僕が愛するのは君だけ。
そして君が愛するのも僕だけじゃないと駄目だよ。














Data11:  絶望的な結末
            ~愛憎渦巻くトライアングル~












 いったいどのくらい空を飛んでいたのだろうか、はキラの操るフリーダムの手の中で震えていた。
ミネルバの姿はもう見えない。
シン達が今頃どうしているかと考えると、会いたくて会いたくてたまらなくなった。
聞こえるはずもないのにそっと呟く。





「ねぇ・・・、私はアークエンジェルには行けないの・・・。」





もちろん返事は返ってこないものと思われた。
しかし、この無敵のスーパーコーディネイターを舐めてもらっては困る。
キラという男は、自分の愛する少女の言葉なら、一字一句として聞き漏らさないのだ。






が嫌だって言っても連れてくよ。
 もうアスラン達とは充分一緒にいたでしょ。
 これからは僕と一緒にずっと過ごそう。」





フリーダムのスピードが徐々に遅くなってくる。
前方に見えるのは彼の帰るべき艦、アークエンジェルだった。
































 格納庫へ着くとまずを下に降ろす。
突如出現した身元不明の美少女に目を白黒させる整備班の人々。






「あ、その子僕の好きな女の子で僕の幼なじみだから。
 って言うんだ。」





自分から動こうとしないを半ば引きずるようにして、キラは艦内のクルー達にの存在を触れ回る。
CICに詰めている艦長マリューの前にを引き出すと、彼はにこにこと嬉しそうに笑う。
すでに他の不特定多数の人々からの報告を受けているマリューは、額に手を当て呆れたようにキラを見返した。







「キラ君、あのね 「可愛いでしょう? 僕の幼なじみのさんです。」





ちょうどエターナル in宇宙のラクスと更新していたのか、正面モニターには桃色の髪とハロが映し出されている。
画面の向こうのラクスはまぁまぁと可愛らしく声を上げると、ににこっと笑いかけた。





「あらあら、あなたがさん。可愛らしい方ですこと。
 うふふ、やアスランが気にかけるのもよくわかりますわ。」




アスラン、とザフトにいる2人の名前を出され、しゅんとなって俯く







「ラクス、悪いんだけど今取り込み中なんだよね。
 実は僕、をザフトから貰ってきちゃった。」




 

 彼のしでかした行為は貰ってきちゃったなどという微笑ましい事ではない。
悪く言おうとしなくても、キラの欲望のままにを拉致してきたのだから。
もちろんその辺りの滅茶苦茶な経緯はマリューも見知っているので、ますます困ってしまうのだ。
この子の扱いはどうしたらいいのだろうか。
2,3年前にディなんとかとか言う、ふざけた茶色のパイロットを収容した事はあったが、今回の場合は以前とは違う。
第一、捕虜扱いをして彼女を閉じ込めたりでもしたら、キラがこの艦を吹っ飛ばしかねない。
これ以上白髪を増やしたり、肌のツヤを失くしたくないのにキラ君ったら、全然女心を理解してないんだからと大きくため息をつくマリュー。








が間違っても捕虜なんかじゃないですから、僕が責任持ってお世話します。」


「待ってキラ君。・・・あなた、このさんの気持ち考えた事ある?
 いきなり連れてこられて・・・。」




「僕のフリーダムのOSいじったのは彼女ですよ。
 僕に何らかのコンタクトを取ろうとした彼女なりの可愛らしい愛情表現じゃないですか。
 だから僕もに応えようとしたんです。
 ・・・そうだよね、。」





「違うっ!! 私はただ守りたくて・・・!!
 大好きな人を守りたかったのに・・・・・!!」







 の悲痛な叫びに場がしんと静まり返る。
守りたいものがある、守りたい人がいる。
この少女も軍人ではないけれど、彼女なりに愛するものを守ろうとしたのだ。
の目から大粒の涙が溢れてきた。
会いたい、抱きしめてほしい、声が聞きたい。
の流す涙はどれも悲しい色をしていた。


彼女の涙を見て何を思ったのか、キラは無言のままの腕を引っ張った。
そのままずんずん自分の部屋へと歩いていく。
照明の消えている部屋の扉を開け、を中に連れ込む。
薄暗い室内だが、そういう環境にも慣れているせいか、は泣く事をやめた顔で辺りを見めぐらす。
と、いきなりキラにどんと肩を押された。
背中に当たる固くて冷たい感触。
壁に押し付けられ逃げようといただったが、彼女の両腕はそれぞれ顔の隣でキラの腕力によって壁に縫い付けられている。
闇の中でキラの吸い込まれそうな紫色の瞳が妖しくきらめく。









「守りたい人、大好きな人がいるんだ。」





 キラの冷めた口調に背筋が凍りつくような思いがするが、は無言で頷いた。





「僕が昔からの事が好きだったって、もちろん知ってるよね。
 プロポーズだって30回以上したよね。」


「あれは昔の話でしょう? 今は違う。もうあの頃には戻れないの。
 私には愛する人がいる。彼も私を愛してくれてる。」






キラの腕に力がこもる。は痛みに顔をしかめた。
キラの声がごくごく近い位置から聞こえた。




は今も昔も僕に恋愛感情は抱いていなかった。そうでしょ?」






 頷くことも首を横に振ることもしないの返答を肯定だと気付いてしまったキラは、
頭にかっと血が上っての首に手を回して顔をさらに近づけた。
何が起こるかを悟ったは空いた片手で抵抗を試みるが、その手は中でキラに捉えられた。
の唇にキラは強引に自分のそれを重ねる。
ただ合わせるだけでは足りずに、の口内に舌を割り込ませ中を蹂躙する。
の身体がびくりと震えた。
直後に、身体からすべての力が失せたようになりその場に崩れ落ちかける。
キラはその寸前に彼女の腰に手を回す。
唇を離すと銀色の糸が2人を繋げている。









「なん・・・。キ・・・・ラ・・・・・。」



「僕はの事をずっと愛してた。
 ・・・たとえ君が僕の事をただの幼なじみだけとしか思ってなくても、僕は自分の気持ちに嘘はつかない。」








キラはそう言い放つとの身体を軽々と抱き上げ、ベッドの上に横たえた。
上に乗りかかろうとするキラの胸を、残された力を総動員して押しとどめる。








「こんなの、間違ってるよ・・・。私は・・・。」



が誰の事を好きだろうともう関係ないんだよ。
 自由なんだ、人を愛する気持ちは。」







 ほとんど自己満足の独りよがりの言い分だったが、キラはこれでもういいと思ったようだ。
胸の添えられた薄闇の中でほの白く見えるの腕を横へやると、再び彼女に深く口付けた。































 ベッドに突っ伏していたシンは、ふと妙な胸騒ぎがした。
が自分の名前を、助けてくれと叫んだような気がした。
嫌な予感がしてならない。
まさか殺されたりはしていないだろうが、シンはこの予感が外れている事をひたすら願っていた。








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