あいつは昔っからそうなんだ。
思い込んだら一直線、彼女の気持ちは二の次三の次だった。














Data10:  開いた穴
            ~涙雨警報発令中~












 アスランは通信機の前で悩みに悩んでいた。
昨日の拉致事件を従妹に連絡しようかしまいかで悩んでいたのである。
宇宙で何かと忙しく、心労も耐えないであろう彼女にこの事件の事を報せれば、を何よりも大切に思っている彼女の事だ、
婚約者にわがままを言って、やや強引に地球に降下してくるかもしれなかった。






「・・・やっぱ隠し事はできないしな・・・。」




1人呟くと、スイッチを入れる。
画面の向こうには何も知らないがにこやかな顔で映し出されるはずだった。

































 部屋に備え付けられている通信機がアスランからの通信を受信した。
部屋の主のではなく、主の恋人のイザークが応答する。





「誰かと思えば未来の従兄のアスランじゃないか。
 こんな時間にどうした。」


「誰がお前の従兄だ・・・。しかもどうしてお前がの部屋にいる。
 ・・・まぁいい、と代わってくれないか?」



「仕方ないな。おい、アスランからだ。」





アスランー? と不思議そうに言うの声が聞こえる。
画面が切り替わると、にっこりと微笑んだが現れた。





「アスラン久し振り。みんな元気?」


・・・。あぁ、みんな元気なはずだ。」


「はず?」




 アスランの歯切れの悪い返答に首を傾げる
長年の付き合いと勘からで、彼がこういう簡単な質問に詰まる時は秘密を隠している時だと察知する。
向こうで何かあったのだろうかとは不安になる。







「キラ・・・、に会ったんだ、昨日。」


「うん。・・・フリ-ダムだった?」

「やる事なす事フリーダムすぎて、こっちは耐えられなかった。」



「・・・何をやらかしたの、キラは。
 インパルス壊した? セイバーが落とされた? の事ばれた?」






 キラが復活した事に多少の驚きはあったが、いつかはやって来る日の事だったのでさして気にはならない。
アスランもそれはわかっていただろうし、ではいったい何が彼をこんなにまでテンションの低い男にしたのだろうか。
はますます不安になって、隣に座っているイザークの方を見つめた。
イザークもアスランのただならぬ様子に彼なりに心配する。
それにの不安げな顔も見たくない。




「何があった。キラ・ヤマトは何をした。」


を連れ去った・・・。」



「「え?」」





 聞き捨てならない言葉を聞いて思わず顔を見合わせるとイザーク。
アスランはたかが外れたかのように思いを2人にぶちまけた。






「あいつの動きを止めようとしてが外に出たんだ!!
 のハッキングか何かでフリーダムは一時戦闘を中断したけど、今度は何時、を攻撃しようとしたんだ!!
 そしたらシンが割り込んできて・・・。」



「・・・あのインパルス、とキラの関係知らないから、きっと大声であの子の名前でも叫んだんでしょうね・・・。」


「そう。、と聞いてキラは手を止めた。
 何をしたかと思えば彼女を手の中に入れたんだ。
 俺ももちろん対抗したけど、まさかフリーダムに攻撃なんてできないし、キラはそのままを連れ去って・・・。」






ががたんと音を立てて席を立った。
イザークを見下ろし、きっぱりとした口調で言う。





「私、地球に降りる。キラからあの子を取り返す。」


「却下に決まっているだろうが。」


「どうして!? とシンはあれでも想い合ってんのよ?
 何が悲しくて引き離されなきゃいけないのよ!?」



イザークもまた立ち上がると、の両肩に手を置いて噛んで含めるように言った。



「行ったところで何ができる。・・・お前の力じゃキラ・ヤマトには勝てんという事はわかっているだろうが。
 良くて被弾、悪くて落命だぞ。」




イザークの的確な判断に何も言い返せない
アスランもそれだけは止めてくれと懇願する。
はため息をついて再び椅子に腰掛けると、ふと思い出したかのように尋ねた。




「そういえばシンは? あっちの方がダメージ大きいんじゃないの?」


「昨日から元気がないんだ。
 当たり前だろうけど、多分あいつが一番悔しがってる。」


「それなりに慰めてあげるといいわよ。」


「そうするよ。・・・もくれぐれも気をつけてな。」





いつまでも話していたい気持ちを抑え、アスランは通信を切った。
部屋を出るとまっすぐシンがいるであろう、彼の部屋へと赴く。
アスランの予想は正しく、シンはベッドに突っ伏していた。







「シン。」


「・・・ですか。」




 アスランがシンの名を呼ぶと、シンはむくりと起き上がり、彼に背を向けたままなにやら呟いた。
よく聞こえずに、は? と問い返すアスラン。
次の瞬間、彼はシンに胸倉を掴まれていた。






「なんでがあいつ、キラ・ヤマトと幼なじみだったって教えてくれなかったんだよっ!!
 知ってたら俺、の名前なんて呼ばなかった!!
 なんで、なんで・・・、うわぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」




シンは泣きそうな顔で叫ぶとアスランを突き飛ばし、そのまま床へ崩れ落ちた。
男泣きに泣いている彼を、アスランは黙って見つめていた。
かけてやるべき言葉が見つからない。
どこから慰めていいのかわからない。
そっと外に出たアスランはぽつりと漏らした。







「・・・俺だって泣きたいさ・・・。」




ミネルバの夜はまた1日、静かに更けていった。








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