わがまま王子の危機
大国サザンビーク。
トロデーン王国第一王女ミーティアの婚約者の住まう国でもあるそこは、いたずらと女好きの王子チャゴスに日々悩まされていた。
「うっわ。肖像画とまるで違うじゃない。
これは詐欺よ詐欺。」
「失礼な事を言うな、一般庶民の分際で。」
いま、稀代のわがまま王子はミーティア馬姫の引く馬車の中でふんぞり返っている。
彼の父であり、現国王のクラウビスが達に王家の証であるアルゴンハートを取ってくる手伝いをするようにと申し出たからである。
こっちがトロデーンにゆかりのある者だと知られてはいないが、この評価の落ちに落ちた王子に少しでもまだましな所を見出そうとする、
トロデ王のたっての願いもあり、こうして王子の護衛をしているのであった。
「なあ王様よ、本当にこんなろくでなしに大事な姫様を嫁に出すのかよ。」
「むぅ・・・。しかしこれは昔からの決まりごと。
いくらこの王子がろくでなしのブサイクだろうと、決まりは変えられん・・・。」
悔しそうに言うトロデ王の気持ちもよくわかる。
誰も好き好んでこんなろくでなしのブサイクの女好きに可愛いひとり娘を嫁がせようとは思わない。
泣きを見るのはこっちだ。
「おい、そこの娘。」
チャゴスが馬車の隣を歩いていたに声をかけた。
彼女を見る目は王族らしからぬ下卑た目つきをしているが、そんな目を見たことのないは無警戒にも近づく。
「なんですか、チャゴスお・・・、きゃあっ!!」
チャゴスのみっしりと肉のついた手がの腰の辺りを撫で回している。
セクハラをされているは失神寸前で、真っ青な顔をしている。
「殺ってよいぞ、ゼシカ!!」
「もちろん、メラミ!!」
真っ赤な炎を上げて燃え出したチャゴスの服。
慌てふためく彼から素早くを救助する。
はの肩にすがりつき、恐ろしいものを見るかのようにチャゴスを見つめている。
「あのセクハラ王子、脂肪分が多そうでがすからよく燃えそうでがすなぁ。」
「ヤンガスよりもありそうだな、ありゃ。」
自然消火を待つ間にククールとヤンガスがのんびりとして言う。
次に何かあれば、2人共制裁に加わるつもりである。
はへたり込んでいるに心配そうに声をかけた。
「、大丈夫? 気持ち悪くない?
いっその事眠らせとく?」
「平気・・・。びっくりしちゃって・・・。」
健気にもよいしょっと立ち上がる。
はゼシカに目配せした。
ほどなくしてチャゴスの大いびきが聞こえてくる。
うるさいのを我慢すれば平和なことこの上ない。
チャゴスの存在以外は予定通り目的地、王家の山へとやって来た達。
いまだにぐっすりと眠り続けている彼を叩き起こして、いざアルゴンハートをゲットである。
「おぉ、あれこそアルゴリザード!! ゆけっ、者共!!」
「わかってるっての。」
チャゴスのかけ声と共に巨大トカゲの前へと飛び出していく達。
がぶりと噛みつかれそうになったりといろいろ危険なシーンも多く、さっさと逃げたチャゴスはまるであてにならない。
その逃げ足の速さでせめて敵の注意ぐらい引きつけておいてほしいものだ。
「お前のせいで・・・、とっとと宝石を寄越せっ!!」
の改心の一撃でトカゲがどどっと倒れ伏す。
近くに小さな綺麗な赤い宝石が転がっている。
これがアルゴンハートなのだろう。
無事に宝石が手に入りほっとする達。
しかし王子はこれでは納得しなかった。
「ふん、こんな小さいのなどつまらない。
泊まり込んでもっと大きな宝石を手に入れるぞ!!」
「・・・はぁ?」
チャゴスのわがままはまだ終わらない。
食事の片付けをしつつが歌を歌っている時だった。
ニヤニヤと相変わらずやらしい目をしたチャゴスが彼女に命じたのだ。
「お前、歌を歌うそうだな。
おい、今からここで何か歌え。僕が気に入ったら歌伎として召し抱えてやらんでもない。」
恐怖でざざっと彼から遠ざかる。
失礼にあたらないように穏やかな口調で断ろうとする。
「今日はもう遅いですし、私の歌なんてお城の吟遊詩人さんに比べたら・・・。」
「いいから歌えと言っている!! 歌え!!」
「無理強いはよくないぜ、王子。」
なおもに迫るチャゴスの方にぽんと手が置かれた。
ついでに彼の太い首にレイピアがあてられる。
反抗しようものなら薄皮一枚くらい切りそうだ。
「なっ、無礼だぞ!! 庶民の分際で!!」
「この嬢ちゃんにはとてつもなく強くて恐ろしい味方がいるんでがす。
少しでもに手を出そうものなら、もれなく焦がされるでがす。」
月の光に照らされるのは銀色の長髪の美青年ククールと、その手の斧の刃がまぶしいヤンガス。
彼らの言っている事は間違いではない。
とてつもなく強くて恐ろしいのはなのだ。
「ふんっ、庶民風情が・・・!!」
ククールとヤンガスに助けられほっとしていたの目に、ゼシカの放った爆発呪文が映った。
いま、ゼシカの元にいるのはトロデ王と姫、そしてである。
ククールやチャゴスがこちらにいるという事は、彼女の放つイオラの矛先は、
「アルゴリザード・・・の親分?」
の言葉を聞き一目散に達の元へ走り出すチャゴス。
その後を慌ててヤンガス達が追う。
3人の目に飛び込んできたのは昼間のトカゲとは比べ物にならないくらいにでかい、まさにトカゲの親分だった。
「よしっ、その化け物を倒すんだ!!」
「うわっ、そんなに前に出てきたら邪魔・・・、うわぁっ!!」
トカゲの動きを完全に無視して乱入してきたチャゴスを戦いの場から遠ざけようとしたが彼を突き飛ばした。
その途端、アルゴングレートの太くて固い尻尾を振り回す攻撃がの腹に直撃し、今度は彼自身が吹っ飛ばされる。
「っ!!」
の叫び声とも悲鳴ともつかぬ声が森に響き渡った。
ゲホゲホと咳き込みながらも立ち上がろうとするの元に、舌打ちしながらククールが駆け寄る。
すぐに彼の回復呪文を唱える声が聞こえてきた。
とりあえずは大丈夫だろう。
「っ、こいつの飛び上がってから襲ってくる攻撃には気をつけて。
ものすっごい重くて痛いから。」
「・・・よくもを・・・!!
凍てつく冷気よ、すべての息吹を止めよ! マヒャド!!」
怒りに燃え上がったが両手に突き出した扇が光を放ち始める。
光が強くなるごとに上空の雲がどんよりと暗くなっていく。
やがて空から降ってきたのは太く鋭い無数の氷の刃。
氷柱は狙い過たずアルゴングレートへと突き刺さる。
そしてそれらは意思を持っているのだろうか、細かな氷の破片を容赦なくチャゴスへもぶつける。
「うわぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
アルゴングレードが消えてなくなり、氷も姿を消した後ものた打ち回るチャゴス。
そんな彼を放ってはククールの隣で呼吸を整えているの元へ走り寄った。
「、すごいね、さすがだよ。」
「っ、もう大丈夫、平気?
私の事が心配で心配で・・・!!
でも良かった、無事で・・・。」
そう言うとは周囲の目も気にせずぎゅうっとを抱きしめた。
予想だにしない彼女の大胆な行動に驚きつつも、ぎゅっと抱きしめ返す。
ヤンガス達はずぶぬれで半ば凍傷しかけているチャゴスの存在をすっかり忘れて、2人の抱擁を暖かい目で見守っていた。
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