生きよう?
崖から突き落とされても、放火されても明日のために生きよう?
Data14: 戦う必要なんてないんだ
~平和秒読み3・2・1~
ミネルバではとある作戦会議が行なわれていた。出席者はシン達ザフトレッドである。
この作戦の名前は、ずばり『暗殺団とかダメ・ゼッタイ』である。
はるか昔にジャパン(現オーブ)でしきりに叫ばれていた麻薬撲滅の合言葉によく似ているが、コズミック・イラでの撲滅対象はあくまで暗殺団である。
「1度蹴散らしたって生きてたらまた来るでしょ、奴らは。」
「そうなんだよ。ったくストーカーしてんじゃねぇよって話だよな。」
が命を狙われているということをシン辺りから聞いたのか、ルナマリアは組織に多大なる敵対心を抱いていた。
彼女の言うとおり、が生きている限り、彼らはいつでもどこでも現れるのだ。
「シン、そういえばはどこに行ったんだ? 先程から姿が見えないが。」
「外に出て行くって言ってたけど。・・・あ。」
保護対象の本人はどこに行ったのか、それをシン達は全く把握していなかった。
人気のない空き家に連れ込まれたようだ。
家の隅からはなにやらきな臭い匂いが漂ってくる。
ぼんやりとした意識が危機を察して覚醒する。
目の前には見知った顔やそうでない顔が2,3並んでいる。
「・・・殺しに来たんでしょ、覚悟はしてたもの。」
「勘がいいのは相変わらずだが、殺す以外の手もあると教えられなかったか?」
「私を連れ戻すつもり? ザフトにもアークエンジェルにもいた私から、内部情報を仕入れるつもりなの?
このおかしな匂いも私を錯乱させるため?」
相手は表情ひとつ変えることをしない。しかしにはわかっていた。
このままでは、おそらく自分はさしてありもしない情報を吐かせられる。
用のなくなった身は、この家もろとも焼いて処分されるのだ。
そんな目に遭ってたまるかと思い、は失いがちになる心に喝を入れた。
「ザフト、ミネルバにもアークエンジェルにも、あなた達が入り込む隙なんてないわ。
みんなは組織のことを知ってるから。」
「それが情報か。死を選んだな。」
その言葉が合図だったのだろうか、暗殺団は一斉にに飛びかかった。
前回の教訓を生かし、今回はどこまでも接近戦で挑んでくるらしい。
四方からナイフを突き出されれば、いかに動体視力の優れたでも太刀打ちできない。
は迫り来る男を間一髪ですり抜けると、出口に向かって猛ダッシュした。
が、唯一の出口は彼女のすぐ前で火の手が上がり進めなくなる。
「逃がすと思うか? 殺すべき相手を俺らが。」
は炎を背にして身構えた。
前も左右も取り囲まれている。背水の陣ならぬ、背炎の陣だ。
逃げ道は1つしかない。はくるりと暗殺団の方に背を向けた。
生唾を飲み込む。ぎゅっと目をつぶると、はいきなり炎に向かって走り出した。
火の粉が頬にかかりちりちりとする。しかしそれもほんの一瞬のことだった。
燃えさかる家から飛び出した彼女の目の前に広がっていたのは、いつぞや彼女とシンがやって来ていた、あの断崖絶壁の場所だった。
「ここ・・・。」
「今度こそ、さよならだ。」
は自分の体が宙に浮いたのを確かに感じていた。
真っ逆さまに海に向かって落ちていく。
遠くにうっすらとミネルバが見えた。甲板に赤い人影が小さく4つ見える。
「シン・・・、やっぱ生きるの難しいね。」
頭から海に叩きつけられる。
入り方が良かったのか、息苦しい以外に痛みなどは感じない。
あの高さから落とされ仰向けもしくはうつ伏せの状態で着水していたら、体は間違いなく浮遊することができないほどに壊れていただろうが、
幸いと言うか何と言うか、上手く足を動かすと、海上に顔をのぞかせることができた。
きっと崖の上では暗殺団が任務完了とか言って引き上げているだろう。
誰だってこんな所から落ちて生きているとは思わない。
「まぶしい・・・。」
太陽の光がまぶしくなり、はゆっくりと目を閉じた。
シン達はミネルバの甲板で崖の上から人が突き落とされたのを見て、言葉を失くしていた。
双眼鏡で人物を特定すると、なんと捜していただったのだ。
ついでに崖の上を見てみると、炎を上げて燃える小屋があった。
おそらく暗殺団がを抹殺するために即席で作り上げたのだろう。
暗殺団が立ち去った後、ミネルバは急いでの落下地点へとやって来た。
巨大な網で救い上げると、そこには若干服が焦げているが眠っていた。
シンはを抱え上げると、彼女の頬をぺちぺち叩いた。
それでも目を覚まさないと、今度は公衆の面前にもかかわらず人工呼吸を開始する。
「大丈夫かしら・・・。シン、アカデミーの時人工呼吸で落第しかけたし・・・。」
「愛の力があればなんだって目が覚めるんだよ!!」
の容態ではなく、シンのスキルを心配しているルナマリアを一喝するシン。
彼の言葉が正しければ、過去2回、アスランが見つめただけでが目を覚ましたという事実も、愛の力のおかげだということになる。
「、死ぬのはまだ早いって。」
シンの必死の叫びが届いたのだろうか、は2,3度激しく咳き込むと、むくりと身体を起こした。
うーんと思いっきり伸びをして、きょろきょろ辺りを見回し、上を見上げて大きく息を吐いた。
その表情は結構晴れ晴れとしていたりする。
「!! そんないきなり起きて平気、てか何、その強さ!?」
案外ぴんぴんしているの体力に驚いたのか、シンは素っ頓狂な声を上げてわめく。
アスランはずぶ濡れの彼女の身体に毛布をかけて、ほっとしたように言った。
「良かったよ、無事で・・・。もう、命の危険はないんだな?」
「うん。組織との縁は私の『死』により切れたし。あぁ、ちょっと寒いね。風邪引いちゃうかも。」
そう言うとはにっこり笑ってシンの手を取った。
彼を優しく抱きしめたまま、嬉しそうに彼の顔のすぐ近くで言う。
「シンがいるから私生きれたんだよ。ほんとにありがとう、大好きだよ。」
「・・・。よし、これで人目を憚ることなくと話せる!!」
とシンに平和が訪れた少し後、世界もまた、戦争の終結による平和を手に入れた。
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