その仮面、理性
ねーこー、猫猫猫にゃんにゃん!
お前は可愛いなあ、こんなに濡れてても可愛いなんてさてはお前、絶世の美猫だな?
軒下で雨宿り、もといずぶ濡れにな っている猫定めをしている青年の無防備な背中を蹴り飛ばすのはいつにしようか。
誰も見ていないと思って恥ずかしげもなく歌い猫と戯れているその姿がどの美猫よりも愛らしいと思ってしまうこちらは、いよいよ過労か。
働きすぎは良くないですよと事あるごとにのたまう口の持ち主に、だったらお前で休ませろと脅し倒して早二刻。
支度にそれほど手間がかかるのかと迎えに行こうと外へ出てまず見つけたのは、上司の邸の庭で猫と戯れる待ち人だった。
「」
「あ、あれーっ法正殿! どうしたんですか、ずぶ濡れじゃないですか」
「この俺を待たせ他の男に現を抜かしている馬鹿がいると聞いて」
「男ってやだなあ、猫じゃないですか。それともまさか、働きすぎてついに猫が人に見えてきた・・・?」
「おかげさまで、どこかの誰かが俺を休ませ労ってくれないもので」
「でもオレ待ってる間は仕事も手につかずのんびりソワソワできたでしょう」
結構いい作戦だと思ったんですけど、そのお顔は失敗ってことかあ。
まるで反省をしていない笑顔でたははと笑うを、猫の群れから攫い出す。
誰に愛されているのかそろそろ本格的に理解すべきだ。
こちらとて、惚れた弱味はいつまでも通用しない。
欲情を理性で抑えるつもりは毛頭なかった。
「のせいで体が冷えました」
「それはすみません。どうします法正殿、湯浴みします? オレも付き合いますよ」
「当然です」
「ですよね! なんてったってオレの背中流し技術は関羽様の赤兎馬にも認められた腕前なんですから! これ堪能できるの赤兎と関羽様と周倉殿と関平殿と劉備殿と張飛殿と趙雲殿と諸葛亮殿くらいですからね!」
「滅茶苦茶多いじゃないですか」
それは敵か、味方か、あるいはただの家族ごっこか。
には、彼らの真意がすべて見えているのだろう。
彼は心の距離の取り方が巧すぎる。
時代と性が違えば、きっと国を傾けられるほどに。
少なくとも、彼の振り幅の大きな態度に既にこちらの心は陥落寸前だ。
落ちていないと自覚している間は落ちていない、それだけの違いだ。
「行きましょ法正殿。へへ、悪人を惑わせるオレってもっと悪人ですかね」
「法正殿の背中、関羽様よりも小さいから流しやすいですねえ!」