はじめて君を見た時、死んだ妹かと思った。
生きていてほしいと、それだけを願ったんだ。














Data01:  宙に舞うのは美少女
            ~吹き飛ばされて意識も飛ぶ~












 地球で連合相手に戦っているザフト軍ミネルバ艦には4人の優秀なパイロットがいる。
中でも2人はガンダムを操り数々の戦功を挙げている事で、連合からも要注意視されていた。
ただ1つ、彼らの弱点はそのチームワークの乏しさである。






「シン、もう少し頭で考えて行動できないのか。」



「うっさいなあ。どうせ俺はバカですから、バカらしい戦いしか出来ないんですよ!!」



「大人気ないわよ、シン。レイ、あんたも何か言ってやりなさいよ。」


「・・・。」










決して仲が悪い訳ではない。性格がちょっと噛み合わないだけなのである。
特にシン・アスカとアスラン・ザラ。




、お前の婚約者より扱いづらいよ、このガキ・・・。)




アスランは日々頭を悩ませていた。




































 「ねぇ、いつまで地球にいるの?」


「俺にわかるわけないよ。俺は暗殺専用だし。
 ・・・おい、あそこにあるのはガンダム・・・、インパルスか?」










 交戦地帯を避けながら仲間の待つ基地へと戻りつつあったと少年は、目の前のばかでかいガンダムを見て囁き合った。
自身のパソコンの中に入力されているインパルスに関するデータがの脳内で表示され始める。








「インパルス・・・。ザフトの新鋭機、搭乗者はシン・アスカ。
 ・・・この間のユニウスセブンのでも大活躍ね。」


「その通り。リザ、急ぐぞ。基地がやられる。」





 そう言うと少年はをほったらかしにして基地の方へと走り出した。
砂煙の中に消えていく少年の背をぼんやりと見送ると、は後を追いかけることをせずに近くの壁にもたれた。
今の任務は2人1組で行っている。
相手の少年は体術に優れ、自らも言っていたように人を殺める事にかけては天稟の才を持っている。
きっとこのまま組織化での修行を積めば、一流の暗殺者になるだろう。
はそんな未来の暗殺者やスパイの卵達がうようよいる基地に戻りたくなかった。
戻ったとしても待っているのはまた、戦場を無駄にかき回し、死者を増やす作業だけだった。
生まれつき動体視力の良かったは両親の死後、この施設に送り込まれた。
そこはどの軍にも属さず、金で依頼されれば昨日の依頼主だって平気でこの世から消してしまうような組織の養成所だった。
MSのOSの仕組みやハッキング、情報を素早くかつ的確に判断する方法を徹底的に叩き込まれ、正式に組織でも仕事をするようになる頃には、
ほとんど一流のスパイや暗殺者になっているというのがこの養成所の特徴だった。
幼い頃にそれらの技術を教えられ、逃れることも出来ないこの環境の中にはこれまで暮らしてきた。
もっとも彼女に暗殺者になるような素質は皆無であり、その容姿の美しさと目の良さからスパイとしての将来を嘱望されていた。









「それでも・・・、嫌なもんはやだもん。」









 小さくそう呟くと、は基地のあった方を見た。
息を呑む。基地がどこにもないのだ。
爆破されたのかと思い、建物の陰から飛び出した。
彼女の耳元を弾丸が掠めた。
はっとして振り返ると、いつの間に後ろを取られたのだろうか、銃を構えこちらをものすごい形相で睨みつけてくる、走り去って行ったはずの少年がいた。
血まみれの顔で叫んだ。








「裏切ったな!! 組織も、俺達もすべて!!」




再び発砲する。
飛んでくる弾の筋を見切ってわずかに身体を捻るとは叫び返した。





「私はあそこが嫌いよっ! 2度と戻らない!!」


「殺してやるっ!!」





やめてと叫ぼうとしたその時、2人の間をビームが貫いた。
周囲を巻き込み小規模ながら爆発を引き起こす。
とっさに頭を抱え込んだがどうにかなるわけでもない。
身体が宙に浮き、そのままどこかに吹き飛ばされる。
相手の少年など気にしている場合ではなかった。
の身体に容赦なく岩の破片がぶつけられる。結構痛い。







「いや・・・っ!!」







 地面に叩きつけられるはずの身体にそれらしい衝撃はなかった。
耳元で風を切る音がした。
身体を動かそうにも痛みでうまく動けない。
うっすらと目を開ける。
大きなガンダムの顔が目に入った。








『あんたっ、おい、大丈夫かよっ!? おいっ!!』





パイロットらしき少年の声が聞こえてくる。
しかし疲れ果てたに答える気力はもはや残っていなかった。
目を閉じるとそのまま意識が遠のいていく。
少年の必死の呼びかけが彼女に聞こえる事はなかった。
















































 齢16になるミネルバ稀代のパイロットシン・アスカはかなり辛い過去を経験した少年だった。
亡くなった妹の携帯電話を見つめ、その留守電を聞いてはいつも湿っぽい声で彼女の名前を呟くのだから、相当のシスコンでもある。
妹のように従妹を溺愛しているアスランと気が合わないのがおかしいくらいだ。
もっともアスランはミネルバでは従妹の話を決してしないのだが。
したらしたで面倒な事になりかねないのである。
そんなシンは、ほとんど全部の戦闘の時アスランと衝突している。
上司でFAITH、先の大戦では英雄、さらには美形のアスランになにかと楯突く事が日課なのだ。
それでもきちんとした戦果を挙げているのだから、アスランに文句を言われる筋合いはないと思っていた。
しかし、今日は違った。










「シン、たまにはザラ隊長の言い分を聞いてみるのはどうだ。
 彼の考えにも一理ある。」




と口数も友人の数も少ない良きルームメイト、レイに諭されたからである。
レイが言うのだから、とシンは今回たまたまアスランの指示に従ってみた。
どうせ聞き入れてもらえないと諦めかけているアスランが逆に驚いたくらいだ。
















 「ったく、俺の何がいけないんだよっ!!
 あんまりうるさいとハゲるっての!!」



そうコックピット内で暴言を吐きつつ、向こうに見える機体めがけてビームを発射した。
いつもと変わらない爆音と爆発が写る。
それらに巻き込まれるようにして空中を漂う人影もモニターに映し出された。






「・・・人?」




放っておくわけにもいかず、慌てて人間を手の中に収める。
爆風から守ってやるようにしていると、しばらくして人が目を開けた。
どうやら少女らしい。







「マユ・・・っ!!」







 似ている、と思った。
いや、自分の死んだ妹はあんなに濃い茶髪じゃなかったはずだが、彼のその少女、つまりに対する第一印象はマユにそっくりという事だった。
戦場に生身の人間がいることを不思議に思いながらも、生きているのだろうかと声をかけてみる。








「あんたっ、おい、大丈夫かよっ!? おいっ!!」




声が聞こえているのかいなのかはわからなかったが、少女はすぐにまた瞳を閉じてしまった。
どうしようかと困っている時にアスランからの通信が入る。






『シン、帰投するんだ。戦闘は終了した。』



「アスランさん、俺この子ミネルバにお持ち帰りしてもいいっすか!?」









『・・・は?』






モニター越しにアスランが不審そうな顔をする。
いったい何を言い出すんだこのバカはとでも言いたげである。
が、シンはそんな事気にせずセイバーの横に並んで手の中の少女の説明を始めた。








「名前とか全然知らないんですけど、吹っ飛んできたんですよ。
 それで掴んだんですけど、ほっとく訳にも行かずに。」


『・・・民間人を乗せるのか?』



「自分だって民間人の癖してザクに乗ったじゃないっすか。
 1人で宇宙で目立ってずるいですよ。」



『う・・・。』








何も言い返す事の出来ないアスランを放ってシンとインパルスは少女を連れたままミネルバへと戻って行った。
コックピットから出てきたシンが手の中の少女を抱きかかえて現れた時には全員が驚いた。
医務室でとりあえず処置を頼んではいるものの、なかなか目を覚ましてくれない。
死んでいる訳ではないのだが、その頬は血が通っていないかのように白いままだ。







「早く起きろよ・・・。」







拾い主シンは物言わぬ少女の濃い茶髪をゆっくりと撫でながらそう呟いた。








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