、と小さく呟くと、は近づいてくる彼との距離を意識的に遠ざけた。
不審に思ったイザークはさっきの倍のスピードで追いつくと、なおも逃げようとするの腕を乱暴にひき掴んだ。








「やだっ、離してよっ。私、イザークと一緒にいたら、本気で転属しなきゃいけないのにっ!!」


「なぜ俺なんだ。」








あ、と言うとは動くのをやめた。
そして彼に背を向けたまま、独り言のように呟く。








「イザークと私が毎日喧嘩するから、ランス隊に来ないかって転属の話が来たの。
 同僚とも上手くやれないのは、戦闘でも危険だからって。
 ・・・言い返せる訳ないじゃない。昨日だって、今日だって、イザークと喧嘩しない日ないのに。」



「だから貴様は向こうに行くと。・・・馬鹿か、お前は。」





馬鹿と言われは彼の方を振り向く。
イザークは彼女の腕を離すと、真剣な顔になって言った。











「たかが喧嘩で心が乱れるぐらいなら、俺はいくつ命があればいいんだ、お前も。
 今更向こうに行って、じゃあこっちはどうなる。
 貴様みたいな奴でもな、少しの役には立つんだ。誰もお前を不必要だなどと思っていない。」





もっともお前が行きたいと言うのなら止めはせんがな、と言い残すとイザークはの隣を通り過ぎた。
いらぬ時間を過ごしたかのように足早に去っていくイザークの背中を見て、の中の何かが彼女を衝き動かした。















「イザーク!!」





 はひと声叫ぶとイザークの元へと飛び、何とか彼を捕らえようとベルトを引っつかんだ。
思いのほか強く引っ張られて、思わず怒鳴りかけるイザーク。
彼女の方を振り向こうとしたが、自分の背中にトン、と何かが当てられる感じがしてそのまま浮いた状態になる。
彼の制服をきゅっと掴み、背中に額をつけたがぽつりぽつりと話し始める。
ちょうどその時、アスラン達も2人のいる廊下へと差し掛かっていた。
3人は2人のただならぬ様子を見て、見つからないようにと柱に隠れ聞き耳を立てる。














「金髪の変態と、機会オタクと、実は腹黒と、名目上の婚約者ぐらいしかいない隊なんか・・・、他にあるわけないじゃない。
 ・・・誰も他の隊になんか行きたくないわよ・・・。」



・・・。じゃあ残ればいい。・・・・・・どこにも行くな、ここに、ずっといろ。」


「え・・・?」









2人の目が合う。星の見える前で見つめあうのはなかなか絵になるのだが、外野の3人はこの異様な雰囲気に耐えることは不可能だった。
言葉を交わすこともなく、ただ次どうするか、どちらが先に目を外してくれるのかと待ちながら、
ひたすら無意味に視線を同じくしている2人の間に見かねたようにディアッカが割り込む。









「ちょっと、なにそこいい雰囲気になってんの。
 あれだろ、要は2人が喧嘩してない所をランス隊長に見せれば、隊長も諦めてくれるんだろ。
 簡単な事じゃん。」




「それができないからかわいそうに、はずっと3日間も悩んでたんですよ。
 どうでもいいですけど、そろそろ2人離れないと、アスランが危険な行動に出るかもしれませんよ?」








ニコルの的確な指示で慌てて距離をとる2人。
お互いの頬が少し紅くなっているのをもちろんニコルが見逃すはずはないが、彼はあえて黙っておいた。
気を取り直すと、は4人に向かって言った。










「大丈夫。みんななんで知ってたか知らないけど、心配してくれてありがとう。
 後は私が何とかする。私は、クルーゼ隊所属よ。」







その時の彼女の笑顔はいままでで一番輝いていた。(アスラン談)

























































 「なにっ!? の方が得点が上!? なぜだ!!」


「え~、だって昨日ニコルに習ったもんねー。弱点克服、打倒イザーク? ま、もうちょっと時間がかかるけど。
 それよりもさ、ここのOS、もっと手っ取り早い書き換え知らない?
 私のデュエルのと似てるから、応用きくかなって。」


「ここか? あぁ、よくできてるじゃないか。だがここをもっと・・・。」










 数日後、に正式に転属の話を断られたランス隊長が彼女の様子を見にやって来た。
彼が見たのは、ほんの少し前まで艦内名物の喧嘩を繰り広げていたとは思えないぐらい、仲良く、
いたって友好的に仕事をこなしている2人の姿だった。
あわよくばまた話を持ちかけようとしていた彼の目論見は、もろくも崩れ去ったと言う事だ。













 「あの2人、何があったのか知りませんけど、急激に親密度上がりましたよね。」


「同感ー。なんかこないだまで喧嘩してたのが嘘みたいな仲の良さで。
 やっぱ美少女は笑ってるほうが可愛いな。和むし癒されるし。」



「俺もが笑ってる時間が増えて嬉しいよ。なんかやな予感するけど・・・。」










親密度と団結力が飛躍的に上昇した新生クルーゼ隊が、ここに誕生した。








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