新郎新婦のご入場です。
ご列席の方々は暖かい拍手でお迎えください。














Data of Last:  宇宙の戦士たち
            ~結婚式だよ 全員集合!~












 C.E.77年大安吉日。
プラントの某所にて目覚まし時計がけたたましく鳴り響いた。
それも1つではない。2つか3つか、とにかく複数のベルが彼の眠っているベッドの枕元から、彼を起こさんと喚いているのだ。
早く止めなければ、それなりの騒音でご近所にも迷惑である。







「あとちょっと・・・。」


「あとちょっと、じゃないの。もう、待ち合わせ場所に来ないんだもん、早く起きてってばっ!!」







 カーテンが勢い良く開かれ、布団が剥がされる。
いまだ若干寝ぼけている彼の赤い瞳に映るのは、とても可愛らしいワンピースに身を包んだ愛しい女性の姿だった。






、可愛い・・・。」


「そんなのどうでもいいからっ! もう、起きないんなら私先行くからね!!」







そう言い残すと本当に去って行こうとするの後ろ姿を見て、シンの頭は完全に覚醒した。
そうだ、今日は大事なあの日なのだ。
シンはベッドから飛び降りると、昨日アスランから押し付けられたスーツに着替え髪を整え、
外でタクシーに乗り込もうとしているの腕を引っつかむと自分の車に押し込んだ。
後部座席でがセットが崩れるとか何とか言っているが、そんなのがおかしくなった所で可愛さは変わんないよと答えた。






「ごめん、本気で今日忘れてた。それあの人に言ったらやっぱり怒られるかな。」



「要は間に合えばいいの。遅刻とかやだよ、私。」






シンが運転する車は、法定速度ギリギリで教会へと突っ走って行った。


































 なぜこの式場にはこんなにも有名人が多くいるのだろうと、アスランは思った。
自分だって世界的にはおそらく有名であろう人物だが、プラント最高評議会議長のラクス・クラインもいれば、
戦時中シン達を恐怖のどん底に叩き落したストライクフリーダム搭乗者、キラ・ヤマトもいる。
さらにはオーブ首長のカガリまで来ているのだが、それでもここにマスコミ関係者が1人としていないことは本当に信じられない。
いったいどんな裏工作をしたのだろうか、ラクスとキラは。







「ねぇアスラン、遅いよ。あの男、道迷ってんじゃないの?」


「それはないはずだが・・・、じゃあるまいし。でもさすがに遅いな。」







 大方シンが寝坊でもしでかしたのだろうと思ったアスランだが、そんなことキラには言えない。
言ったら最後、やっぱりあれにはもったいないよ、僕でなきゃ駄目だとかキラが言い出しかねないからである。






「そうだよね、じゃないから迷子にならないよね。一応あれもパイロットだったんだし。」


「・・・もパイロットだったんだけど。」





今日の主役とも言えるをけなしにけなすキラだったが、その言葉が急に止まった。







 「アスランっ、遅れてごめんなさい!! まだ、始まってないよね!?」


「ちょっと、どうして僕のこと無視するのさ。僕の目を見て言ってよね。」



「あんたは引っ込んでてください。」


「何か言った?」







 を巡りバチバチと熱い火花を散らせるシンとキラ。
アスランは彼らの場をわきまえない大人気ない対決に大きくため息を吐くと、きょろきょろと珍しそうに辺りを見回しているの手をそっと取った。






「ここじゃよく見えないだろう? 向こうにいい場所確保してるから、そっちで2人が出てくるのを待とう。」


「アスラン、王子様みたいだね。」






くすくすとは笑うと、そのままおとなしく彼にエスコートされて特等席へと向かう。
そこには新郎新婦の友人達がずらりと並んでいる。
その錚々たるメンバーに素直に驚いただったが、イザークさんとのことだ、このくらいの友人を持っているのも当然だと勝手に解釈する。






「あらあらさん、お久し振りですわね。うふふ、はさぞかし綺麗でしょうね。」



「きっと世界一幸せな花嫁さんですよ。」







 プラントのトップとにこやかに談笑していただったが、教会の扉が開きだしたのを見てそちらの方を向く。
式場に集まったすべての人々の目が、中央の扉に注がれた。
扉が完全に開き中から現れたのは、純白に銀糸の織り込まれている美しいウェディングドレスに身を包んだ美女と、
彼女に寄り添うようにして優しく微笑んでいる美男だった。
会場のあちこちからーとか、イザークおめでとうとか、僕もとああいう式挙げたいねとか、
俺だってこれ以上の式をと挙げる予定だとか言う声が上がる。







、綺麗だね・・・。おとぎ話に出てくるお姫様みたい・・・・。良かった、幸せそうで。」


「ああやってれば普通に綺麗なんだけど、元がアレだからな・・・。」





うっとりとの花嫁姿を眺めるだったが、と目が合うとおめでとう、と言ってにっこりと笑った。
その笑顔を見てもにっこりと笑い返すと、隣のイザークに話しかけた。







「すっごく幸せ。大好きなみんなに囲まれて、大好きなイザークと結婚できて。涙出るかも。」


「人前で泣くことがなかったお前がか? 化粧が落ちるぞ。
 俺達の幸せぶりを他の連中に見せつけるんだ。俺達が世界で一番幸せな夫婦なんだって。」



「ほんとに一番好きねぇ。」






 5年前も3年前も変わらない、綺麗な笑みをイザークに見せると、はくるりと後ろを向いた。
両手にブーケを持ち、心の中でに届けと願いながら放り投げる。
綺麗に弧を描いて宙を舞ったブーケは、やがて1人の女性の手の中に収まった。
周囲からはがっかりした声と、ぱちぱちと拍手する音がする。
見事ブーケを手にしたの背後で、キラが絶対零度の声でラクスになにやら頼み込んでいる。








「ねぇラクス、悪いけど職権濫用してストライクフリーダム出してくれないかな。」



「あらあら、それはさんとほぼ同時にブーケを掴んだアスランを倒すためですか?
 それともさんの恋人のようにちゃっかり彼女の隣を陣取っているアスランを倒すためですか?」



「どっちもかな、ねぇアスラン。」







 突然話も怒りの矛先も振られたアスランはと顔を見合わせて苦笑すると、俺は関係ないぞと言い、とイザークの元へと逃げ出した。
彼を見送ると、はいまいち面白くなさそうな顔をして突っ立っているシンの元へ駆け寄り、ブーケを彼の手にしっかりと握らせた。
芳しい匂いのする花束を見つめているシンに、はにこっと笑ってこっそり囁いた。






「今度その花、シンの家に飾っていい?」


「え、でもこれが貰ったやつ。・・・まさか、あの話受けてくれるの?」




「だって毎日会いに行ったりするの大変じゃない。居候させてね?」









 シンは数日前、に同棲しないかと提案していた。
即答を避けていた彼女の真意が不安だったが、今日の彼女の返答はイエス。
彼女の幼なじみは3人が3人とも強烈な性格及び印象の持ち主で、特に男2人はシンにとっては侮りがたい難敵だった。
戦時中でも、戦後でも、いつも彼らの存在にある意味脅かされていたものだ。
だからこそ、の答えがものすごく嬉しかった。
シンは悪戯っぽく笑っているをぎゅっと軽く抱きしめると、キラに向かって勝ち誇った笑みを浮かべた。
彼の笑みにキラはぶちっと切れて、2人の方へとつかつかと歩み寄る。
アスランは彼らの様子を呆れ顔で眺めてから、とイザーク、そして忘れてはならないいまだに独身のディアッカに言った。








「イザーク達は変わらないからほっとするよ。、幸せになるんだぞ。」



「わーかってるって。ディアッカ、今度からの家来ても私いないからね。」


「なにっ、貴様結婚間近の女性の家を訪ねていたのかっ!?」


「誤解だって。、お前もいい加減その思わせぶりな誤解招きやすい発言止めろよ。」







 の何気ない一言に簡単に思考を吹っ飛ばすイザークに、それを宥めるディアッカ。
あまり、と言うかまったく変わっていない彼らを楽しげに見つめ、アスランは再び視線をシン達に戻した。









 「ねぇ、君の家ってどこ? 僕、の引越しお祝いに行きたいんだけど。
 てか同棲って何。、僕のお嫁さんになるっていう約束はどうなったの?」



「昔のこと引きずってる男って嫌われるんすよ。そうだ! さんに挨拶に行こう!!」



「うん。あ、ーーー!!」







 宇宙の、もとい恋のために戦う戦士達が剣を置く日は、まだ遠い。







―完―








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