秘密事は胸の中
恋人の姿が美丈夫たちに隠されて、今日も見えなかった。
見えていなくても構わない、日がな一日眺めていたい趣味は持ち合わせていない。
どうせ呼んでいなくても勝手に寄りついてくる男だ、いない間くらいゆっくり自由を謳歌したい。
たくさんの仲間たちに囲まれて、今日も無事にそこにいる。
それがわかればもう何も望まない。
「相変わらず殿は私を求めて下さらないのですね」
「ええ」
「殿、一度でいいので私を外で呼んでいただけませんか」
「日々ご多忙な陸遜殿を私ごとき一介の女官が呼び止めるなんて、畏れ多くてとてもとても」
「ふふふ」
「何ですか気持ち悪い」
「知っているんですよ、今日も私の姿を目を凝らして探していたでしょう」
「仕方がないでしょう、あなたが凌統様や徐盛様、丁奉様に隠れて見えないんですから」
小柄ですもんねと事実を伝えると、寝台の上で真向かいでニヤニヤしていた陸遜殿の眉が不機嫌な形へと変わる。
意地悪を言う口はこれですかと、体を寄せて唇に触れようとしてくる不埒な指から顔を背ける。
ふうと、首筋にかかる息がくすぐったい。
これだから軍師は、人が嫌がることを平気で率先して実行する。
首どころか、徐々に剥き出しになっていく体に陸遜殿が口づけを落としていく。
明日の予定は何だったろうか、外向きの用件はなかっただろうか。
寝坊をしてはいけない仕事がないことを確認し、観念してはあと息を吐く。
「殿はいつも可愛いですね」
「そうですか」
「でも先程は傷つきました、謝って下さい」
「事実を言って詰問されるのですか? 権力に阿る方は嫌いなのでしょう?」
「本当はそんなこと思ってもないくせに、意地を張る殿も可愛いですね」
例えば、市街を散策している時に握られてる手。
例えば、万余の弓矢を射かけられ絶体絶命の窮地に陥った時の背中。
本当は知っている、陸遜殿が実はとても大きな存在だということを。
私から向けられる罵詈雑言も、おそらくは彼の広大な心でもって深く受け止めているのだろう。
私が心の奥底ではそんなこと微塵も思っていないと知った上で、きっとまたニヤニヤしながら。
「殿は、今の私では不満ですか?」
「まあ確かに凌統様とか徐盛様ならどうかなって考える時はありますけど」
「・・・朱然殿の名前を出さなかっただけ、殿も賢くなりましたね」
「私は狭量な陸遜殿は嫌いなので」
私のちっぽけな反抗心を受け止めるのは、陸遜殿の胸で充分だ。
これ以上の居場所はおそらくどこにも見つからない。
そっぽを向いたままだった顔を、ようやく正面に戻す。
陸遜殿の小さくて大きな手が、私の顔を今度こそ包み込んだ。
「いいですか皆さん、私の許可なく殿を見ないで下さい!」「殿、かわいそうだな・・・」