答え合わせは四半世紀後
すごいすごい、超イケメンとが華やかな声を上げている。
お髭がなぁい、お帽子もなぁいと、ないない尽くしで今思うと少々物足りない出で立ちの姿を見てはしゃいでいる。
こんなにイケメンだったらいっぱい女の人にモテたでしょう!?
の無邪気な問いかけに、数十年前のイケメンは静かに首を横に振った。
「モテませんでした」
「え~なんで!? だって昔の諸葛亮様アイドルみたいでこんなにイケメンなのに! あっ、今もお髭と優しい眼差しは大好きです」
「ありがとうございます。隆中は長閑な場所で、人と出会う機会もあまりありませんでしたので」
「それって街に出ておけばいっぱいモテたってことですか?」
「街に出れば、街に映える美丈夫がたくさんいますよ」
「確かに、街には趙雲様がいる」
変なところで納得されてしまった。
美醜の感性は人によって異なるのでとやかくは言えないが、趙雲と比べられるのは分が悪すぎる。
は比較対象との歳の差に関係なく、趙雲を一番の美丈夫だと信じて疑わない。
趙雲も誇らしげな顔でそうだろうともと頷いているばかりで、の過大評価を謹んで辞退するという慎まやかさはない。
ドヤ顔の手本として教科書に載せても良い顔をしていた、あの自称終身名誉親戚のお兄さん面の若作りの中年は。
それにしても、と思う。
になぜモテなかったのかと訊かれると、不思議な気分になる。
あなたの母親はどうして私に靡いてくれなかったのかと尋ねてしまいたくなる。
決して訊けない質問だ。
尋ねたとして、答えてくれる人は存在しない。
「、孔明様を困らせてはいけませんよ」
「月英様、隆中にいた頃の諸葛亮様ってこんなにイケメンだったんですか?」
「ふふ、孔明様は今もイケメンですよ」
「そうですけど、今よりもーっとイケメンだったんですか?」
「涼しげな目元が印象的でした。ただ・・・」
「ただ?」
手招きした月英に歩み寄り、耳を近付ける。
本人の前ではできない内緒の話だろうか。
わくわくする。
は月英の囁き声に耳を澄ませた。
「若い時分の孔明様は物事をとても難しく考え語る方で、少しだけ、敬遠されていたのです」
「あ~・・・。確かにちょっととっつきにくいかも?」
「孔明様は臥龍でしたから。今は随分と丸くなられました。が来てくれたおかげですね」
「そうなんだ~!」
「月英、に何を吹き込んでいるのですか・・・?」
「「なんでもありません」」
月英と顔を見合わせ笑い合うを見つめる。
その昔、その位置で妻と笑顔で会話を弾ませていたのはの母だった。
屈託なく笑うのは母親と同じだ。
昔の自分は今よりずっと偏屈で、小難しいことを言っては面倒事を持ち込む輩を煙に巻いていた。
そんなんじゃ女の子にモテないよと怒り、眠れる龍に人の道を説いたのはの母だ。
真人間になればあなたにモテますかと訊いたことはある。
素面で訊いて木っ端微塵にされる自信がなかったので宴席でうざ絡みして、やんわりと徐庶に接近を阻止された。
若気の至りと古傷が蘇る。
には酒に強くて柔軟な発想ができる男を勧めたい。
誰が来ようと、可愛い娘をやれるかと断るつもりだ。
「ところで、その写真はどこから手に入れたのですか?」
「趙雲様が貸してくれました! 趙雲様、日記だけじゃなくて写真も撮る趣味あったみたいで」
「肖像権の侵害です」
「イケメンだった諸葛亮様が踊った風を呼ぶ舞、かっこよかったろうな~。趙雲様撮ってないかな〜」
「趙雲殿は交戦中だったはずですし、その時は私は趙雲殿をお見かけすらしていません」
「一応訊いてみよ! 私、諸葛亮様と歳が同じくらいだったら諸葛亮様かっこいい~てなってました!」
だって諸葛亮様、強くてお優しくて頭が良くて、とっても素敵な人だもの!
満面の笑みで言い残し、おそらくは趙雲の元へ向かったの背中を見送る。
良かったですね、孔明様。
月英の万感を込めた言葉に、諸葛亮は天を仰いだ。
赤壁の写真? 手ブレ気味だがあるぞ