2つの体、1つの心
追いかけても追いかけても、君の心には届かない
友ではなく、主君となった男に似せて髪を結ぶ。
少しでも男と姿が重なるようにと服を多く着込み、鏡の前で歯を見せて笑ってみる。
今日もよく出来ている、まるでもうひとりの孫策だ。
はここ数年の日課となった支度を終えると、幕舎を出た。
君の方がよほど優美だ。
外に出るなり声をかけてくる周瑜もまた、数年ほどまったく同じ行動をしている。
「孫策はもう少し奔放な歩き方をする。君の嫋やかな脚では難しい」
「太さを見せるために布と鉄板を巻いたけど、動きが緩慢になるから加減が難しいの」
「やはり君に相談するのではなかった。私ももちろん孫策も、君が傷つく姿は見たくない」
「これは私が勝手にやっていること。貴方に相談されなくたって遅かれ早かれやってたわ」
腰に手を当て、ふんと鼻を鳴らし周瑜の前に仁王立ちする。
彼を殊更見上げる必要はない。
直立していれば、美周郎と人々から持て囃される男の美しく整った顔が真正面に現れる。
新たに孫家を束ねる立場となった孫策には敵が多い。
小覇王とも呼ばれる彼の武勇を恐れ危惧し、姑息な方法で彼を害そうとする存在も増えた。
孫策は決して喪ってはならない大切な存在だ。
何か考えがあってのことだろう、周瑜に相談された翌日から、はもうひとりの孫策になった。
幼少の頃から孫策と長く遊び親しんだならば、孫策の些細な癖も体現できる。
昔のようにおいそれと共に遊ぶことはできなくなったが、影ならば彼と離れずに済む。
ずっと一緒にいられる。
恐怖も迷いもなかった。
「散々嫌な思いしてきたこの体がやっと役に立つようになったんだから、孫策にも変なこと吹き込まないで」
「君の体躯は誰にも持ち得ない美点だ。悲しいことを言わないでくれ」
「美周郎に言われると満更でもないわね」
「だったら」
「でもこれは私が決めたこと。私が孫策の傍にいるには、こうするしかない。貴方も諦めの悪い人ね、この話もう何度目かしら」
「私は別に・・・」
「おっ、・・・と周瑜じゃねーか! 周瑜、こんな人目につかない所でと何やってたんだ?」
「孫策に似てるか見てもらってたの。どう周瑜、私たち似てる?」
「ああ、似すぎて心配になる・・・」
「だったらばっちりね、良かった」
ふふふと笑うの控えめな笑顔を、孫策が不安げな顔で見つめている。
影は、心の内は似せられない。
そして、孫策自身もを手放せない。
2人の根底にある思いが同じだからだ。
周瑜は同じ格好の友を交互に見やり、目を伏せた。
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