巨大猫とじゃれあおう
ここはモンスターパーク、動物園なのだろうかと達は思った。
キラーパンサーの形をしたゲートをくぐった先には、キラーパンサーを飼育している檻がある。
彼らの毎日の食事はおそらく人間でも滅多に口にすることはないだろう、超霜降り肉である。
「うっわ、でっかなキラーパンサーだな。
怖くない?」
「うん平気。こうやって見てるとちょっと可愛いね。
目がキラキラーってしてる。
なんか猫みたい。」
そう言ってじっと檻の前から動こうとしない。
そのうちニャーとか言って会話を始めてしまいそうな勢いだ。
それはそれである意味の魅力が別次元でアップして、かわいさ倍増になりそうだが。
とその時、達の前に巨大な影が立ちはだかった。
ニャアと鳴くあまりの声量の大きさに軽く飛び退く達4人。
彼らが見守る中、影、つまりはここで暮らしているキラーパンサーなのだが、じりじりとの背後へ忍び寄っていく。
このままではは後ろからがぶりとやられてしまう。
「にゃあっ!!」
「ん? わ、おっきいキラーパンサー!!
ねえゼシカ可愛いよ、ほらこっち来てよ!!」
ふわふわのふかふかの毛並みに顔をうずめて気持ちよさげにゼシカを呼ぶ。
達の心配などてんでわかっちゃいない。
「ちょっと・・・、ここは行くべき、それとも・・・、やっつけちゃうべき?」
「でもあのキラーパンサー人懐っこいでがす。
いい奴なんじゃないですかい?」
「だよなぁ、あれ、首輪ついてるし。」
ククールが指さした先には確かに首輪が。
鎖をずっとたどっていってみる。
「お嬢ちゃん、キラーパンサーが好きかい?」
突然キラーパンサーが喋った。
いや、喋ったのはキラーパンサーではない。
彼に隠れてよく見えていなかっただけだが、リードを手にしている人の良さげな小太りのおじさんである。
男の言葉にこくこくと頷く。
すると男、ラパンと言うのだが彼はされば、と言った。
「そうじゃな、お嬢ちゃん達が今から言うわしの頼みを叶えてくれたら、キラーパンサーを貸してもよいぞ?
もちろん彼らに乗ることもできるぞよ。」
「本当ですか? やった、、ヤンガス、ゼシカ、ククール!
私キラーパンサーに乗ってみたい!!」
ぱあっと顔を輝かせては達の方を振り返った。
あんなに嬉しげな顔をしている彼女を見てだめだと言うリーダーはいない。
はとりあえずとじゃれているキラーパンサーを引き剥がすと、ラパンに行きます、と言った。
「おぉ、やってくれるか!
では目的地を教えるゆえ中に入られよ。
なに、そう遠くはない。このキラーパンサーに乗ればほんの3,40分もかからんからな。」
深き眠りの粉という、成分のよくわからない粉と共に示された目的地は人の足なら2時間弱の所にあった。
どれだけ速いのだ、このキラーパンサー達は。
キラーパンサーは2人乗りらしい。
ペアはもちろん決まっている。
1人余るが、それはヤンガスで決定済みでもある。
重量制限があるのだ、キラーパンサーにも。
「えっとじゃあ前に乗る、後ろに乗る?」
「前がいい。でも、しっかり私につかまっててね。」
そう言うとは軽々とキラーパンサーに飛び乗った。
喉元をくすぐりよろしくね、と声をかける。
も続いてキラーパンサーに飛び乗るが、そこで手のやり場に困ってしまった。
いつまでも手を伸ばしてこない彼に不満を漏らす。
「ねぇ、早くつかまってよ。
でないとみんなに置いてかれるし。」
「でも、どこを掴めばいいのさ。」
はすぐ前にあるの身体を見つめながら答えた。
腰なんて持つことできないし、かといって変に上を掴んだりしたら自分がまずい状態になる。
「もう、ほら、ちゃんと掴んでて。
いくよー?」
痺れを切らしたがの手をぐいっと自分の腰にやった。
明らかにくびれている箇所を掴み、慌てて手を離そうとする。
しかしその途端、キラーパンサーがものすごいスピードで走り出したため、の両手はの腰にしっかりと固定された。
「、ちょっと速くない!?」
「でもほら、あそこだよ、ラパンさんの言ってた夜になったら光る木って。」
日暮れちょっと前に向こうを発ったのに、本当に30分ちょっとで目的地までたどり着いた達。
辺りはもうすっかり闇の色だ。
空き地にぽつりと生えている大樹がぼうっと青白く光りだした。
その光の周りをうろついている1頭のキラーパンサーがいる。
彼の身体も同じように青白く光り輝いてはいるが、その姿に生気は見当たらない。
「おい、もしかしてあのキラーパンサーとっくに死んでんじゃ・・・。」
「だと思う。この世に彷徨ってるんだよ、あのキラーパンサーは。」
過去に自分達の戦ってきた魔物の中にも亡霊はいた。
永くこの世界を彷徨い続けた死霊達は、己に秘められた負の力に呑み込まれ、人間達に危害を加えるようになると言われている。
このキラーパンサーも、このままの状態でいたら、彼らと同じ道を歩みかねなかった。
「あの、キラーパンサーさん。」
がキラーパンサーに近づいた。
幸いまだ良心が残っているらしい。
猫特有の人懐っこい穏やかな瞳をして彼は答えた。
「なんだね、お嬢さん。」
「これをラパンさんから預かってきました。
今のあなたには必要な物だと聞いています。」
そう言ってが取り出したのは、深き眠りの粉だった。
この粉末に何か特別な力があるのか、それは達にはわからなかった。
しかし、少なくともコンキラーパンサーはラパンの意思をきちんと汲み取ったようだった。
「私達、あなたが既にこの世の方ではないってわかっています。
・・・あなたも知ってるんでしょ?」
「その通り。・・・わかっているのにいつまでもこの世に留まっていようとした。
あの方・・・、ラパン様の近くに少しでもいたかったから。
・・・しかし私がここにいるのは危険なようだ。
日々精神が蝕まれていく気がしてならなかったのだ。
お嬢さん方、どうもありがとう。」
キラーパンサーは遠くを見つめた。
徐々に彼の身体が宙へ、空へと昇っていく。
「・・・お兄様もあんな穏やかな死に方をしたかったでしょうに・・・。」
ゼシカがぽつりと呟いた。
目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
はゼシカの手をそっと握ると、消えゆく獣の身体を見つめたまま言った。
「サーベルトさんは素敵な妹さんがいてとても幸せだったと言ってたよ。
確かにドルマゲスに殺されたのは悔しかったけど、でも、だからこそゼシカには自分の分も幸せな人生歩んでほしいって。」
「え・・・?」
がなぜサーベルトの事を知っているのか。
ゼシカはぼんやりと思った。
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