焼けるような妬心
川辺で、見知った顔が暇を潰している。
河原の石を掴んでは投げ、水面を小刻みに走る石の足跡を数えているように見える。
昔から暇を持て余し、暇の使い方が上手いだ。
ひょっとしたら自分よりも小石遊びが上手いかもしれない。
朱然は河原に座り込んでいるに声をかけると、隣に並んで腰を下ろした。
「あらこんにちは、義封殿」
「、サボりか? 陸遜はどうした」
「知りません、あんな人」
「また仲違いしたのか? 何かあったのか?」
「仲違いも何も、元より仲は悪いです」
ふう、とため息を吐いたが再び小石を手に取る。
投げようと身構えた直後、そういえばとぼそり呟く。
義封殿に教えてほしいことがあるのです。
いつになく真剣な表情で見つめてくる友人を朱然はじいと見つめ返した。
との縁は浅くない。
彼女の元の職分や経緯から、勝手にの後見人を自任している。
自身は何も考えていないようだが、彼女の出自は元を辿れば孫家と敵対していた家だ。
彼女の父親は、に関わる様々な事件を経て未だに孫家への不信感を拭えずにいる。
増大していると言わないのは、それを口にするとたちまち不穏になるからだ。
は信頼に足る人物だ。
だから、彼女がたとえこれから先陸遜の庇護下に入ろうと、守り続けなければならない。
それができるのは、おそらくは自分だけだ。
朱然はに、努めて明るくどうしたと問い返した。
「義封殿とあの人って似ているでしょう」
「火計好きとか?」
「それは興味がないけれど、背格好も遠くから見るとよく似ていて」
「そうだな! だが俺の方が大きい」
「でしょう? 私も義封殿のことは知っているつもりだったのだけど・・・」
がくるりと体をこちらへ向ける。
ぎゅうと両肩をつかまれ、ううんと困ったように首を傾げる。
どうしてでしょう?
肩をつかんだまま困り声を上げるの手を振り払うこともできず、朱然は何がと尋ねた。
が何に対して困っているのかまったく見当がつかない。
このままでは彼女の役に立てない。
「あの人、あんなに大きかったかしら」
「鍛えたんじゃないのか? 俺も負けてられない」
「こうして触っていると義封殿と変わらない気がするけど不思議ね、気味が悪い」
「陸遜も散々な言われようだな・・・。あんなに熱く燃え上がっているのに、はまるで氷のようだ」
「お取り込み中ところ、冷水を浴びせて申し訳ないのですが」
「まあ陸遜殿、何しにこちらへ?」
背中が熱い。
肩にかけられたの指を全力で引き剥がそうとしている陸遜の熱量に汗が出そうだ。
朱然はようやくの手から解放された自らの肩を抱いた。
名残惜しそうに触れないで下さいと陸遜に言い捨てられ、そんなわけがないだろうと即答する。
目の前のはツンとした顔でそっぽを向いている。
先程まで溶けるような惚気話を仕掛けていたというのに、の中には2つの性格が棲んでいるのだろうか。
「殿がまさか、恋人の目を盗み他の男の肩を抱くような熱情的な方だとは思いませんでした」
「あら、では知ることができて良かったでしょう?」
「ええ、殿の新たな一面を垣間見ることができて光栄です。興奮します」
「嫌だ、気味が悪い」
「私をどこまでも虜にする殿もなかなかに人が悪い。この場合もっとも性質が悪いのは朱然殿ですが」
「待ってくれ、俺のところまで延焼させるな。、陸遜はちっとも大きくないぞ、に関しては恐ろしく心が狭い」
もらい火事は御免だと言い捨て、立ち上がる。
ああ待って、義封殿!
の縋るような声は、今だけは聞こえないふりをした。
俺も嫁さん探そうかな