意気地なしは踏み出せない




 冬休みどうすると、期待を多分に込めて横を歩くに問いかける。
どうしようかなと毎年恒例の気のない返答を受け、姜維はコートのポケットに突っ込んだままの拳をぎゅうと握った。
には予定がない。
予定があればはっきりと拒絶をするから、今この場で振られなかったということは予定を捩じ込む余地がある。
姜維はだったらと、勢い込んで言葉を続けた。
高揚感を隠せず、若干上ずった声音になった気がする。
映画もカラオケも買い物も、と出かけたい場所はいくつもある。
保護者同伴でなければどこでもいい。
が行きたいと言う場所ならどこだって、そこは天国で極楽だ。



「今年は、ちょっと遠出しようと思ってたり」
「それもいいな。だが、泊まりで行くなら今からでも宿はあるのか?」
「泊まるとこは心配してないんだけど、気持ちの問題で悩んでる」
「丞相と出かけるのではないのか?」
「諸葛亮様は来ない・・・というか、行かせたくない側で」
殿はどこに行くんだ?」
「実家。たまには顔を見せなさいと内容証明郵便が届いたから知らんぷりはできない・・・」



 の家がどこにあって親が誰かは知らないが、物騒で身勝手な家だと思う。
未成年のが自分だけの意思で単身実家を離れ、親戚でもなんでもない諸葛亮の元に身を寄せることはありえない。
何らかの許可を実親から得たうえでの行動だろうに、都合のよい時だけを欲しがって。
だって、機会があれば実家に顔を出しているはずだ。そこまで考え、姜維は首を捻った。
夏休みは諸葛夫妻の隆中里帰りに同行して、とずっと一緒にした。
去年の冬は諸葛夫妻の峨眉山温泉旅行に同行し、とずっと一緒にいた。
その前の夏は2人で海に遊びに行き、もちろんとずっと一緒にいた。
確かは、長期休みが終わるたびにどんどん派手な色になる手紙が届くとぼやいていた。
もしかして今回の郵便は、度重なる帰省催促においての最終通告なのでは。
ここでも無視をすれば、は強制的に連れて行かれるのでは。
急に視線を感じ、姜維は後方へ振り返った。
怪しい人物はいないはずだが、街ゆく人々がすべて斥候のように思えてきた。
恐るべし内容証明郵便、一介の女子校生が受け取っていい圧力ではない。



「丞相は何と?」
「受けて立つと張り切って弁護士に電話してた。年末にお忙しくさせるのは申し訳ないから、大人しく帰ろうかなって気持ちが揺らいでる」
「だ、だがそうなると私との約束はどうなる?」
「姜維殿とは毎年何の約束もしてないよね? 毎回お隣彼氏面で一緒にいるだけで。そういうの後に引けなくなるから良くないって鮑三娘殿に怒られたんだった」
「余計なことを・・・」



 突かれると痛い部分を寸分違わず狙い撃ちされた。
心当たりと下心しかないから何も言い返せない。
と親子の仲を裂きたくもないから、行くなとも言えない。
どうしよっかな〜、姜維殿もいつもの調子で一緒に来る?
の突然の奇襲に、姜維は行かないとはっきり答えた。




待ってくれ、私は彼氏ではないのか・・・?



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