こうして勇者は無事お姫様を魔王の手から救い出しました。
え、めでたしめでたしはもう少し後の話?














Data13:  導きあう運命
            ~気持ちに嘘はつけないよ~












 ミネルバにが収容された数日後、宇宙に漂う某艦内では一悶着起こっていた。




嬢、昨日はどちらへお出かけだったのですかな。」


「ちょっと友人に会いに行っておりました。突然いなくなってしまって申し訳ありません。」






表面上は笑顔だが、この怒れる美形の青年隊長殿は爆発数秒前だった。
友人に会うために、忙しい仕事を戦友に押し付けていくのはまだ許せる。
許しがたいのはそれから後の彼女の行動だった。






「ほう? ご友人に会いに行くのにリヴァイヴを地球への交通手段に使われるのですか。
 ・・・思考を吹っ飛ばしすぎだ、貴様ぁっ!!」







よく考えてみなくても、こういう展開になることは容易く予想できただろう。



























 数ヶ月前もこうだった。
意識不明のを抱えてミネルバに連れてきて介抱したのは。
あの時と何も変わらない、昏々と眠り続けるの青白い顔をシンは一心に見つめていた。
命を狙われているとは聞いていたが、まさかあそこまで本格的な連中とは思いもしなかった。
もしかしたら前大戦、今繰り広げられている戦いの場で、組織が暗躍していたかもしれない。
世の中がややこしくなったのが組織のせいでもあるとしたら、それはひっくり返せば、組織さえなければ命を失わずに済んだ人がいたということだった。








「・・・マユ、この悩めるお兄ちゃんを助けてくれっ!!」








病室にもかかわらず、シンは大声で天国にいるであろう愛する妹に向かって叫んだ。
迷惑もいいところである。
悩める兄の叫びに妹が応えたのだろうか、突如としてシンの頭にマユの声が聞こえた。







『お兄ちゃん、お姫様は王子様のキスで目覚めるんだよ。』








ついでにもう一声、今度はいつぞやのレイの台詞も蘇ってきた。







『おとぎ話の世界では王子の口付けで姫は目覚めると言う・・・。』








 2人の言葉を思い出し、シンは俄然やる気になった。
何をするのかといえばもちろん目覚めのキスである。
なに、ちょっと前に断崖絶壁でやったし、寝てるにやったってどうせわかんないよな。
シンは実戦でもしない脳内シュミレーションをすると、早速行動に移すことにした。










「・・・かわいいよな、やっぱこの世で一番。や、あの世でも多分一番だけど。」







ベッドに仰向けになったまま目を覚まそうとしないの顔にゆっくりと顔を近づける。
唇と唇が触れそうになった時、シンの視線はの首元に注がれた。
今、見てはまずかったものを見てしまった気がした。
目の錯覚かもしれないが、それが本当かどうか確かめるためにもう1度その部分を見つめることは、シンにはできなかった。
だが、これが仮に本当だとしたら、を奪還した時にキラが去り際に残した言葉も、えらく重要な意味を帯びてくる。










「・・・、向こうで何があ 「シン、その距離は近すぎやしないか?」






 鼻と鼻とが触れ合わんばかりの距離でに囁いていたシンは、突然聞こえてきたアスランの声に飛び上がった。
アスランはそんなシンの慌てように苦笑すると、彼が立っているのをいいことにの枕元に置かれている椅子に腰掛けた。








「タイミング悪すぎっすよ。ずっと見てたんじゃないでしょうね。」



「生憎俺はそんなに暇じゃないんだ。
 ここ最近の枕元にずっといて、訓練サボりがちな部下になんて言って怒ろうかとか、考える事は山ほどあるんだ。」







そう言って疲れた顔で大きく息を吐くアスランを見て、シンはますますイライラした。
この男が言うと、嫌味が常人の3倍になるのだ。
自分だってこないだ彼女連れて助けに来た癖にと心の中で反抗し、それと同時にシンはそれを今、
ここで口に出してみたら彼はどんな反応を示すだろうかと思った。
シンは口元をにやりと歪めると、アスランの端正な横顔をちらりと見て言った。








「自分だって助けに来た時彼女と一緒だったじゃないっすか。
 色ボケしてんのはどっちだっての。」



「色ボケ・・・、彼女・・・? シンっ、お前あの子を彼女と言ったのか今!?
 いいか、その事絶対にイザーク・・・、ジュール隊長には言うなよ。」



「へぇ~、その女ジュール隊長の大切な人なんすか。いいんですか、人の女奪って。」







 シンの挑発に思わず乗りかけたアスランだったが、ここは大きくため息をつくことで回避する。
まぁ実際彼の言っていることも半分は当たっているし、どうせこっちが何か言っても聞かないだろうという諦めもある。
アスランはそれっきりその話を無視することにし、じいっとの顔を見つめた。
いつの間にかシンが神妙な顔をして隣に立っている。










「・・・起きるんですよね、ちゃんと。」



「命に別状はないんだろう。そんなに起こしたいんなら起こしてやろうか。」



「ええお願いします・・・って、は!? あんた何言ってんすか!?」








 アスランは腰を浮かせるとの顔をより近くで見つめ始めた。
シンは、まさかこいつもキスして起こそうとするんじゃないかと不安になってくる。
だいたい見つめているだけで目が覚めるわけがない。
もこんな奴に見つめられて起きてほしくない。
そうシンが思った矢先、ベッドの上から弱々しい声が聞こえてきた。








「アス・・・・・・ラ・・・ン・・・?」


「おはよう。ほらシン、目を覚ましたぞ。」


「マジ?」








 ほんとに見つめられていただけで目覚めてしまったと、見つめただけで目覚めさせたアスランを交互に見るシン。
この男、実は5,6年振りのとの再会の時も見つめただけで目覚めさせたというのだから、大した眼力をした、
ある意味で恐ろしい特技を持つ男である。
アスランはに向かって優しく微笑むと、布団を首元までかぶせた。
そして彼女の頭をなでると、お大事にと一言言って部屋を後にする。



妙な沈黙が2人の間に流れる。
なんと声をかければいいのだろうか。適当な言葉が見つからない。
ちらりとの表情を盗み見る。彼女の真っ黒な瞳が自分でない、他の男を映していそうで怖くなった。









っ!!」


「シン・・・?」








 体が無意識のうちに動いていた。
両手での頬を包み込み、その瞳に自分の姿を映し出す。
感情を抑えられるほど、シンはまだ大人ではなかった。






「もう、どこにも行かないって約束してくれるか!?
 今度から、ちゃんと俺が守るから、彼が、をフリーダムからも、暗殺団からも守るから!!
 ・・・だから・・・、俺のこと嫌いにならないでくれ・・・!!」






の目が見開かれた。
彼女の頬に大粒の涙が降ってきたのだ。
こんなに一途に人に愛されている自分が信じられなかった。
シンに告白された時、愛されることの喜びを覚え、キラと再会した時に愛されることの痛みを知った。
多くの人々のおかげで再びシンと会い、愛されることに涙を流したくなった。
たくさん愛された、今度は自分が彼を愛す番だ。
この想いはシン以外の誰にも渡すことができない。
はまだ思うように力の入らない手を、シンの頬に添えた。
偽りのない、心からの想いを込めてシンに微笑みかける。
泣き笑いのようになっている顔は、可愛いと言うにはあまりにもかけ離れているだろう。
だが、はありのままの想いを彼に伝えたかった。











「私が好きなのは、愛しているのはシンだよ。他の誰でもなくって、シンなの。
 ・・・私を守ってくれるのはすごく嬉しい。でも・・・、私はそのせいでシンが傷つくのはやだ。
 向こうに連れて行かれた時によくわかった。・・・どんなにキラが私のことを好きでも、私は彼のことは幼なじみ以上には思えない。
 もちろんアスランのことだって今は幼なじみとしか思ってないよ。
 ・・・私の一番はシンだから。」







 2人の間にそれ以上の言葉はいらなかった。
別にシンのボキャブラリーが少ない上に口下手だからではないが、言葉がなくても伝わるものが彼らに芽生えたのだった。
はシンの頬から手を離した。
それが合図だったかのように、シンがそっと彼女に唇を寄せる。
シンのぎこちないキスも、彼のストレートすぎる告白も、すべてに気合が入っている性格も、今ならどんな彼さえ受け入れられるとは確信していた。



それからしばらくが再び休むまでは、アスランがイザークの大切な女性を奪って救出の日にデートしていた話などを、シンが面白おかしく話して聞かせた。
なんとなくその女性の正体がわかったは、彼の誤解に思わず真実を教えたくなったのだが。








、ぐっすり休んでまた早くいろいろ話そう。」


「うん、ありがとう。アスランやルナ達にもよろしくね。」





笑顔で見送られ笑顔で外に出たシンだったが、今更になっての言った言葉を思い起こし1人でにやけていた。
が、彼女の言った言葉に1つだけ気になる点があった。







『アスランのことだって今は幼なじみとしか思ってないよ。』





「今は・・・ってことは・・・・・・。だぁっ、だからあいつが嫌いなんだよ!!」





シンの記憶力は案外良かった。








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