出会いが突然なら別れも突然やって来るのだろうか。
今日の話はとにかく突然が多い。














Step:13  新しい婚約者あらわる!?
            ~すべてが突然 それが恋?~












 イザークとの友好関係はそれからも続いていた。
今日も2人は規定訓練の後も仲良く技を磨いている。
ちなみに今彼らがやっているのは射撃だ。







「私射撃苦手なんだよねー。こないだはディアッカに教えてもらったのに。」


「最初から俺に習えばよかったんだ。でも腕を上げたな。」




「まぁね。・・・こんなの上手くなっても使いたくないってのが本音だけど。」








その和気藹々とした雰囲気にはもはや誰も入り込めない。
アスラン達3人は2人の様子を微笑ましく眺めていた。
しかしその微笑ましい光景は、まもなく終わりを告げる。







































 その日の夕食後、家の両親から通信が来た。
緊急だと言う母の顔が切羽詰っていたので、は自然と居住まいを正して2人の話を聞き始める。
父はゆっくりと、言い聞かせるようにして言った。








「ジュール家との、縁談は、・・・破棄された。」






「え・・・? 待ってお父様、私実はイザーク様とは2人で破談にしようって・・・!!」







母が父に代わり、義兄上がね、と言った。
2人姉妹だった母が兄と言う人物は1人しか存在しない。姉の夫、すなわちパトリック・ザラである。
は嫌な予感がした。そしてそれは見事に的中する。









 「ザラのおじ様がね、あなたとイザーク様の不仲を理由にこの縁談を破棄させたの。
 そしてあなたには新しい婚約者を・・・、ザラ派になろうかなるまいかで悩んである方の息子さんをね、充てようって・・・。
 ・・・、聞いてる?」






の頭の中はぐるぐる回っていた。
ジュール家との破談、ザラの介入、・・・新しい婚約者。
破談についてはともかく、はなぜそこにザラ家が絡んでくるのかがわからなかった。







「・・・どうしておじ様が? 私は家の人間よっ、ザラの家は関係ないじゃないっ!!」






画面の向こうで父が自分をたしなめる声が聞こえる。
母が早口に言った。








「確かにあなたはアスランの従妹というだけで、れっきとした家の者です。
 でもあの人は、姉上とよく似たあなたを自分の手元に置きたかったの!
 あの人がいかに姉上を愛していたか、も覚えているでしょう?
 だからそれが政治を有利に進める1コマだろうと、あなたに無理矢理にでも婚約させたかったの!」






 母の声は苦しげだった。自分と姉とのつながりが、何の関係もない娘にまで及んでしまったのだ。
確かにがイザークとあまり仲良くなかったということは薄々気付いていた。
家に戻ってきたに、イザークとの仲を聞いてもありきたりな返事しか返ってこなかったのが、照れ隠しなどもってのほか、
ありのままの事実である事もわかっていた。
彼女が言った、2人での破談話というのも本当だろう。
だが、それとこれとは話が違った。



 は両親を見て、それからうつむいた。
両親はザラの話を当然断ったのだろう。
しかし相手は権力もあり、何らかの形で押し切られたのだ。
はその時ぼんやりと、イザークとアスランはこの事を知っているのだろうかと思った。
アスランはともかく、イザークもきっと今頃は母であるエザリアから話を聞いているだろう。
もっともそれは、彼にとっては願ったり叶ったりの話だろうが。









「3日後に、その新しい婚約者殿と会うことになっている。
 急な話ですまないが、明日、こっちに戻ってきてほしい。
 必ず出席しなければならない。・・・いいな?」



「・・・わかっています。だって断る理由がないでしょう?
 ・・・安心して。アスランとも何も起こさない。ちゃんと行きます。」







通信が切れた。無機質な色を発するその画面は、に何も与えてはくれなかった。














































 同じ頃、イザークも実家から婚約破棄の旨を聞かされていた。
もともと意に沿わない縁談だったし、ともそういう話は入隊当初に話していたので、話自体は順調に進んだ。
が、に新しい婚約者がいるということを聞かされ、イザークは少なからず愕然とした。
幸い自分にはまだそんな話はなかった。しかしの縁談がとても他人事のようには思えなかった。
母との会話が終わった後も、イザークは何をするでもなくたたずんでいた。
いつの間にか入ってきたディアッカが彼の肩をぽんと叩いた。









「アスランから話は聞いた。あいつの父親が絡んでるらしいな。
 アスランものすごく悔しがってたし。」



「・・・には新しい婚約者がいるそうだ。
 遺伝子の相性が俺よりもいい、およそザラ派の息子が。」






そう言ってイザークは手を握り締めた。婚約破棄になって嬉しいはずなのに、全然嬉しくない。
むしろこうなった事に大きな不満が残った。不満の原因はの婚約者についてだ。
今まで、名目上にしろ自分のいたポジションに別の男がいる。
やり切れず、悔しかった。










 「ディアッカぁっ!! 俺は・・・、こうなる事を望んでいないっ!
 あいつに婚約者など認められん!!」




突然ディアッカに食って掛かったイザークは叫んだ。
珍しく無言で話を聞いている彼に思いをぶちまけた。





「最初はうるさくて可愛げのない、がさつな女だと思っていた。
 そのくせ棒術とやらは滅法やたらに操るし、戦えば強いし、邪魔だと思ったことも何度もある!!
 でも・・・、実は誰よりも他人思いで、女らしくて、弱くて・・。
 俺はそんなを・・・!!」




「好きなんだろ、が。同僚としてでなくって、1人の男としてが好きなんだろ?」






ディアッカに言われてはっとした。それがに対する想いの終着点なのだ。
いつから好きになったのかはわからない。
この間の転属騒ぎからかもしれないし、被弾事件の時からかもしれない。
あるいはもしかしたら、もっと前からそうだったのかもしれない。
しかしそんな事は今のイザークにはどうでもよかった。
独りよがりかもしれないが、この思いをがわかってくれさえすれば、それでよかった。










 「ディアッカ、貴様もたまにはまともな事を言えるじゃないか。
 ただ女に振られているだけではないんだな。俺は今から、の部屋に行ってくる。」



「ひとこと余計なとこあったけど、今度俺好みの新しい扇子買えよ。」





イザークは扉に向かって歩みだそうとしていた。












































 もまた、イザークの部屋へと向かっていた。気にしないでと言うつもりだ。
途中アスランに会うを見た途端、アスランは彼女に頭を下げた。








、父上が勝手なことをしてすまない・・っ!!
 しかもイザークじゃなくなったら、今度は別の婚約者がいるなんて・・・!!
 本当にごめん・・・っ!!」



「アスラン、頭上げて?」




 頭を下げ続けるアスランには声をかけた。
とても優しい声に、アスランは思わず顔を上げる。
は本当に優しい光を湛えた瞳でまっすぐにアスランを見つめて言った。








「どうしてアスランが謝るの? アスランは悪い事してないじゃない。
 もちろんザラのおじ様だって。それに、この話まとまったものでもないし、ね?
 だから謝らないで。」




少し困ったように首を傾げて言うの姿は、父が愛し、自分が慕った亡き母に重なった。











































 イザークが扉を開けた。すると目の前にはブザーに手を伸ばそうとしているがいた。
入口の様子を見たディアッカが気を利かせてそそくさと部屋から出て行く。
はイザークに導かれるままに部屋に入り、どちらかのベッドに腰掛けた。









「あの、ね。」





重い沈黙をが先に打ち破った。
イザークを見て微かに微笑むと、下を向いて喋りだした。








「あのね、今回の話、あれ良かったね。2人で極秘裏に破談協定結んでたけど、それが見事に叶って一件落着?
 イザークはこれからは婚約者いないんだし、私なんか目じゃないくらい可愛くて、素敵で、女の子らしい女の子見つけて結婚できるしね。
 私はまぁ、きっとある程度自由は保障されるだろうし、手言うか、どんな人か顔さえ声さえ知らないんだけどね。」



。」





「でもすごいよねー。私とイザークの遺伝子の相性もかなりいいらしいのに、その人との相性の方がもっといいんだって。
 私の遺伝子って結構メジャーなのかな。」




、俺の話を聞け。」






イザークは何度となくに話しかけるが、彼女はまるで何かに取り付かれたようにひたすら話し続ける。





「そう、やっとこれでクルーゼ隊の仕組みがいくらかわかりやすくなったわよね。
 ま、これからはお互い同僚として、いつ終わるとも知れない戦争相手に頑張ろうね!」



。」






 イザークが声を大にした。ようやく話をやめる
彼が近づいてくる気配を察して立ち上がり、イザークを見つめる。




「えーっと、それから・・・。」





















 まだ話を続けようとするに構わずに、イザークは無言で近づくと彼女の顎に指をかけた。
妙な至近距離に話すのをやめたの唇にイザークのそれが重なり合うまで、さほどの時は要さなかった。
突然のキスに目を見開く。目に入ってくるのはイザークのさらさらの銀の髪だけである。
唇はすぐに離れた。





そしてイザークはひとこと言った。










が、好きだ。」








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