呪われし城



 「怒りの魂よ、炎となれ、メラミ!!」
「紅蓮の炎よ、かの悪しき者達を焼き払え、ベギラマ!!」







2人の少女達の前に茨が炎を吹き上げつつ焼け落ちた。
炭と化したそれには目もくれず達は城の中へと足を踏み入れる。
何年も住み、いつも戯れていたかつての美しい中庭は、見るも無残な姿と変わり果てていた。
身体が緑色に変色し、生気を奪われ立ちすくんでいる同僚達。
蜘蛛の巣1つなかった城壁にまきついた太い茨。
すべてあの日、ドルマゲスと杖の邪悪な力によって起こった悲劇だった。







「・・・わしの国が・・・、わしの国が・・・。
 おのれドルマゲス・・・。」




呪いの被害者の1人であるトロデ王が忌々しく呟いた。
王の隣ではミーティア姫も悲しげに鳴いている。
1匹と1頭を見て、は手を強く握り締めた。
怒りと恐怖と、自分の無力さに身体が震えそうだった。
なぜ自分だけが助かったのだろうか。
もっと剣が遣えて、呪文を巧みに操る者もたくさんいたのに。
自分にだけ呪いが通用しなかった。それなのに、何もできない。
悔しかった。悔しくて悔しくて、両目に熱いものがこみ上げてきた。
その時、ふと右手に温もりを感じた。














「・・・。」


「・・・泣きたい時は泣いていいんだよ?
 こんなのおかしすぎるもの。決して許されない行為。」





優しく、けれどもきっぱりと言い切ったの言葉が彼の心に響き渡った。
そして同時に思った。自分は今1人ではない。
ヤンガスも、ゼシカも、ククールも、だっている。
5人で戦えばドルマゲスを倒すことも不可能ではない。
そう思うと彼は涙を流す時間さえ惜しくなってきた。
彼は顔を横に2、3度振ると、心配げな顔で見つめている仲間達に向かって言った。








「大丈夫。中に入ろう。
 この中の事は僕が一番よく知ってる。抜け道の事だってね。」




は真っ先に城内へと入った。
彼らを出迎えたのは魔物達の数々だった。

































 「おーい、ゼシカ。こっちの奴らもとっとと燃やしてくれ。
 痛くて近づけねぇ。」




「我慢しなさいよ、この馬鹿!!」






茨でできた竜相手に苦戦しているククールはここぞとばかりにゼシカに炎での攻撃をオーダーする。
文句を吐きながらも何の躊躇もなく呪文を発動しまくっているゼシカもやはり、
ドルマゲスへの怨念がずいぶんと溜っているようである。
彼らから少し離れた所ではヤンガスが同道しているトロデ王達を庇いつつ果敢に斧を振り回している。
は固い鎧に身を包んだ魔物と戦っていたが、
が正面で剣を交えている隙にが後ろから力任せに杖で殴る、という具合に着実に倒していた。




 本来の彼らの行くべき場所はひとつ。城の図書館である。
ここに行けば途中砂漠のど真ん中で発見した巨大な古代船をどうにかする方法が見つかるかもしれないからだ。
だが、城内は至る所がまるで図ったかのように茨で封鎖されているのだから、なかなか目的の場所へは行けない。
そんな事情からあちこちとやたらと移動しながら達が行き着いた先は、以前杖が封印されていた小部屋の前だった。
といっても、今はその杖はドルマゲスが持っており、この部屋自体も他の部屋と変わらず茨で覆われている。
部屋の床に大きく描かれた魔方陣の中央に王がやって来て、しみじみと語った。









「あの日、わしと姫はここであやつにこのような姿にされた。
 そしてあの光を見たのじゃ。どこかへと飛んでいったあの光を。」

「光? なんでがすか、兄貴。」




初めて聞いたその話に当然ヤンガスは首を傾げる。






「王がこのようなみっともない姿になられる前に、杖から飛んでいく光を見られたんだって。
 それがなんなのか僕にはわからないけど・・・。」


「ドルマゲスを倒す鍵かもしれない、って事か?」



の言葉を引き継ぐようにククールが言った。
彼の言葉に頷くと王。
ゼシカもなにやら思案している。
その時、ミーティア姫が小さくいなないた。
魔方陣の上をがふらふらと意思を持たないかのように歩いているのだ。





? どうかした?」





「・・・知ってる・・・・・・・・。」





の呼びかけにも応えずに彼女は小さく呟いた。
そして先程まで王が立っていた陣の中央に立つと、おもむろに手で何かを包み込むようにした。






「・・・知ってる・・・・・、私、ここ・・・・・。」





今では何の役も果たさなくなったはずの魔法陣が一瞬淡い光を発したかのように見えた。
しかしそれは本当に一瞬の事で、達には確かめようがない。
はまたふらふらと彼らの元に戻ってくると、そのまま部屋の外へと歩き出した。
慌てて後を追った彼らは見た。
およそ人が通る事の出来そうにない茨を前にしたがなにやら呟き、すると次の時にはその障害が跡形もなく消え去るのを。
は茨のなくなった道をどんどん先に進んで歩く。
達は何もしない。
何かをするまでもなく、が勝手知った道のように歩き、次々と障害をなくしていくからだ。
とても彼らに出来る芸当ではない。











・・・、変よ。いくらあの子でも、こんなことできるわけがないわ。
 それにこの波動・・・。」



「人の持つ力を超えてる。ゼシカ、僕にだってそのくらいわかるよ。
 あれはじゃないよ。でも・・・、『彼女』は僕達を連れて行こうとしてる、図書館に。
 そこに何かがあることを伝えてるんだよ。」






ゼシカには口でそう言ったが、それも違う、とは思っていた。
あれはなのだ。今の彼女が自分の知っているでなかろうが、魂というか、根本的なものは彼女なのだ。
そんな哲学的な事を考えながら後をついていくと、いつの間にか彼らは図書館の前へと来ていた。









もすごいでがすなぁ。
 か弱い女の子かと思ってたら、案外ゼシカよりも強いかもしれないでがす。」




何も気付かないヤンガスが心底感動したように言う。



「え・・・? あれ・・・?
 私なんでここに・・・。」




ヤンガスの声で我に返ったはきょろきょろとあたりを見回すと不思議そうな顔をした。






「なんでってがここに呪文使って・・・、ちょっ、クク!?」





とぼけないで、と言わんばかりの勢いでに言いかけたゼシカは、不意にククールから口をふさがれる。
暴れる彼女の耳にククールがそっとささやいた。



「覚えてないんだよ。の身体に『何か』がいたんだからな。
 無理に言ったらの頭が混乱するだけだ。」






その言葉に心当たりがあるゼシカがおとなしくなると、ククールは彼女を放しての方を見やった。
がぼーっとしているになにやら話しかけている光景が見られる。
2人の間から笑い声が聞こえてくる辺り、きっと適当な事でも言っているのだろう。
と、いきなり、2人の視線が急に下におりた。
注目されているのはの手にいつの間にやら握られている扇だった。








・・・、これは?」



「わかんない。いつの間にか・・・、そうよ、あの杖の部屋で拾った気がする。
 でもなんか初めて持った気がしないんだよね。しかもこれ、武器だし。」





彼女自身もいぶかしんではいたが、どうやら使いこなせるようなのでこのまま彼女の武器となった。
繊細そうな作りだが、先はかなり鋭利なその扇はどう見ても近距離戦でしか使えそうになく、
激しくの過保護心をくすぐったのだが。
辺りは茨、しかも魔物がうようよの空間の中で微笑ましく談笑していた2人は、
ククールとゼシカ、そして王の少し苛立ったような声で現実に引き戻された。
王の手には1冊の分厚い古びた本が。
彼らがかなりの時間をかけてその小難しい本を何とか読破した時には、すでに辺りは真っ暗、空には大きな満月が出ていた。
月の光は幻想的に茨に絡みつかれながらも、何とか扉の原形をとどめているそれを壁に映し出している。










「・・・なんかさ、前にも似たようなシチュエーション、あった気がするのは俺の単なる気のせいか?」




やや億劫そうに言うククールの台詞はこの場にいるすべての者が思っていたことだった。
案の定、が扉の影に触れると、そこから先にありえない空間が広がっている事が確認できた。
そして彼らにはわかっていた。
その先に誰がいるかということも。




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