縁儚し恋せよ姫君



あとがき




 凌統夢連載第4弾、『縁儚し恋せよ姫君』でした。
本作はゲームでは夷陵の戦いが舞台になります。
相変わらず出てこない凌統、相変わらず出張ってくる陸遜、書いている人が実は大好きな甘寧の子分たち。
凌統連載のはずなのに凌統が出てこないにもかかわらず、シリーズ最長の連載になりました。



 ヒロインと尚香姫は、状況は違っても他国へ嫁ぐ姫という点では同じです。
性格も戦闘スタイルもまるで違い、また、相手の男の性格も似ているところがほとんどないという毛色の違う姫君同士でしたが、あえて掛け合わせてみました。
他国へ嫁ぐというのは、とても厳しいことだと思います。
いつ敵国になるのかもわからない乱世なので嫁いだ先では人々に常に監視されている、そんな冷ややかな視線に晒されることもあったのではないでしょうか。
いくら劉備様が愛して守ってくれても、そうしてくれることが他人には劉備様を籠絡していると思われてしまえばどうしようもありません。
ヒロインは孫呉に嫁いだわけでもなければそもそもまだ凌統の妻にすらなっていないのですが、彼女も彼女なりに気を遣って生活していたと思います。
帰る場所がなくなっていようと、ヒロインが生まれたのは北で曹操の娘です。
自分がその地位を捨てていても、周囲が見る目がそう簡単に変わることはありません。
だから政略に利用され、戦場で利用され、理不尽な怒りを受け傷つきます。
敵討ちが絶えない原因です。
ヒロインや尚香姫はほんの些細な失態も許されない、また、自分自身が許すことができないそれなりに緊迫した環境にいます。
同じ女でも、同じ他国へ嫁いだ身であっても、立場や地位が違えばその人の本当の苦しみはわかりません。
尚香姫の苦しみのすべてをヒロインが理解していたとは思いません。
それでも姫君で、他国へ嫁ぐなり留まるなりして愛する人の傍にいて、故国と刃を交えることになった辛さだけは共有しています。
お互いに守りたいものが外にできてしまったから、それを守るためにはたとえ内側と戦うことになったとしても剣を取らざるを得ません。
でも、守りたいものに本当は守ってもらっているのです。
守らなくてはならないと思っているものに、本当はもっと広いところから守ってもらっているのです。
少なくとも尚香姫はそうでした。



 素直になるということは難しいです。
前述のように失態を犯してはいけないと気を張っているから、『甘える』という行為もひょっとしたら気の緩みに繋がるのではないか。
そんなことを思っていたら甘える気にもなれません。
甘え方を知らないままある日突然甘えようとしても、それは凌統にとっては『ありえない』『おかしな』こととしか認識されません
ヒロインと凌統はお互いに遠慮し合っているのだと思います。
互いに互いが傷つかないように、不快に思わないようにとすごく遠いところから手を伸ばそうとしているから指先が届かなくて、だから本来ならばちゃんと伝わっている思いも伝わらなくなります。
それも1つの愛の形ですが、そうやっていると本当に人の心はあっという間に遠くへ行ってしまいます。
気付いた時には姿すら見えないところに相手がいます。
遠慮するのは手を伸ばした時に振り払われる自分が怖くて、無意識のうちに自己防衛が働いているからです。
本当はこんな所にいたくなかったかもしれないのに、自分が勝手に連れ帰ってきて留め置いているからヒロインはここに仕方なくいてくれている。
凌統はきっとこう思っているから、本当の本当にヒロインのことが大好きなのに今ひとつ行動に移せないままじくじくとしています。
ヒロインの方も、自分は言っても敵国の姫で凌統と一緒にいると彼にあらぬ疑いをかけられるのではないかと危惧し、『甘える』という行為自体思い浮かばなかったと思います。
すごく不器用です。
書いている人はすごくやきもきしていました、最終話まで。



 前作のあとがきで『次こそ、今度こそもっと恋人らしく仲睦まじく過ごしている2人が書きたいなあと、前作の目標をそのままそっくり次へとバトンタッチします』(そのまま引用)と書いていたのですが、
どうやらバトンパスミスが起こったようです。
次と今度がいつになるのかわからないのですが、甘えてもありえないとおかしいで一蹴されてしまうくらいなので、いっそこのままのぐずぐずの仲でもいいのかなあとか方向転換しそうです。
確実に次はあるので、その時はこう、もう少し凌統に発破をかけるべく2作ぶりに彼に襲来させようと思います。




 それでは、凌統夢連載『縁儚し恋せよ姫君』を最後までお読みいただきありがとうございました。



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