ここで私が殺られちゃったらこの物語も終わっちゃうからね。
だから頑張って生き延びよう。
Data12: 脱出 そして暗殺
~英雄伝説 ここに始まる~
が消えて数週間経ったある日のミネルバでは、シンとグラディス艦長が衝突していた。
自ら艦を降りたのではなくあくまでキラに拉致されただが、それもこれも彼女が規律を破って外に出たからなのである。
非常に難しい判断を艦長も迫られているのだ。
「だからが帰ってきたらちゃんと迎えてやって下さい!」
「そんな事言われてもこっちだって困っているのよ。
大体が戻って来れるかもわからないでしょう。」
「戻って来ます、絶対!!」
「どうしてそう言い切れるの。
捕虜になってる身なのに無条件で返してくれるほど世の中甘くはないのよ。」
何がなんでもは戻って来ると言い張るシンと、現実は甘くないと諭すタリア。
決着のつきそうにない意見の交換にアスランは1人考えていた。
彼女がキラの元から逃げてくるとして、一体どうやって帰ってくるのだろうか。
途中で彼女の言う、組織の連中に会ったらどうするつもりなのだろうか。
「・・・シン、お前どうしてが戻って来るって言い切れるんだ。」
「俺がいるからっすよ!!」
「「・・・。」」
根拠も何もないシンの確信に満ちた言葉に、FAITH2人は頭を抱えた。
アークエンジェルにて拘留中のは、初日のキラとの衝撃的な事件の後は、マリュー達の配慮と同情もあり、
誰も使うことのない医務室をあてがわれていた。
無論キラは入室禁止を通告されている。
「なんだよ、医務室で好きな子と2人っきりとかこれ以上ないおいしいシチュエーションなのに、
どうしてマリューさんは僕の一途な恋路を邪魔するのさ。
ねぇミリィ。」
「キラの『一途』は向こう見ずなのよ。
それにあんまり付きまとう男って嫌われるわよ。」
過去に付きまとってきた某元ザフトレッドパイロットの少年をふった経験を持つ彼女の言葉には、妙な説得力があった。
キラもキラで、その気になれば医務室のロックぐらい数秒で解除できるのだが、
あの日が見せた自分への恐怖心と抵抗を考えると、これ以上の関係を彼女に望んでも逆効果だろうと判断して行動を起こしてはいない。
「それよりも早く出撃の準備しなくていいの?
恋敵があなたに戦いを挑んできてるけど。」
「え、嘘。」
「嘘なんか言わないわよ。ほら、早く行った行った。」
ミリアリアに急かされてフリーダムで出撃すると、前方には恋のライバルとその戦艦が彼を待ち構えていた。
医務室の中で1人寂しく生活していたは、外の騒がしさに気が気でなかった。
ミネルバとかインパルスとかクルー達が言っているところを見ると、どうやら今から戦闘が始まるらしい。
「どうしよう・・・。」
外に出る事を禁じられているに外部の状況などわかろうはずがない。
自分は、シンは、キラはどうなるのだろうと考えると、ここでのうのうと過ごしている彼女自身が嫌でたまらなくなった。
そもそもザフトがアークエンジェルに攻撃を仕掛ける理由も見当がつかない。
まさかシンが自分を取り返すためにキラに決闘を挑んだなどとは思いもしないは、訳のわからない状況に混乱していた。
「おい、開けるぞ! お前を今からここから外に出す。いいな!」
「はい・・・?」
突然飛び込んできたオーブの首長、カガリの登場に驚いただったが、返答する暇すら与えられずに戦場から少し離れた地点に下ろされる。
「アークエンジェルに留まっている必要はないだろう。
何かあったら困るからな。好きな男の所にちゃんと帰れ!!」
「え・・・? あ、ありがとうございます!」
そう言い残し颯爽とストライクルージュで去ったカガリだったが、彼女の姿を見送った直後、は周囲を取り巻く殺気を感じた。
絶体絶命大ピンチが彼女の身に訪れていた。
「くっそー、を返しやがれこの野郎!!」
「何言ってんの? ガキの癖して生意気言うもんじゃないよ。」
空中ではシンとキラが、を賭けて熱い男のバトルを繰り広げていた。
2人以外誰も手出しをしない、まさに1対1の戦いだ。
がとっくにアークエンジェルから去っていると知らない2人は、やれ彼女を返せだの返さないだのと、子どもの喧嘩に等しい事をガンダムでやっていた。
「アスランさん参加しないんですか、争奪戦。
見てたら結構楽しいわね、これ。」
「まるで玩具の取り合いだな、大人気ない。」
「・・・は幼なじみでそういう感情はない、かな・・・。」
ミネルバ艦内ではこの戦いを案外楽観的に見ていた。
「幼なじみ同士が付き合うとかベタな関係築いてんじゃねぇよ!!」
「恋に王道も邪道もないね。なんてったって僕とは 「助けてぇーーーーーーーーっ!!」
シンとキラの喧嘩に突然の悲鳴が響き渡った。
本来聞こえる声量ではないが、お互い彼女の声なら一字一句聞き漏らさないと決めているので、
たとえそれが微かなものであっても彼らの耳にはびんびん入ってくるのだ。
「「!!」」
フリーダムとインパルスがその速さを競うようにして声のした方へと飛んで行く。
好きな女の危機とあって、もちろん2人は種割れもばっちり起こして戦闘準備万端だ。
「が最初に名前呼んだ方が勝ちっすよ!?」
「僕が勝ったも同然だね。」
黒装束を身に纏った、いかにも裏の世界で暗躍していそうな奴らに狙撃されている。
怪我は負っていないようだが、非常に危うい状況であることに変わりはない。
「「!!」」
「え、シン!?」
シンの乱入に目を剥く。彼女の視界にもはやキラの姿は入っていない。
「お前ら・・・、よくもを!!」
シンは怒りに震えた声で叫ぶと、をすぐさま掌に乗せると、あろうことかインパルスに搭載された武器で生身の人間を攻撃しだした。
これには流石にも彼を止めに入る。
命を狙った暗殺団であろうと、目の前で地獄絵図だけは見たくない。
「シン、それはやりすぎよ。・・・やめてってば!!」
「あらあら、何事ですか? ・・・酷い有り様ね・・・。」
シンが攻撃をやめた直後、戦場には不釣合いなふわりとした女性の声が陸地の、しかも暗殺団のすぐ傍から聞こえた。
帽子で顔が隠れているので誰なのかはわからないが、彼女の隣にはアスランが銃を構えて立っている。
女性を守っているように見えるが、彼女自身が前へ出ようとするものだから、その構図は見ていて可笑しいだけだ。
「ここは彼がなんとかしてくれるそうよ。3人とも艦に戻りなさい?
もちろんその子はミネルバにね。」
いつの間にやら疲労と緊張の限界に達して気を失っていたに向かって指をさすと、女性はシン達の方に背を向けた。
そして私は見学者よと言わんばかりにアスランの方を見やる。
「シン、彼女の言ったとおりだ。ここは俺らがなんとかするから、お前はを連れて先に戻れ!
・・・キラ、今度ばかりは俺も許さないぞ。」
「アスランに言われるとなんか癪に障るけど、喧嘩には負けたし・・・。
でも忘れない事だね、僕とはただの幼なじみじゃないんだ。」
キラはそう言い放つとアークエンジェルへと戻って行った。
シンは彼の言い残した言葉に大きな不安を抱きながらも、ようやく手元に帰ってきた少女の名前を愛しさを込めて呼んだ。
「おかえり、・・・。」
シンがミネルバに帰投した頃、アスランは暗殺団のほとんどを撃退していた。
女性の周りにも気を失った連中が倒れ伏している。
「・・・あいつにはなんて言って来たんだ。許すはずないだろうに。」
「有給取って黙って来ちゃった。・・・ま、彼は非情な人じゃないからそこを信じて。」
そう言って帽子を取った女性の髪は、アスランのそれと同じ色を宿していた。
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