それは5年くらい昔の話。
あの時彼女は私に道しるべをくれた。
Data00: ある日の思い出
~さよなら私の幼なじみ~
コペルニクスのとある病院で2つの魂が天に昇った。
命の灯火の尽きた肉体の前に座り込んでいるのは1人の少女だった。
大きな黒い瞳にいっぱいの涙をためて、途切れ途切れに2人に呼びかけた。
「お父さん、お母さん・・・。ど・・・うして・・・。」
生前からとても仲の良かった・の両親は、コーディネイターには滅多にかかる事のない病に冒され、時を待たずして相次いで死んでしまった。
残されたのは1人きりである。
「お気の毒ですが、既にご両親は亡くなられています・・・。」
医者の言葉を聞き、改めて2人の顔を見つめた。
ぼんやりとした頭で、彼女はそれから何日かを過ごした。
「、元気ないな、やっぱり・・・。」
「当然よ・・・。一気にご両親がお亡くなりになったのよ。」
「、これからどうするんだろ・・・。」
春には満開の桜が咲く公園のベンチに3人の少年少女が腰掛け額を寄せ合って深刻そうに話をしていた。
今日の議題もについてである。
彼らはの幼なじみでふたつ年上だったが、毎日毎日仲良く遊んでいた。
しかし、今回にこのような不幸な出来事があり、最近は4人揃う事もなかった。
「キラ、家近所なんでしょ。ちょっとは様子わかんないの?」
「、そう簡単に言うけどさ、会ったってなんて言えばいいのさ。
いくらが僕の事好きだって、変な事言えないよ。」
「・・・誰もがキラを好きだとは言ってないだろ。
・・・あ、。」
ともすれば喧嘩に発展しそうだったキラとを制したアスランの視界に、ぱたぱたと走り寄って来る1人の少女が目に入った。
キラよりも濃い茶髪に黒い瞳。
間違いなくだった。
「っ、アスランっ、キラッ。心配かけてごめんね。
でももう大丈夫。確かにちょっとまだ悲しいけど、みんながいるから平気。」
そう言って朗らかに笑うにキラ達は胸を痛めた。
笑っていても彼女が辛い事はわかっている。
だから尚更辛かった。
キラは何かを決心して大きく頷くと、の両肩に手を置いて至極真面目に言った。
「、こうなったら早く結婚しよう。
アスランの話によればコーディネイターは15歳で成人だから、あと4,5年したら結婚できるんだって。
だから今からでも僕の家で花嫁修業も兼ねて・・・。」
あまりの急な展開にきょとんとしているだったが、彼の言っていることが徐々に理解できて、それから頬を紅く染めた。
「なんかよくわかんないとこもあったけど、キラ、そんなに私の事心配してくれてるのね。
アスランも、もありがとう。」
「、これからどうするの?」
大丈夫だというに当然の疑問を投げかける。
身寄りのないのこれからを案じてのことだ。
「うん、それも平気。
1人で生活するのもなんとかなりそうだし、朝と昼は学校通えばいいし。」
の返答には淀みがなかった。
そんな彼女を見て、ほんの少しだけほっとした3人だったが、さらなる別れが4人に起きてしまうのはこのすぐ後の事だった。
それから数日後、キラがアスラン達の住んでいる家に飛び込んできた。
何事かと驚いて現れた2人にキラは叫んだ。
「がどこかに連れてかれるんだ!! 早く来て!!」
彼の言葉を聞いてアスランとは顔を見合わせた。
そして一目散にの家へと駆けて行く。
運動神経のいい3人だ、すぐにの家に到着する。
そこで彼らが見たのは、必要最低限の荷物を持ち、2人の見知らぬ屈強な男に付き添われるようにして今にも車に乗り込みそうなの姿だった。
「!! どこ行くの!!
ちょっと待ちなさいよ、そこの2人!!」
我を忘れてが男達との間に割って入る。
突如乱入してきた勝気な美少女に軽く引く男達。
続いて現れたキラとアスランはそれぞれを取り囲むようにして立った。
「みんな・・・。あの、ね、私今からこの人達と一緒にどっかに行かなきゃいけないの。
いつ帰ってこれるかとかは全然わかんないんだけど、でも変な所じゃないって・・・。」
それは突然の別れだった。
つい昨日まで4人でわいわい遊んでいたのが嘘のようだった。
は変な所ではないと言っていたが、見知らぬ男達の存在自体で怪しすぎた。
「どうして彼女を連れて行くんだ!!」
アスランが思い切り男達を睨みつけるが所詮は子ども、返事もされず相手にされない。
「僕のお嫁さんになるっていう約束はどうするの!?」
「そんな約束してないもん。私はみんな大好きだよ。
私みんなの事忘れない。だから私の事忘れないで。
またいつか、絶対4人で会おうね。」
の言葉には俯いた。
必死に涙を堪える。今泣いてはいけない。
いつか会おうと言われても、それがいつになるのかわからないし、もしかしたらその時誰だかわからないかもしれない。
これがだという証拠もない。
証拠、とは小さく呟くと、おもむろに右耳から何かを外した。
彼女の手に乗っているのはいつも身につけている、小さなルビーの施されたイヤリングだった。
はそれをに渡すと、
「これが私達とをつなぐ道。
私が片方持っとくから、はもう片方持ってて。」
と言った。
「、これ大切なものでしょ? 私こんなの受け取れないよ・・・。」
「そう。だから次会った時に返してくれればいいの。
お願い、それ預かってて?」
はぎゅっとイヤリングを握り締めた。
そして右耳にそっとつける。
よく似合うよとは言って、微笑んだ。
「みんな、本当にありがとう。キラ、キラと一緒に遊んですごく楽しかった。
、私みたいなお姉ちゃんが欲しかった。
アスラン、アスランに会えて嬉しかった。」
「「「!!」」」
促されるようにして車に乗り込む。
彼女を乗せて走り去っていく車を3人はずっと見続けていた。
戦場に残された、半ば廃墟と化した建物の中では掌の上に載せたイヤリングを見つめていた。
あの時は何も思わずに受け取り耳につけていたが、今ではこのイヤリングが世界に2つとない物だと知り、
首にかけている小さな袋に入れて肌身離さず持っている。
これを持っていると知れたとなると、自分と彼女がどんな危険な目に遭わされるかわからなかったのだ。
「・・・・。プラントのお嬢様だったのね・・・。アスランも。
キラはフリーダムのパイロットだったし・・・。
・・・みんなすごいな。」
誰もいないことを確認して、そっと懐かしい友人の名前を呼んでみる。
今の生活とは比べ物にならないくらい、満ち足りて楽しい日々だった。
「リザ、そろそろ戻ろう。連中が動き出した。」
同僚の少年が彼女に声をかけた。
リザというのはのこの世界での通り名、偽名だ。
今行くと言って、はノートパソコンよりもさらに小型のパソコンを抱え立ち上がった。
「死ぬ前にみんなに会えるかな・・・。」
の声は外からの爆音にかき消された。
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